第7話
深呼吸してから、両膝をつき、頭を下げ、右手を膝の横に添える。
「はじめまして、フィア。
私は風の一族のシェリャンフェアリア、だった者です。
砂の一族の方にお会いできて光栄です。
今は翼と尻尾がありませんので、このような形でご容赦ください」
ドラゴン式の挨拶をすると、フィアがゆっくりと頭を持ちあげて、ふりむいた。
その額には角がなく、かわりに丸い跡があった。
もう一本の角に、白い蛇のような幼生が身体をぐるぐると巻きつけて眠っていた。
横にいたウィルさんが何か言いかけるのをしぐさで制して、フィアの様子を観察する。
フィアは、私の予想以上に疲れているようだった。
砂色の鱗はくすんで艶がなく、私を見つめる瞳にも力がない。
首を持ちあげているのがやっとという感じで、頭がふらふらと揺れている。
幼生を生むには若すぎるとはいえ、ここまで疲れているということは……。
【……私は、砂の一族のキャルレスフィア。
人間なのに、私たちの言葉がわかるって、本当なの……?】
弱々しい声の問いかけに考えを中断して、にこりと笑ってうなずく。
「本当よ。
だからあなたと、あなたのかわいい幼生を守るための方法を、竜騎士の人たちといろいろ相談できるわ」
ディドさんと初対面の時は丁寧に話すようにしたけど、フィアは人間に換算すれば私と同い年ぐらいだし、だいぶ弱ってるから、もっと気楽に話したほうがいいだろう。
「まずは、あなたの伴侶に戻ってきてもらって、力を回復しなきゃね。
ディドさんに聞いたんだけど、あなたの伴侶はルィトさん、で合ってるかしら?」
とたんに、フィアは哀しそうな表情になる。
【そうよ、私の大切な、愛しいルィト。
だけどルィトは、砦に行ってしまったの……。
ずっと一緒にいるって言ってくれたのに、帰ってこないの……】
「それもディドさんから聞いたわ。
大丈夫、竜騎士の人に頼んで、なるべく早く戻ってこれるようにしてもらうわ」
【ルィトが、戻ってくるの……?】
「ええ。
それに、あなたも、せめて幼生が大きくなるまでは、竜騎士と働かないでいいように交渉するね」
【嬉しい、ありがとう……】
フィアはほっとしたように、かすかに笑う。
険しかった気配がゆるんで穏やかになったのを感じて、私もほっとした。
「どういたしまして。
伴侶も母親もいないのに幼生を生むなんて、不安だったでしょ。
私もドラゴンだった頃に子育ての経験があるから、なんでも相談に乗るわ」
【ありがとう、よろしくね……】
「うん。
まずは、しばらく眠ったらどうかしら。
疲れてるのに、うるさい人間がたくさん来て、よけい疲れたでしょ。
もうあなたたちには誰も近づかせないから、安心して眠ってちょうだい」
【でも……大丈夫かしら……】
不安そうなフィアに、しっかりとうなずく。
「大丈夫よ。
そうだ、心配なら、ディドさんにあなたたちのまわりに風の膜を張ってもらいましょ。
そうすれば、人間は絶対近づけないもの。
ウィルさんにも頼んでおくけど、風の膜があれば安心でしょ」
自分でできるはずだけど、今のフィアは弱りきってるから、ディドさんにしてもらおう。
ウィルさんはあまりあてにならなさそうだけど、ディドさんなら安心だ。
フィアはしばらく考えてたみたいだけど、小さくうなずく。
【そうね……ディドさん、お願いしていい……?】
【おうよ、任せとけ】
ディドさんの答えとともに、風が吹いた。
フィアの身体をふんわりと包むように、風の膜ができあがるのを感じる。
【フィアがもういいって言うまで、張り続けとくからな。
それと、俺らとアリアの声だけは聞こえるようにしといた】
「ありがと、ディドさん」
ふりむいてディドさんにお礼を言って、フィアに視線を戻す。
「フィア、私の声は聞こえるかしら」
【聞こえるわ……】
「私はいつでもここにいるわけじゃないけど、人間たちに交渉したいことがあったら、ディドさんに相談してね。
そしたら、ディドさんが私をここに連れてきてくれるから」
【わかったわ、ありがとう……】
「どういたしまして。
じゃあ、ゆっくり眠ってね」
【ええ……本当にありがとう……】
フィアはかすかに笑うと、丸めた身体の向こうに頭をおろした。




