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エピローグ


 リーツァ王国を出た私たちは、北大陸に向かった。

 私の『家』と、竜舎をばらした木材も持ってきている。

 二度と戻らないという意思表示のために竜舎を壊したけれど、北大陸で加工された木材がほしくなった時に用意するのは面倒だから、ついでにもらっていこうと、ディドさんが風でばらしたのだ。

 まとめて風でくるんで運ぶのは、ディドさんにとっては簡単なことだった。


 無事北大陸に着いた私たちは、いったん私が住んでいた風の里に向かった。

 風の里がある山の麓の平らな場所に私の『家』と木材を置いて、風の膜で保護してから、里に挨拶に行く。

 セリオが話をしてくれていたおかげで、驚かれながらも好意的に受け入れられて、安心した。

 王都にいた砂の一族が全員ひきあげたことと、そうなった原因を話し、南大陸では人間に見つかるとすごく面倒なことになるから、決して人間に見つからないようにしてほしい、とも伝えておいた。

 そのために便利な『中のものが見えなくなる風の膜』をディドさんが教えると、みな面白がっておぼえて試していた。


 マリノは木の一族の里にいるとセリオに教えてもらい、そちらにも行った。

 彼女と話しあいをして、伴侶の誓いをたてたと、マリノが照れながら教えてくれた。

 伴侶になったソニアは、無邪気に喜んで私を迎えてくれた。

 人間のような嫁姑問題はドラゴンにはないけれど、うまくやっていけそうで良かった。

 こちらでも風の里でしたのと同じ説明をした。


 ついでだからと、湖に住む水の一族にも挨拶して話をしてから、ディドさんの故郷である砂の里に行った。

 先に戻っていたフィアたちと再会できて嬉しかった。

 砦にいたドラゴンたちも全員戻ってきていて、しばらく里でのんびりすると笑っていた。


 すべての里に話を通してから、改めてディドさんと一緒に北大陸を見て回り、風の里と砂の里の中間あたりの広大な森のほとりを住処に選んだ。

 なるべく環境を変えないよう開けたところを整地して、私の『家』を置く。

 今の私では、ほとんどの設備は不要になったから、『家』はなくてもいいと思ったけど、年を取ったらどうなるかわからないとディドさんに言われたから、道具や家具もそのまま置いてある。

 今のところは椅子すら使わず、外で寝そべるディドさんの尻尾に座っておなかにもたれさせてもらういつもの姿勢だ。

 たまに寝る時は、もちろんディドさんの背中で寝かせてもらう。





「のんびりできるようになって、よかった」


【そうだな】


 故郷の村にいた頃は生きるために一日中働いていたから、王都にいた頃はのんびりすることに抵抗があった。

 けれど今は、ドラゴンの時間感覚が戻ってきたのか、こうやってのんびりするだけの時間がすごく幸せに感じる。

 ふたりきりでも暇をもてあますことはないし、たまに知りあいが訪ねてきてお喋りするのも楽しい。


 里の長老には、かつてのドラゴンの生活について教えてもらった。

 若者には、人間の生活の詳しい話をせがまれた。

 南大陸をこっそり旅して果物を土産にやってきたセリオは、リーツァ王国がかつて吸収した国と内乱になったり、周辺国と関係が悪化しているという話をしてくれた。

 ウィルさんたちへの決別の言葉は、ディドさんが風を操って王都中に響かせてくれたから、王太子が情報を隠そうとしても無駄で、ドラゴン不要派は勢いづいているだろう。

 戦争になって人間が勝手に減っていってくれるなら、ありがたいことだ。


 だれかとお喋りするのは楽しいけれど、やはりディドさんと一緒にいられる時が、一番幸せだ。

 ドラゴンだった頃の伴侶のナリオとも、一緒にいた時間は長かったけれど、今ほどの幸福感はなかった。

 おそらく感情的な面ではまだ人間としての影響があって、あまり感情的にならないドラゴンの頃よりも幸せに感じるのだろう。

 ただ黙って一緒にいるだけでも、幸せだ。


【なあ、アリア】


「なあに? ディドさん」


【愛してるぞ】


 優しい声で言いながら、ディドさんがごく軽く頬をふれあわせる。

 言葉にしなくても伝わるけれど、あえて伝えてくれることが嬉しい。


「私も、愛してる」


 くすくすと笑いあうと、ふいに子供の頃に母が語ってくれたお伽話の一節を思い出した。






 そしてふたりは、いつまでも幸せに暮らしました。


 めでたしめでたし。

これにて完結です。

おつきあいありがとうございました!


――――――――――――――――――――

第四章1話のディドさんの出発をアリアが見送るシーンがまるで新婚さんのようだと思ったら、妙なネタが降ってきました。


ディドさん(40歳)は自分で興したIT企業の社長でお金持ち、趣味でフルーツパーラーも経営。

アリア(18歳)は孤児で、成人して孤児院を追いだされ、貧乏でバイト三昧。

二人はある日運命的な出会いをして、紆余曲折の末に結婚。

家族がほしかったアリアは、ディドさんの家族との同居を喜ぶ。

義父のネィオ(縁側が似合うおじいちゃん)、義妹のフィア(出産のため里帰り、夫のルィトは単身赴任中)、義弟のキィロ(やんちゃな中学生)と、毎日にぎやかでらぶらぶな日々。

ウィルは、…………社長秘書(ディドさんに憧れつつアリアに片思い)とか(笑)。


上記ネタを元にセルフパロディ『少女と社長と子守唄』の連載を始めました。

アリアとディドさんの恋物語で、もちろんハッピーエンドです。

ディドさん擬人化・舞台が現代・ハーレクイン風ご都合展開を許容できる方は、読んでいただけると嬉しいです。

以下のURLからか、目次→作者名クリック→作品リストからお読みください。

https://ncode.syosetu.com/n3267gj/

※現在更新休止中

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― 新着の感想 ―
[一言] ドラゴン好き世界観厨大感激な話でした! 最後まで人間をミントや竹のような大量発生ウザ存在として認識して、決して交わらない異種族感覚が印象的で良かったです。竜騎士団長さんとの最後の別れ話や後日…
[一言] 一気読みしました。 素晴らしい内容です。 なんちゃってファンタジーとは言いますが、エンターテイメントとしてほどよくファンタジー観を絡めて実に読みやすく、展開が飽きないものでモヤモヤさせずにス…
[一言] 意外なエンディングで面白かったです。 ウィルさんが当て馬にもならなさすぎてやや気の毒ではありましたが。でも優柔不断な男はいかんよね。
2020/07/17 23:07 退会済み
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