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【書籍化・完結済】少女とドラゴンと旋風(つむじかぜ)  作者: 香住なな
第二章 王都へ
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第11話

 

 ウィルさんは優雅な手つきでカップを持って、ゆっくりと飲む。 

 男の人なのに手つきがきれいなのは、貴族だからだろうか。

 感心しながらゆっくり紅茶を飲んでいると、数口飲んだウィルさんはカップを置いて私を見た。


「……フィアと幼生のことで、いろいろ聞きたいことがあるんだが、いいだろうか」


「はい、どうぞ」


「まずは……フィアの(つの)がなくなったのは、出産したからなのかな」


「そうです。

 ドラゴンは、他の生き物を食べるかわりに世界に満ちているエネルギーを身体に取りこんで生きているので、身体がエネルギーでできてるようなものです。

 特に角は、エネルギーが凝縮されてできている、エネルギーの塊のようなものです。

 ドラゴンが何年も眠ることができるのは、角に貯めたエネルギーで身体を維持できるからです。

 幼生を生むには、その角のエネルギーを使います。

 角のエネルギーが幼生に成る……角から幼生が生まれるんです。

 だから、子供を生んだドラゴンは、みんな額の角がありません。

 私も、そうでした」


「そう、なのか……」


 ウィルさんは、驚いたような表情でうなずく。


「じゃあ、フィアの赤ちゃん……幼生が、フィアの角にからまって寝ていたのも、そういう理由なのかな」


「はい。

 角からエネルギーを吸収できるように、幼生はフィアの二本目の角にからまって寝ていたんです。

 生まれたばかりの幼生が親と違って手足がないのは、そのほうが角に巻きつきやすいからのようです。

 手足が出始めると、角から離れて背中に乗ったりしますから。

 幼生は、自分では生気を取りこめる量が少ないので、母親が送ってあげるんです。

 角がたくさんあれば、それだけエネルギーの貯えがあるってことで、幼生にあげてもそんなに消耗しないんですけど、フィアは二本目の角が伸びきってないぐらい若いから、自分の身体を維持するぶんのエネルギーも渡しちゃって、弱っちゃったんです」


「なるほど……。

 なら、『伴侶なら力を回復させられる』というのも、角に関係しているのかな」


「はい。

 伴侶どうしは、自分の角の力を相手に渡せるんです。

 これは誰でもできるわけじゃなくて、伴侶どうしか、親子だけです。

 ちなみに、伴侶どうしや親子で角に宿る力を全部渡しても、角そのものはなくなりません。

 箱の中身を取りだしても、箱は残るのと同じです。

 だから、角がなくなるのは、幼生を生んだ時だけです」


 ウィルさんはゆっくりうなずいて、紅茶を一口飲む。


「そうか……では、フィアと幼生のために、ルィトがなるべく早く戻ってこれるように手配するよ」


「ありがとうございます、お願いします」


「ああ。

 ところで、ルィトが東の砦に行ったのは二年前の夏なんだが、ドラゴンの妊娠期間はそんなに長いのかな」


「……それは……」


 ウィルさんとしては素朴な疑問だったようだけど、どうしようか。

 ちらっとディドさんを見ると、黙って私たちの話を聞いてたディドさんは、にやっと笑う。


【まあ、一応説明してやれよ。

 理解できるかはわかんねえがな】


「……うん」


 うなずいて、不思議そうなウィルさんを見つめる。


「ドラゴンの妊娠期間は、たぶん一ヶ月ぐらいです。

 ……ドラゴンの女性が幼生を生むには、伴侶の協力は必ずしも必要ないんです」


 ウィルさんはしばらく悩んでいたようだけど、困ったような表情で私を見る。


「……意味がよく理解できないんだが、今回のフィアのように、ひとりで出産するということかな」


「違います。

 さっき言ったように、角のエネルギーで幼生を生むので、幼生はある意味自分の分身みたいなものなんです。

 子供がほしい、幼生を生みたいって、自分の角に向かって強く深く念じ続けると、生まれるんです。

 伴侶と一緒にやるなら、だんなさんが奥さんの角に自分の力をそそぎながら、二人で念じることを一ヶ月ぐらい続けると、生まれます。

 そうすれば、奥さんの角はなくなるけど、幼生を生むためのエネルギー消費は半分で済みます。

 生まれた幼生にエネルギーを渡す……育てるのも、伴侶が手伝えば、やっぱり半分で済みます。

 フィアは、まだ若くてあんまりエネルギーの貯えがないのに、自分の力だけで幼生を生んで、そのうえ自分の力だけで幼生を育ててるから、あんなに疲れちゃったんです」


 そういう方法があることは知っていたし、過去にはそうやって生まれたドラゴンもいると聞いたことがあったけど、私の知りあいのドラゴンたちはみんな伴侶と協力して幼生を生んでいた。

 二角(にかく)半ばをすぎてからのほうがいいのも、伴侶と協力するのも、それだけ消耗するからだ。

 二角前のフィアが、自分だけで幼生を生むなんて、無謀もいいところだ。

 場合によっては、力を使いはたして死んでしまう可能性もあった。

 そうなったら、当然幼生も死んでしまう。

 それは、自分と幼生を殺すのと同じことだ。

 今は弱ってるからそっとしておいてあげるけど、元気になったら、なぜそんなバカなことをしたのか聞きだして、しっかりお説教しないといけないだろう。


「…………角のエネルギーが幼生になる、というのも不思議だったが、念じたら生まれるというのも、不思議というか、人間の私にはわからない感覚なんだが……」


 ずっと考えこんでたウィルさんは、自分の言葉を確かめるように、ゆっくりと言う。


「……ドラゴンの生殖方法が不思議なのは、別として。

 フィアは、出産するには若すぎたから、あんなに弱ってしまった、ということなのかな」


「まあ、そうですね」


 ディドさんと視線をかわして、こっそり苦笑する。

 やっぱり、理解できなかったみたいだ。

 それでも、フィアが弱ってる理由が出産のせいだとわかってれば、とりあえずは問題ない。


「だったら、なおさらルィトが一日でも早く帰ってこれるように手配するよ。

 それと、さっき君が言っていたように、フィアの子育てが一段落するまでは、フィアが竜騎士団の仕事をしないでいいようにもね」


 言葉を切って、ウィルさんはじっと私を見つめる。





「……アリア。

 君に、お願いがあるんだ」 

 

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