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【書籍化・完結済】少女とドラゴンと旋風(つむじかぜ)  作者: 香住なな
第一章 湖のドラゴン
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第4話

 深呼吸してから、ドラゴンを見つめてゆっくり言う。


「私、今は人間ですけど、前世はドラゴンだったんです。

 その記憶が今も残ってて、ドラゴンの言葉を話すことはできないけど、あなたの言葉を理解することはできます」


【へえ、そりゃ珍しいな。そんなことがあるもんなんだな】


「私も、驚きました」


 言葉をかわしながらゆっくりと歩いて、ドラゴンに近づく。

 私の二倍以上の高さがある巨体だから、近づきすぎると顔が見えなくなる。

 ちょっと離れたところで止まって、また深呼吸する。

 腕に野草を入れた籠をひっかけたままだったのを思い出して、足下に置いて、姿勢を正した。


「改めて、ご挨拶を。

 私は風の一族のシェリャンフェアリア、だった者です。

 砂の一族の方にお会いできて光栄です。

 今は翼と尻尾がありませんので、このような形でご容赦ください」


 両膝をつき、頭を下げ、右手を膝の横に添える。

 翼をきちんとたたみ前に回した尻尾の先に右手を添えるのが正しいドラゴン式の挨拶だけど、今はどちらもないからしかたない。


【おう、丁寧にありがとよ。

 俺は砂の一族のテャリンジルディドだ。

 人間どもにはディドと呼ばれてるから、嬢ちゃんもそう呼んでくれ】


 ディドさんも、ドラゴン式の挨拶を返してくれた。


【嬢ちゃん、今の名前をアリアだと言ってたな。

 俺たちは強く念じることで、他の生き物にある程度意思を伝えられる。

 俺の名前はそうやって竜騎士どもに伝えたんだが、嬢ちゃんもそうやったのか?】


「はい。

 なにしろ赤ん坊の頃のことなので、はっきりとはおぼえてないんですが、両親が私の名前を考えている時に、念じて伝えたようです。

 今でも、単語程度なら伝えられます」


 いつだったか、母が『あんたの名前を考えてたら、急に頭の中にアリアって浮かんできたのよ』と言っていた。

 その話を聞いてから試してみたら、人間でも動物でも、念じて伝えることができた。

 人間なら、作業に集中してる子に『疲れたな』と伝えて意識を外に向けさせてから、休憩を促すとか。

 動物なら、暴れてる子に『おとなしくして』と伝えてから押さえこむとか。

 人間相手だと声に出したほうが早いから、あんまり意味ないけど。


【なら、記憶だけじゃなく、力もちょっとは残ってんのか】


「そうかもしれません」


【ふむ……】


 ディドさんはじっと私を見つめていたけど、ゆっくり頭をおろして、私に鼻先を近づけてきた。

 縦長の瞳孔の瞳は体色と同じ砂色で、深い知性を感じさせた。


【ほんのわずかだが、ドラゴンの気配があるな。

 力も残ってんなら、当然かもしれねえが】


「そうですか?」


 思わず自分の身体を見回したけど、よくわからない。


【おうよ。

 おい、そんな堅苦しい話し方すんなよ。

 普通に死んだんなら、今四角(よんかく)の俺より年上だろ】


「死ぬ前のことは、あまりおぼえてないんです。

 四角半ばは越してたんですけど。

 でも、今の私は、生まれてから十七年しか経ってない小娘ですから」


 ドラゴンの社会では、上下関係はあまりないけれど、年長者は敬う。

 種族が違うとはいえ、生きた年数はディドさんのほうがはるかに年上だ。

 人間の平均寿命が五十年、ドラゴンの平均寿命が五百年だから、人間に換算すればディドさんは四十歳前後で、やはり年上だから、同年代に話すようにはできない。


【ドラゴンとしてなら俺より上だったなら、あんま気にすんな。

 堅苦しいのは好きじゃねえんだよ】


 そう言われてしまうと、なんだか申し訳なくなってくる。

 ドラゴンとしては、年上。

 人間としては、年下。

 さしひきして、対等、でもいいだろうか。


「……じゃあ、普通に話しても、いいかな」


 おそるおそる言うと、ディドさんはにやっと笑う。


【おうよ、それでいいぜ。

 ところでよ、頼みがあるんだが】


「なあに?」


【後ろで隠れて様子うかがってんのが、俺の竜騎士のウィルって奴なんだが、ちょっと通訳してくれねえか】


「え?」





 ディドさんが鼻先で示す方向をふりむくと、木々の間にまぎれた人影があった。

 

 

ディドさんは、口は悪いけど面倒見はいいチョイ悪系イケオジですw

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