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【書籍化・完結済】少女とドラゴンと旋風(つむじかぜ)  作者: 香住なな
第三章 竜騎士団
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第4話

  

【おう、よろしく頼むわ。

 そうだ、俺もひとつ聞いときてえんだが】


「なに?」


【アリアは、この国にずっと住んでたいか?

 さっきウィルに勧誘されてた時の感じじゃあ、人が多い王都に住むのがいやなだけで、あの村を出ることは気にしてねえようだったが、この国を離れるのはいやか?

 他の国には行きたくねえか?】


 静かな問いかけの意図を考えながら、とりあえず囁き声で答える。


「この国を離れたくないっていうほど、執着はないかな。

 行きたい国があるわけでもないけど。

 言葉や文化は大陸中ほぼ共通らしいから、どこででも生きてくことはできるだろうし」


 私はレッシ村で生まれて以来、村周辺から離れたことがなかった。

 今日が生まれて初めての遠出だ。

 『行ったことがない遠い場所』という意味では、この国の街も、他の国の街も、同じようなものだ。


【そうか。

 さっき言ったように、俺もこの国を特別気に入ってるわけじゃねえ。

 だから、もし人間どもがおまえにムチャなことさせようとしやがったら、はっきり断っていいからな。

 で、俺らと一緒にこの国を出ようぜ】


 ディドさんの質問の意図がわかって、思わずちらっとウィルさんのほうを見た。


「……でも、そうしたら、大騒ぎになるんじゃない?

 フィアと幼生のこともあるし……」


 少なくとも、フィアが元気になるまでは、ここを出ていくことはできないだろう。


【フィアと幼生とおまえと、まとめて風の膜で包んで運べば、どこにだって行けるさ。

 人間どもが止めようとしてくるなら、全部吹きとばしゃいい。

 幼生のためにも、おちついて子育てできる環境のほうがいいしな】


「それは、そうだけど……」


【俺らをほしがってる国は、いくらでもある。

 つーか、リーツァ以外のすべての国がほしがってるだろう。

 この国の強さは、俺らで成り立ってるからな。

 俺らが出ていけば国がもたねえことぐらいわかってるだろうから、おまえにムチャ言いはしねえだろうが、だからこそドラゴンを増やすために、おまえを使おうとするかもしれねえ】


「…………うん」


【そうなった時は、さっき言ったようにきっぱり断って、この国を出りゃいい。

 おまえが一緒だから北大陸に戻るわけにはいかねえが、そのぶん人間との交渉を頼めるからな。

 おまえと幼生と俺たちと、全員が安心して暮らせる国を選べばいい。

 選ぶ権利は俺らにあるし、人間どもに邪魔はさせねえ】


「……そうだね」


【俺らがここにいる理由も、そのうち人間どもに話してやれ。

 俺らが力を貸すのは取引みたいなもんだとはっきりわかってれば、ムチャ言ったりしねえだろうからな】


「わかった」


 最初は、ウィルさんたちの夢を壊さないために、本当の理由は秘密にしておいたほうがいいかと思った。

 だけど、今ディドさんが言ってたように、説明しておいたほうが後々の問題が減りそうだ。

 たぶんそのうちウィルさんあたりが聞いてくるだろうから、その時に話そう。


【おう、よろしく頼むわ】


 言いながら、ディドさんは鼻先でごく軽く私の頬にふれた。


「っ!?」


 黙って私たちの様子を見ていたウィルさんが、驚いたように腰を浮かすのが視界の端に見えた。

 ディドさんは、いたずらが成功した子供のような表情でにやっと笑う。


【人間の男は、気に入ってる人間の女にこうするんだろ?

 おまえは俺のお気に入りだって、はっきりわからせとかねえとな】


 ドラゴンの愛は純粋に精神的なものだから、伴侶でも人間のようなふれあいはしない。

 なのに、ディドさんはあえて人間式の好意の示し方をしてくれた。


「…………もしかして、尻尾に座らせてくれたのも、あの大臣たちを風で押さえこみっぱなしなのも、そのため?」


 私がディドさんのお気に入りだと、私に手出しするとディドさんを怒らせると、人間たちにわからせるためなのだろうか。 

 

 じっと見つめると、ディドさんは再びにやりと笑う。


【ウィルがどう頼むかはわからなかったが、幼生が育つまで、おまえはこれから何度もここに来ることになるだろうからな。

 予防線ってやつだ】


 予想は正しかったようだ。

 確かに、これだけ特別扱いしてもらってたら、私をいじめる人はいないだろう。

 くすっと笑って、ディドさんの頬にキスを返した。


「ありがと、ディドさん」


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