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web拍手お礼小話①もしもアリアとディドが日系人だったら

※念の為 もう一度注意書き※


3話同時更新の残り2話(このページと次のページ)は、擬人化現代ifのSSです。

連載初期にweb拍手お礼小話にしていたもので、本編とはほぼ別物です。

タイトル通り、2人が人間で、現代の某国(英語圏の国)で暮らしている設定です。

好みに合わないと思う方は、ここでお帰りください。

目に入らないように、余白を多めに入れてあります。

大丈夫な方は、スクロールしてお進みください。








































※設定


ディド:20歳。日系人(ハーフの留学生。めちゃくちゃ頭がいい。

アリア:8歳。日系人(クォーター。日本人の祖母に日本語を教わった。

ウィル:13歳。ディドと仲がいい教授の息子。


ディドさん視点です。


☆☆☆☆☆☆☆


「やあディド、こんなところにいるのは珍しいね。どうしたの?」

 聞き覚えがある声に、読んでいた本から視線を上げる。

 軽く手をふりながら近づいてきたのは、懇意にしている教授の息子のウィルだった。

 本に視線を戻して、簡潔に答える。

「本が届くのを待ってる」

「本? 今持ってるのじゃなくて?」

「取り寄せを頼んだ本だ。

 トラックが遅れてて、後一時間ほどで着くと店長が言うから、ここで待ってるんだ」

「ああ、なるほど」

 ウィルは今いるオープンカフェから道路を挟んだ向かいの書店に視線を巡らせて、納得したようにうなずいた。

 国内でも有数の大学が近くにあるため、近隣には書店がいくつもあるが、あの店は理系の専門書だけを扱っている。

 その大学で教えている教授の家はここから徒歩十五分ほどだから、父親の使いで行ったことがあるのだろう。

「ここ座っていい?」

 ウィルは向かいの椅子の背に手をかけながらも、一応問いかけてくる。

「……ああ」

 小さくうなずくと、ウィルはほっとしたように笑って座った。

 近寄ってきたウェイトレスに、コーヒーのおかわりを注文するついでに、ウィルの分としてカフェオレを頼む。

 向かいからそそがれる視線を感じながらも、本を読み進めた。



 ウィルの父親と出会ったのは、今通っている大学だ。

 母国で十五で大学に入り、十七で卒業し、ものたりなくてこの国に留学して入った大学を十九で卒業し、更なる知識を求めて今の大学の外部聴講生となって、ウィルの父親の講義を受けた。

