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【書籍化・完結済】少女とドラゴンと旋風(つむじかぜ)  作者: 香住なな
第三章 竜騎士団
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第3話

  

 砂の一族の里がある砂漠は、北大陸で一番厳しい環境だった。

 香りの良い草も、甘い果物もない。

 最初からないから気にならなかったし、他の種族のテリトリーを荒らしにいってまでほしいとは思わなかった。

 だけどある時、里を訪れた風の一族に南大陸にも甘い果物があると聞いて、興味を持った一体が南大陸に行ってみた。


 彼が風の一族が教えてくれた果物の自生地の草原を訪れると、人間たちが今まさに戦争を始めようとしていたところだった。

 果物を踏みにじろうとしていたうるさい人間どもを、風でまとめて遠くへふっとばした。

 爪の先ほどもない小さな赤い果物を風を操って集めて、口に入れる。

 初めて感じる甘酸っぱさと瑞々しさに感動していると、一人の人間が話しかけてきた。

 『あなたは神の使いだろうか』と。

 

 人間の言葉は知らないものの、込められた意味を感じ取ることはできた。

 南大陸に住んでるドラゴンはいないけど、その上空を旅しているドラゴンは時折目撃されていて、神の使いだと言われていたらしい。  

 彼がその問いを無視して果物を食べつくし、残念がっていると、話しかけてきた人間が何かさしだしてきた。

 それは干した果物で、さっき食べた物よりは大きいものの干からびていた。

 それでも甘いにおいがしたから口に入れてみると、瑞々しさがたりないかわりに甘みが凝縮されていて、とてもおいしかった。

 それもすべて食べつくすと、人間は言った。

『その果物は、私の国でだけ育つ物です。旅の間の食料にと干してありましたが、生をそのまま食べるともっとおいしいですよ。もし私に力を貸してくださるなら、毎日その果物をさしあげると誓いましょう』と。

 果物を気に入った彼は、その申し出を受けた。

 その人間が、後にリーツァ王国を建国し、初代国王となった。


 彼は、リーツァ王国の王城に住みついた。

 彼を誘った人間は最初の約束を守り、毎日さまざまなおいしい果物を彼に自ら献上した。

 彼は時折人間の求めに応じて風を使ってやりながら、おいしい果物に満足して暮らしていた。

 そこへ風の一族がやってきて、なぜ南大陸で、しかも人間の国で暮らしているのかと聞いてきた。

 彼は果物の話をして、もし砂の一族の里に行くことがあったら『ここの果物はすごくうまいから、気が向いたら食べにこい』と仲間に伝えてくれと頼んだ。

 風の一族は、彼が献上された果物を一つもらって食べて納得し、伝言をひきうけて飛んでいった。


 しばらくして、果物の話を聞いた砂の一族の若者がやってきた。

 その直後に他国の大軍がリーツァ王国に攻めてきたけど、二体で防衛すると戦争は始まると同時に終わった。

 その若者も果物を気にいって、王城に住みついた。

 しばらくいると飽きて里に帰ったけど、若者から果物の話を聞いた者がまたやってきた。

 それを何度かくりかえし、ドラゴンが徐々に増えていき、竜騎士団が創設された。



 ドラゴンにはいくつか種族があるのに、リーツァ王国にいるのが砂の一族だけなのは、他の種族はそれほど食べ物に不自由していないからだ。

 生きるためには必要ないけど、おやつとして楽しむ草や果物は、里の近くやテリトリー内にあった。

 なかった砂の一族だけが、果物につられて南大陸に集まっていったのだ。

 砂の一族は、ほぼ一生を砂漠の里ですごすけど、好奇心旺盛で、何かに興味を持つと里を飛びだして数十年も帰ってこない変わり者も多い。

 そもそも、砂漠に住んでいる時点で変わり者なのだ。

 彼らに会った同族からこの話を聞いた時、果物につられて人間に力を貸すなんてと呆れたけど、砂の一族ならありえると納得もした。


 つまり、砂の一族は果物につられただけで、人間を気にいっているわけでも、王族を守護しているわけでもないのだ。

 






「そういえば、『戦争が起こりそうになるたびにドラゴンが現れた』って聞いたけど、それは本当なの?」


 人間の話を聞きたくなくて、人間の国に住む砂の一族の話も聞かないようにしていたから、詳しいことは知らなかった。


【いや、ありゃあ全部偶然だ。

 たまたまタイミングが合っただけで、戦争が起きたから来たわけじゃねえ。

 この国の人間どもが都合のいいように話を作って広めてるだけだ】


「やっぱり、そうなんだ……」


【おうよ。

 ちなみに、最初のドラゴン、初代国王に力を貸した砂の一族は、俺のオヤジだ】


「え、そうなんだ!」


 驚いて思わず普通の声で言うと、ディドさんはにやにや笑ってうなずく。


【おう、オヤジが変わり者だったから、俺も変わり者ってわけだ。

 確かに、ここの暮らしは快適だぜ。

 砂漠ほど乾燥してねえし、果物は探しにいかなくてもいろんな種類のを毎日食えるしな。

 かわりに時々人間を乗せて飛んでやったり、攻めてきた奴らを風で追い払ってやりゃいいんだから、楽なもんだ。

 まあたまに思いきり飛ばしたくなるが、そういう時は夜に自分だけで飛べば、すっきりするしな】


「なるほど……」


 朝ここに来る時に乗せてもらった感じだと、ディドさんは全速力の三分の一程度の速度しか出してないようだった。

 私がいたから気を遣ってくれたのかもしれないけど、たぶん人間の身体はドラゴンの全速力の飛行には耐えられないのだろう。


【この国が特別気に入ってるわけじゃねえが、他の国でいちから交渉するのも面倒だし、居ついてるんだ。

 だが最近は、国がでかくなりすぎたせいかさっきの大臣みたいなバカが増えてきて、鬱陶しくなってた。

 おまえが来てくれたら、人間どもと交渉しやすくなって助かるぜ】


 ディドさんににやっと笑って言われて、私も苦笑する。


「わかった、交渉がんばるね」 

 



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