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【書籍化・完結済】少女とドラゴンと旋風(つむじかぜ)  作者: 香住なな
第三章 竜騎士団
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第7話

 

【もうちょい念押ししとくか。

 おーい、ネィオ、キィロ、俺たちの話は聞こえてたか?】


 ディドさんが首をまっすぐ上に伸ばし、少しだけ声を大きくして問いかけると、すぐ返事があった。


【ああ、だいたいは聞いとったよ】


【聞いてたよー】


 ネィオさんがおっとりと、キィロが幼い口調で答える。


【んじゃ、アリアがここに住んで幼生と俺らの世話をする、よけいな手出しするなら全員でこの国を出て行くってえ俺の意見に賛成か?】


【いいんじゃないかのう。

 幼生は守ってやらにゃいかんからのう】


【ボクもそう思うー】


【ありがとよ、ならウィルに俺の意見に賛成だって伝えてやってくれや。

 順番にな】


【わかったわい】


【いいよー】


 ディドさんたちの会話の邪魔にならないように小声で通訳してると、ふいにウィルさんがぴくっと身体をこわばらせて、ネィオさんやキィロがいるほうを見た。

 二体から、意思が伝わってきてるのだろう。

 ネィオさんとキィロの力がなんとなく感じられたけど、キィロのほうは少し力が強くて、ウィルさんは一瞬顔をしかめた。


【キィロ、相変わらず加減がヘタだな。

 もっと弱くしねえと、人間どもには聞き取れねえぞ】


【……ううー、人間は弱っちいから、難しいんだよー】


 ディドさんの指摘に、キィロが拗ねたような声で言う。


【もうちょい練習しろや。

 んじゃ後は俺がまとめるわ、ありがとよ】


【ほっほっ、かまわんよ】


【よろしくねー】


 二体との会話を終わらせて頭をおろしたディドさんは、ウィルさんを見る。


【ネィオとキィロの、俺の意見に賛成って意思は、ちゃんと伝わったか?】


「……ああ」


【フィアと幼生は今眠ってるから省くが、賛成だろう。

 つまり、アリアを世話係にしてここに住まわせるのは、俺ら全員の要求だってことだ。

 王太子どもが反対したら、そう言え】


「……わかった」


【ついでに、俺らがここにいる本当の理由も教えてやる。

 アリア、話してやれ】


「うん」


 ディドさんたちがここにいる理由が果物だという話をすると、ウィルさんは今日一番驚いたようだった。


「……そんな、理由、だったなんて…………」


【だから、俺らはこの国にたいして執着はない。

 アリアもそうだと言ってるから、人間どもの態度によっては、さっき言ったように全員でこの国を出ていくからな。

 砦に行ってる奴らがどう判断するかはわからないが、ルィトは当然ついてくるだろう。

 五体同時にいなくなられたくなかったらよけいな手出しをするなと、王太子どもに念押ししておけ】


「……………………わかった」


 ウィルさんはうなずいて、がっくりうなだれた。

 やっぱり、本当の理由はショックが大きかったみたいだ。


【話をまとめるぞ。

 フィアの調子が悪くなって、人間どもを近づけたくないから、俺が竜舎に風の膜を張った。

 だが世話係は必要だから、以前巡視中に偶然会って意思が伝わりやすくて気に入ったアリアを連れてきた。

 フィアの調子が良くなるまで、アリアとウィル以外の人間は竜舎に出入りさせない。

 アリアはウィル付き専属侍女として雇われ、相応の給金をウィルが払う。

 アリアの仕事は俺らの世話だけで、合間にウィルたちの質問に答える。

 それ以外のことをさせる時は、事前に必ず俺立会いの元でアリアに説明し意見を聞く。

 アリアの『家』は竜舎の中に、そこだけで暮らせる設備のものを、竜騎士団の予算で用意する。

 これらは王都にいるドラゴン四体の総意で、人間どもが認められないと言うなら、全員でこの国を出ていく。

 俺らがここにいる理由は、王太子どもに話しておけ。

 いわば取引で手を貸してるだけだってことを、はっきりとな。

 だが、フィアが幼生を生んだってことと、アリアにドラゴンの記憶と力があって会話できるということは、誰にも、王太子にも言うな。

 わかったか?】


「……………………わかった、ディドの言う通りにするよ」


 ウィルさんは、うなだれたままうなずいた。


【よし。

 そういやアリア、『家』ができるまでの間はどうすんだ?

 その間だけでも兵舎に寝泊りするか?】


 ディドさんの問いかけに、しばらく考える。


「そんなに長くかからないだろうから、わざわざ部屋を用意してもらうのはもったいないかな。

 幼生が心配だし、毛布もらえたら、フィアの隣の仕切りで寝泊りするよ」


 村で使っていたベッドは板の台の上に藁を敷いてシーツをかけただけだから、砂のほうがやわらかいかもしれない。

 ドラゴンの力の名残りで私の身体は鍛えてる男の人よりも丈夫だから、数日砂の上で寝泊りしても風邪を引きはしないだろう。


【何言ってんだ、いくらおまえにドラゴンの力が残ってても、人間の女はひ弱なんだぞ。

 地面に直に寝たりしたら、すぐ病気になっちまう】 


 すごい勢いでディドさんが反対すると、意味を察したのかウィルさんもうなずく。


「女性にそんなことはさせられないよ。

 ここで寝泊りするというなら、せめてベッドだけでも運ばせるから、使ってほしい」


【ウィルの言う通りだ、兵舎の部屋からベッドや家具運ばせて使えばいい。

 いや、俺が風で運んでやるから、使え】


 かわるがわる言われて、諦めてうなずいた。


「…………わかった、お願いね」 

 

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