 俺が学びたい風工学や流体力学の研究は母国よりこの国のほうが進んでいたが、それでも対等に話ができそうだと感じたのは、ウィルの父親が初めてだった。

 講義の後、いくつかの質問をしにいって、たちまち意気投合し、次の講義をお互い休んでまで教授の研究室で話しこんだ。

 教授は講義をすっぽかしたことを後で事務局から文句を言われたらしいが、『対等に話ができる相手と出会えた喜びと興奮を小一時間語り続けたら納得してくれた』そうだ。

 だがさすがに何度も休講にするのはよくないからと、翌日大学の近くにある教授の自宅に招かれた。

 それ以来頻繁に招かれるようになり、最近は毎週土曜日の午後に訪問して、夜まで話しこむ。

 話がもりあがった時は、夕食をご馳走になり、その後も深夜まで話し続けて、泊まっていったことも何度かあった。

 必然的に教授の家族とも接触が増え、息子のウィルになぜか懐かれた。



 読み終えた本を閉じ、テーブルに積みあげた本の山の一番上に置く。

 それを待っていたかのように、ウィルが軽く身を乗りだして言った。

「ねえディド、俺に日本語教えてよ」

「断る」

 いつも通りの問いに、いつも通りに答える。

「どうして?」

「俺しか教えられないことじゃない。

 自分でテキストを買って勉強しろ。

 買う金がないなら図書館で借りろ」

「テキストって、変な日本語だから、なんかイヤなんだ。

 アニメみたいな、っていうか、普通に日本人がしゃべってるみたいな、日本語を教えてほしいんだ」

「だったら日本人を探して頼め。

 俺は日系人だが、日本語は父から教わっただけで日本には行ったことがないから、『普通に日本人がしゃべっているような日本語』はわからない」

「ちぇーっ、冷たいなあ」

 ウィルは拗ねたように言ったが、ウェイトレスがカフェオレと共にサービスだというチョコレートケーキを持ってくると、表情を輝かせた。

 笑顔で礼を言われたウェイトレスも、嬉しそうに笑って戻っていく。

 嬉しそうに食べ始めたウィルを、ちらりと見る。



 ウィルは、教授の息子にしては、頭脳も性格も普通だった。

 母親似の顔立ちは美少年らしいが、中身も母親似らしい。

 だが、ひとつのことに熱中する点は教授と似ているようで、ウィルの場合それは日本のアニメだった。

 三年ほど前にテレビで見て以来ハマりっぱなしなのだと、母親が諦めたような笑みで言っていた。

 そのせいで、教授の家を訪ねると、日本語を教えてくれとまとわりついてくる。

 面倒だからいつも断るが、毎回顔を合わせるたびに言ってくる。

 もはや挨拶代わりだ。



 次の本を読んでいると、ケーキを食べ終えて満足そうな表情でカフェオレを飲んでいたウィルが、ふと言った。

「そういえばさ、ディドって名前、日本では普通なの?

 日本人の名前って、もっと言いにくい感じだよね?」

 母国にいる時から言われ慣れている質問に、本を読み進めながら答える。

「正しくは出戸イデイドだが、英語圏の人間には発音しにくいようだから、ディドと名乗ってる」

 ウィルはきょとんとしたように俺を見て、首をかしげる。

「イ……ド?」    

「イデイド」

「イ、ディ、イ、痛っ…………ごめん、言えない」

 舌を噛みそうになって、ウィルは涙目で謝る。

「だから、ディドと呼べ」

「…………うん」

 うなずいたウィルは、カフェオレを一口飲んでから俺を見て、動きを止めた。

【こんにちは】

 同時に横から聞こえたのは、日本語だった。

 固まったままのウィルをいぶかしみながらも横に視線を流して、理由を理解した。


 

 人形が、そこにいた。

 


