第8話
ゆっくりと立ちあがって、スカートについた砂を払う。
ウィルさんをしぐさで促して、静かに歩いてディドさんがいる入口に向かった。
ディドさんの前で止まると、ウィルさんが小声で言う。
「……フィアは、大丈夫なのかな」
「眠ったので、とりあえずは大丈夫だと思います。
後は、伴侶のルィトさんが戻ってきたら、回復させられるでしょう」
同じように小声で答えると、困ったような悩むような複雑そうな表情になったウィルさんは、しばらく私とディドさんを見比べた後、小さくため息をついた。
「……すまないが、いろいろと教えてほしいことがある。
ここでは話しにくいし、竜騎士団の兵舎のほうに来てくれないかな」
「わかりました」
【ちょっと待て、俺は反対だぞ】
わりこんできたディドさんを、きょとんとして見返す。
「ディドさん、どうしたの?」
【ウィルはアリアを 団長室 に連れていくつもりなんだろ】
ディドさんに視線で促されて通訳すると、ウィルさんは小さくうなずく。
「そのつもりだよ」
【さっきの奴らみたいなバカな貴族どもがやってきて、アリアに手出ししようとしたらどうするんだ】
「その時は、私が責任を持ってアリアを守るよ」
【守りきれるのか?
権力だのしがらみだのがからんできたら、おまえでも逆らえない相手がいるだろうが】
ディドさんににらまれて、ウィルさんは視線をさまよわせる。
「それは……」
【さっきの奴らだって、止めようとはしたが、実力行使で追い出しはしなかっただろうが】
「…………」
【バカどもがアリアを貴族に対する不敬罪で捕らえるとか、逆に俺らと話せるのを利用するために拉致とかしようとした時に、おまえはアリアの村の村長に言ったように剣にかけてでもアリアを守れるのか?】
「……………………」
黙りこんでうつむいてしまったウィルさんにため息ついてから、ディドさんは私を見る。
【ウィルは人間にしちゃ強いほうだし権力もあるが、動けねえ状況になる時もある。
こいつだけにおまえを任せるのは、不安でしかたねえ。
不便かもしれねえが、俺の目の届くとこにいろ】
「……うん、わかった」
人間としての知識は私のほうがあるだろうけど、竜騎士団や貴族に関することは、長年ここで暮らしたディドさんのほうが詳しい。
ディドさんの言葉に従ったほうがいいだろう。
それに、できるだけ長くディドさんと一緒にいたい。
【よし、んじゃここにテーブルセットと茶を持ってくるようウィルに言ってくれ。
貴族の女どもが庭で茶会やってる時に使ってるやつだ。
それと、ウィルは朝メシ食え。フィアの騒ぎで食ってねえだろ。
人間は食わねえと動けねえからな】
「そうだね」
貴族の女性のお茶会の様子まで知ってるなんて、ディドさんはすごい。
感心しながらディドさんの言葉を伝えると、ウィルさんは苦笑いしてうなずいた。
「……すぐに用意するよ。
少しここを離れるけど、アリアはディドと一緒にいてくれ。
ディド、竜舎に入っていてくれ。
私が戻るまで、誰も入らないように言っておく。
アリアを頼む」
「わかりました」
【おう、任しとけ】




