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書籍販売特典SS 幸せな笑顔

書籍発売から3年経った記念に、某書店の購入特典SSをアップします。


※3話同時更新の1話目です。

※注意書き※

なろう版にはない設定ですが、ドラゴンは神 力(しんりょく)という不思議パワーで色々なことができます。







 ドラゴンにとって、睡眠は暇つぶしだ。

 五百年以上という長い寿命があるのに、人間と違って生きる為に働く必要がないから、時間を持て余してしまう。

 幼体の頃は知りたいことが多く感じるからそうでもないが、成体になっておちついてくると、眠る期間がどんどん長くなっていく。

 過去には、半角近く眠り続けた者もいたそうだ。

 人間は、身体維持の為に睡眠が必要だが、病気などの体調が悪い時でなければ、半日以上眠ることはない。

 だから、基本眠らないが、たまに数日眠り続けるアリアは、やはり人間とドラゴンの中間の存在なのだろう。



 アリアが眠る時、俺はいつも自分の身体と尻尾でアリアの身体を囲んで見守る。

 アリアには『ずっとそばにいなくてもいいよ』と言われたが、やはり離れたくない。

 それに、そばにいながらでもできることはある。

 物作りだ。

 きっかけはアリアの為の家具や家作りだったが、意外と面白く、熱中してしまった。

 特に布製品は砂や土では作れないから、材料を工夫する必要がある。

 様々な方法を試した結果、繊維が多い植物を用意し、神力で加工して形を整え、最後に色を付ける方法が一番効率が良かった。

 布製品作りは時間がかかるから、アリアが眠る時だけやるようにしている。

 今回は、アリアの新しいワンピースを作ることにした。

 アリア自身は『洗濯しやすくて、長持ちして、動きやすいのがいい。模様や飾りは無駄』という実用一辺倒な考えなのに、竜騎士団からアリアに渡されたワンピースは、どれも飾りが多くて動きにくく、不満そうだったからだ。

 全体の形を真似つつも、アリアの希望に沿うように改造するのは難しく、だからこそやりがいがある。

 布は本来切ったり縫ったりすると元に戻せないが、神力で加工しているから何度でもやり直しができるし、無駄にならない。

 眠るアリアを見守りながら、とことんこだわって加工をくり返す。



 ようやく満足いくものができあがった頃、アリアが目を覚ました。

 何度か瞬きしてから、ゆっくりと身体の向きを変え、俺を見てふんわりと微笑む。

「おはよう、ディドさん」

【おはよう、アリア。気分はどうだ?】

「んー、すっきりした感じ。私、どれぐらい眠ってた?」

【六日ってとこだな】

「そっか。今回はちょっと短くてすんだね」

【そうだな】

 伸びをしながら上体を起こしたアリアの横で、俺も四つ足で立って軽く伸びをすると、再びアリアの横に寝そべる。

「もしかして、今回もずっとそばにいてくれたの? ここなら危険はないから、つきっきりじゃなくてもいいよって、眠る前に言ったじゃない」

 アリアに軽くにらまれて、なだめるようにその肩に頬をすりよせた。

【俺がそうしたかったんだよ。それに、全く動かなかったわけじゃねえ。時々は動いてた】

「ならいいけど。ディドさんも好きな時に寝てくれていい…………あれ。私、ディドさんと出逢ってから、ディドさんが眠ってるのを一度も見たことない」

 愕然とした表情で見上げられて、そうだったかと考えてみる。

【そういやそうだな。だが、元々俺は南大陸ではあまり眠ってねえぞ】

「え、どうして?」

【ドラゴンの睡眠は、ほぼ暇つぶしの為だろ。南大陸じゃあ面白いことが色々あるから、眠くならなかったんだよ。せいぜい年に一度、数ヶ月眠るぐらいだった。おまえと出逢う少し前に半年ほど眠ったから、当分は眠らねえだろうな】

「そうなんだ……」

【それに、おまえと出逢って以来、眠気を感じねえんだ。一瞬たりともおまえから目を離したくないし、おまえと共に過ごせる時間を大事にしたいからな】

「……私も、同じように思ってるのに、私だけ睡眠が必要なのは、なんだか悔しいな」

 アリアは言葉通り悔しそうな表情で、俺の首に腕を回してぎゅっと抱きついてくる。

【強くなったとはいえ、おまえの身体はあくまでも人間だ。無理はするなよ。食べたくなったら食べて、眠くなったら眠るのが一番だ】

「…………うん。わかってる」



 しばらくそうしていたアリアは、何かをふっきるように勢いよく俺から離れて立ちあがった。

「ディドさんも、無理はしないでね」

【おう。ところでこれ、完成したんだ。見てみてくれ】

 話題を変えるように、背後に置いてあったワンピースを着せた人形を風で浮かせて、アリアの前に持ってくる。

「え? 私の、人形?」

 驚いたように言うアリアを見て、そういえば見せたことはなかったかと気づく。

【そうだ。寸法を合わせるのと、髪や肌の色と服の色がなじむか確認する為に、砂を固めて作ったんだ】

 いつも見ているし何度も造っているから、今回の人形は細部まで完璧に再現出来ている。

 アリアは驚いた表情のまま人形を見つめ、その周囲を回り、また正面から見つめる。

 やがて小さく息をつくと、しみじみとした口調で言った。

「私って、こんな顔なんだね」

【鏡で見たことあるだろ?】

「あるけど、たいていは髪の寝ぐせ直しの為だから、顔はそんなにしっかり見ないし、そもそもあの鏡、ちょっと歪んでるもの」

【そういやそうか】

「うん。だから不思議な感じ」

 言いながら俺を振り向いたアリアと人形を見比べて、思わずため息をつく。

【良い出来だと思ってたが、やっぱり並ぶと『真似』でしかねえとはっきりわかるな。本物のおまえはもっと柔らかい表情だし、もっと幸せそうだ】

 外見は完璧に仕上げたが、内側からの輝きまでは再現できていなかった。

 まだまだ工夫が必要なようだ。

「そうなの? 私にはわからないけど」

 アリアは首をかしげながら俺と人形を順に見て、苦笑いを浮かべる。

「故郷にいた頃に桶の水に映った私は、もっと暗い顔してたし、笑ったこともなかった。今の私が幸せそうに見えるなら、ディドさんのおかげだね」

 故郷の村でのことはあまり詳しく教えてくれなかったが、幸せとは無縁の生活だったようだ。

【そうか。これからもっと幸せにしてやるからな。まずはこれを着てみてくれ】

 人形を砂に戻し、ワンピースを風で浮かせてアリアの手元に持っていく。

「うん」

 その場で手早く着替えたアリアは、腕を上げたり下げたりし、数歩歩くと、くるりと俺を振り向く。

「すごく肌触りがいいし、動きやすい。ありがと、ディドさん」

 そう言って笑うアリアの笑顔は、人形では再現できない幸せに輝いていた。 

※同時更新の残り2話は、擬人化現代if設定のSSです。

 好みに合わないと思う方は、【次へ】に進まずに、ここでお帰りください。

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