 いや、人形と思ってしまうほどきれいな、少女だった。

 背中の中ほどまである髪は、かすかに青みがかった銀色。

 まっすぐに見つめてくる瞳は、淡い空色。

 十歳、よりもう少し下ぐらいだろうか。

 シンプルなデザインの半そでのワンピースからのぞく手足は、白く細い。

 顔立ちが整っていることもあって、祖母が集めていたビスクドールのようだった。



【あの、あなたは、日本人、ですか】

 少女は、緊張した表情でゆっくりと言う。

 たどたどしいが、理解できるレベルの発音だった。

【いや、日系人だ。父親が日本人だ】

 意識してゆっくりと答えると、少女はほっとしたように表情をゆるませる。

【急に、ごめんなさい。

 さっき、彼が、あなたを、日本人と言った、聞こえました。

 私、日本語、話、したい、です。

 少し、私と、話す、してほしい、です。

 お願いします】

 きちんと前で手をそろえてぺこりと頭を下げた少女は、再び緊張した表情でじっと見つめてくる。

 ビスクドールのような美少女が日本人らしいしぐさをするのは、不思議な感じだった。

【なぜ、俺と、話をしたいんだ?】

 わかりやすい単語を選んで問うと、少女はうつむいて、ワンピースをぎゅっと握りしめる。

【私、おばあちゃんに、日本語、教わった、です。

 でも、おばあちゃん、前の、年、死んだ、です。

 父さんと母さんは、日本語、話す、できない。

 英語で話す、しなさいって、言う。

 でも、私、日本語、忘れる、したくない。

 おばあちゃん、忘れる、したくない。

 でも、話す、しないと、忘れる。

 だから、あなたと、話、したい、です】

 再び顔を上げて、見つめてくる大きな空色の瞳には、すがるような必死さがにじんでいた。

 その瞳を見返して、ゆっくりとうなずく。

【一時間ぐらいなら、いいよ】

 少女はほっとしたように笑った。

【ありがとう、です】

【とりあえず、座れ】

【はい】



 ななめ向かいの椅子を引いてやると、ワンピースの裾を整えてきちんと座った少女は、俺のほうを向いてぺこりと頭を下げた。

【私、アリア・レッシです。よろしくです】

【俺は、出戸風也だ】

 少女……アリアは、小さく首をかしげる。

【イデ、イド、フーヤ?】

 ウィルよりまともな発音なのは、日本語を知っているからだろう。

【そうだ、だがディドでいい】

【ディド、さん】

【『さん』はいらない】

【でも、おばあちゃん、年上の人、名前、『さん』つけるって、言いました】

 たどたどしいながらもきっぱりと言うアリアにとって、祖母の教えは絶対なのだと判断して、苦笑する。

【わかった。それでいい。

 アリアは、今何歳なんだ?】

【私、もうすぐ九歳、です】

【家はこの近くか?

 ここで話してて、帰るのが遅くなったら、家族に何か言われないか?】

【私の家、近く、です。

 父さんと母さん、会社で、働いてる、家、いない、です。

 私、帰らなくても、何か言う人、いない、です】

【そうか】

 うなずいて、ちらりと視線を流す。



「ウィル、そろそろ正気に戻れ」

 言いながらテーブルの下で脚を伸ばして、ウィルの椅子の脚を軽く蹴る。

「っ、えっ!?」

 瞬きも呼吸もしていないかのごとく固まってアリアを見つめていたウィルは、ようやく我に返ったのか、せわしなく俺とアリアを見比べる。

 不思議そうな視線をアリアに向けられて、真っ赤になった。

「あああ、あのっ、ぼ、僕っ、ウィル・クローツァっていうんだ。

 き、君の名前、お、教えてくれない、かなっ」

 何度もつっかえながら言われて、アリアはとまどいながら俺を見る。

【このひと、病気、ですか】

 突然顔どころか耳まで赤くなって、怪しげな口調で話しかけられたら、警戒するのは当然だろう。

【そうかもしれないな。

 だが移らないから、気にするな】

 アリアにそう答えてから、ウィルを軽くにらむ。

「彼女の名前はアリアだ。

 俺と日本語で話をしたいと言ってるから、おまえは黙ってろ」

「え、あの、僕も、う、あ、うん、わかった……」

 ウィルは自分も混ぜてほしいと言いたいようだったが、アリアに見つめられてさらに真っ赤になって黙りこんだ。



 ホットミルクを少しずつ飲みながら、アリアは嬉しそうに日本語で話す。

 両親が共働きでほとんど家にいなかったから、同居していた日本人の祖母に育てられ、日本語も教わったという。

 年齢のわりにはおちついているのは、祖母にきちんと育てられたからだろう。

 知識欲も旺盛で、知らない言葉は意味と発音を教えてほしいとねだり、正しく発音できるようになるまで何度もくりかえしていた。

 会話していて楽しかったが、二杯目のホットミルクがなくなった頃、ちらりと腕時計を見る。

【そろそろ一時間経つし、日が暮れる。

 帰ったほうがいい】

 年長者としては、幼い子供、まして少女を、長時間ひきとめるわけにはいかない。

 アリアは哀しそうな表情になったが、すぐに姿勢を正して俺を見る。

【はい、ありがとう、ございました。

 すごく楽しかった、です】

 ぺこりと頭を下げると、長い髪がさらりと流れる。

 肩にかかった髪を指先でかきあげてやって、ついでに頭を撫でた。

【俺も、楽しかった。

 また会って、話がしたい。

 アリアは?】

 アリアは驚いたように目を見張ったが、すぐににこりと笑う。

【私も、ディドさんに、また会いたい、話したい、です】

【そうか、ありがとう。

 なら家まで送るから、その間に次に会う日を決めよう】

【はい!】

 立ちあがりながら、向かいで何か言いたそうにしているウィルに言う。

「おまえも家に帰れ」

「…………うん」

 ウィルは中学生だし、男だし、自宅までは人通りが多い道だ。送っていく必要はないだろう。

 テーブルの上の本数冊を左手に抱えて、椅子からおりたアリアの横に並ぶ。

【家はどっちだ?】

【あっち、です】

 指さして示したアリアは、何か言いたそうに見上げてくる。

 中途半端な位置で止まった手を見て、くすりと笑って本を右手に持ちなおし、左手をさしだした。

 アリアはぎゅっと俺の手を握ると、嬉しそうに笑った。

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