第9話
【いっそアリアを連れていって、フィアと話をさせろよ。
そしたら、すぐわかるだろ】
「……それは……確かにそうするのが一番いいんだろうが……」
言葉をとぎらせたウィルさんを、きょとんとして見つめる。
ディドさん以外のドラゴンにも会えるなら、私は嬉しいけど、何か問題があるのだろうか。
「なんですか?」
「……その……」
言いにくそうなウィルさんにかわって、ディドさんが答えてくれる。
【俺らドラゴンは国の防衛の要だから、竜舎には基本竜騎士しか入れないんだよ】
「あ、なるほど。
じゃあただの村娘の私を連れてくわけにはいかないよね」
【だな。
だが、そんなに気になるなら、団長権限でなんとかすればいいだろ】
「……それは、そうなんだが……」
【なら、逆に、フィアをここに連れてきて、アリアと話をさせろよ】
考えこんでたウィルさんは、小さくうなずく。
「……そうだな、それならなんとかなるだろう。
ディド、フィアにアリアのことを話して、説得してもらえるかな。
アリア、申し訳ないけど、フィアとの話の通訳も頼めるかな」
【いいぜ、俺も気になるしな】
「かまいませんよ」
「ありがとう、頼むよ」
ほっとしたように微笑んだウィルさんを見て、ふと思いつく。
「あの、これ」
横に置いてあった籠をひっぱりよせて、中から野草を一束取りだす。
食用の野草を探すついでに、一緒に摘んでいたものだ。
「これ、私がドラゴンだった頃、好きだった草に似てるものなんです。
人間が食べるには苦いんですけど、いいにおいがするから、乾燥させて部屋に飾ってるんです。
フィアに、お土産にさしあげます。
すーっとする感じだから、ちょっとは気分良くなるかも」
ディドさんが私の手元に鼻先を寄せてきて、さしだした野草のにおいをかぐ。
【へえ、確かにうまそうなにおいがするな。
ちょっと味見させろよ】
「あ、うん、どうぞ」
草の束からひとつまみ抜いて、手の平に乗せてさしだす。
ディドさんは舌先で私の手を舐めるようにして、器用に草を巻きとった。
【お、確かにすーっとする】
「でしょ?
いっぱいあるから、全部プレゼントするね。
フィアだけじゃなく、他のドラゴンさんたちにも分けてあげて」
【いいのか?】
「うん、食用じゃないし、また摘めばいいから。
あ、竜騎士団のドラゴンて、何体いるの?」
【今王都にいるのは、俺含め四体だな】
「ふうん」
話しながら同じ野草を籠の中から全部出して、スカートの上に広げる。
四つに分けると、籠の中を探って野草をまとめる用に短く切った蔓を取りだし、根元にくるくるっと巻きつけて縛った。
ディドさんに渡したいけど、持ち帰るにはこのサイズは小さすぎるだろう。
しかたなくウィルさんにさしだす。
「一体ずつに渡してあげてください」
ウィルさんは、なぜかぎこちなく笑って受けとった。
「……ありがとう」