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【書籍化・完結済】少女とドラゴンと旋風(つむじかぜ)  作者: 香住なな
第二章 王都へ
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第9話

 

 ウィルさんが竜舎を出ていくと、ディドさんは軽く翼をたたんで、私を見る。


【待ってる間に、他の奴ら紹介してやるよ】


「そうだね、お願い」


 ディドさんの後をついていって、こっちの様子をうかがってたドラゴンたちに近づく。


【左側がネィオ、王都に来たのは、一角(いっかく)前ぐらい。

 右側がキィロ、王都に来たのは、半角(はんかく)よりちょい前ぐらい。

 フィアはキィロと一緒に来た】


 ドラゴンは、時間の経過も角で数える。

 ネィオさんが来たのが百年ぐらい前で、キィロとフィアが来たのが三十年ぐらい前ってことだろう。


「はじめまして、ネィオさん、キィロさん。

 私は風の一族のシェリャンフェアリア、だった者です。

 砂の一族の方にお会いできて光栄です。 

 今は翼と尻尾がありませんので、このような形でご容赦ください」


 ドラゴン式の挨拶をすると、二体も挨拶を返してくれた。


【わずかとはいえドラゴンの力を持つ人間とは、不思議なもんだのう】


 ネィオさんが、ゆったりした口調で言う。

 ディドさんと同じぐらいの立派な体格で、角は五本目が半分ぐらいだから、四百五十歳ぐらいだろうか。


【ほんとだね、他にもいるのかな。

 そうだ、ボクの名前、竜騎士たちに教えてくれてありがとう。

 おかげでちゃんと呼ばれるようになったよ。

 ボク、竜騎士たちにいろいろ言いたいことあるんだ。

 今度通訳お願いしていいかな】


 キィロが幼さの残る口調で言う。

 ディドさんより二回りほど小さくて、角は二本目がまだ短いから、百三十歳ぐらいだろう。


「いいよ、でも今日はフィアのことでいろいろ相談しなきゃいけないから、次の機会にね」


【それでいいよ、よろしくー】


【んじゃ、俺んとこで待つか。

 アリア、こっちだ】


「うん。

 ネィオさん、キィロ、またね」


 軽く手をふって挨拶して、ディドさんについていく。

 ディドさんはネィオさんの横の仕切りに入っていくと、まんなかあたりで寝そべった。

 仕切りの外側の通路部分は固められた硬い土だけど、仕切りの内側はやわらかい砂だった。

 砂の一族は砂地を好むから、深く掘りさげて砂と入れかえてあるようだ。

 ふと見ると、右手の壁に木の取っ手のようなものがついていて、そこにあの『合図』のマントがひっかけてあった。

 なんとなく指先でそれを撫でてからそっと踏みこむと、靴が少しめりこんだ。

 転ばないように、砂を踏みしめながらゆっくりと歩く。


【ああ、そのまま座ったら砂がついちまうな。

 そうだな、ここに来いよ】


 視線で示されたのは、ゆるく身体を丸めたディドさんのおなかのあたりだ。


【尻尾の上に座って俺に寄りかかりゃあ、服に砂がつかねえだろ】


「いいの? 重くない?」


【アリアの重さなんざ、俺にとっちゃああってないようなもんだ。気にすんな】


「ありがと」


 ディドさんのおなかに沿うように伸ばされた太い尻尾は、椅子ぐらいの幅がある。

 おそるおそる座ると、適度なやわらかさだった。

 そっともたれたおなかもやわらかくて、ふんわりと身体を受けとめてくれた。

 ドラゴンの時に同族とふれあったことはあるけど、人間の身体でふれると、印象が全然違う。

 不思議な安心感があった。


【座り心地はどうだ?】


 首を伸ばしたディドさんが、私の足の少し先に頭をおろす。


「やわらかくて、すごくきもちいい。

 行商人が言ってた貴族が使う羽布団って、こんな感じなのかな」


【さあな。

 ……そういや、ウィルがガキの頃に、よく俺の背中や尻尾に乗りたがってたな。

 あいつ、俺を羽布団扱いしてやがったのか?】


 イヤそうに言うディドさんを見て、思わず笑ってしまった。

 同族でも身体に乗せるのは自分の子供ぐらいだから、人間の子供にまとわりつかれたら、さぞ鬱陶しかっただろう。


「どうだろ。

 ウィルさんはディドさんが大好きみたいだから、単になついてたんじゃない?」


【俺がっつーより、ドラゴン全般だな。

 あいつのドラゴン好きは、歴代団長の中でも異常だぞ。

 たいていの奴は、鞍なしで俺に乗りたがっても、何度か拒絶したら諦めやがった。

 だがウィルは、ここに出入りするようになってから今と同じぐらいに育つまで、えんえん挑んできやがったからな】


「へえー」


 ディドさんとウィルさんが初めて会ったのは五歳らしいから、それから大人の身体になるまでだと、十年ぐらいだろうか。

 そんなに諦めないのもすごい。 


「それで、根負けして乗せてあげたの?」


【いや、毎回尻尾や翼ではたき落としてやった。

 尻尾に乗せたのは、おまえが初めてだ】


 ディドさんににやっと笑って言われて、なんだか嬉しくなった。

 私を尻尾に乗せてくれるのは、私が幼生よりも弱い人間の女の子だから、だろう。

 人間嫌いだったのに、人間に生まれてしまったことを喜んだことはなかったけど、おかげで今こうやってディドさんが特別扱いしてくれるなら、ほんの少しだけ、人間でよかったと思えた。


「ありがと、ディドさん」 


【おう。

 こうやって俺にくっついてれば、おまえに手出ししようとする奴はいねえだろうし、万が一手出ししようとする奴がいても、すぐ追いはらえるからな】


「そうだね、その時はよろしくね」 

 

【おう、任せとけ】  

 

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