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【書籍化・完結済】少女とドラゴンと旋風(つむじかぜ)  作者: 香住なな
第二章 王都へ
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第7話

  

 深呼吸してから、両膝をつき、頭を下げ、右手を膝の横に添える。


「はじめまして、フィア。

 私は風の一族のシェリャンフェアリア、だった者です。

 砂の一族の方にお会いできて光栄です。

 今は翼と尻尾がありませんので、このような形でご容赦ください」


 ドラゴン式の挨拶をすると、フィアがゆっくりと頭を持ちあげて、ふりむいた。

 その額には角がなく、かわりに丸い跡があった。

 もう一本の角に、白い蛇のような幼生が身体をぐるぐると巻きつけて眠っていた。

 横にいたウィルさんが何か言いかけるのをしぐさで制して、フィアの様子を観察する。


 フィアは、私の予想以上に疲れているようだった。

 砂色の鱗はくすんで艶がなく、私を見つめる瞳にも力がない。

 首を持ちあげているのがやっとという感じで、頭がふらふらと揺れている。

 幼生を生むには若すぎるとはいえ、ここまで疲れているということは……。

 

【……私は、砂の一族のキャルレスフィア。

 人間なのに、私たちの言葉がわかるって、本当なの……?】


 弱々しい声の問いかけに考えを中断して、にこりと笑ってうなずく。


「本当よ。

 だからあなたと、あなたのかわいい幼生を守るための方法を、竜騎士の人たちといろいろ相談できるわ」


 ディドさんと初対面の時は丁寧に話すようにしたけど、フィアは人間に換算すれば私と同い年ぐらいだし、だいぶ弱ってるから、もっと気楽に話したほうがいいだろう。


「まずは、あなたの伴侶に戻ってきてもらって、力を回復しなきゃね。

 ディドさんに聞いたんだけど、あなたの伴侶はルィトさん、で合ってるかしら?」


 とたんに、フィアは哀しそうな表情になる。


【そうよ、私の大切な、愛しいルィト。

 だけどルィトは、砦に行ってしまったの……。

 ずっと一緒にいるって言ってくれたのに、帰ってこないの……】


「それもディドさんから聞いたわ。

 大丈夫、竜騎士の人に頼んで、なるべく早く戻ってこれるようにしてもらうわ」


【ルィトが、戻ってくるの……?】


「ええ。

 それに、あなたも、せめて幼生が大きくなるまでは、竜騎士と働かないでいいように交渉するね」


【嬉しい、ありがとう……】


 フィアはほっとしたように、かすかに笑う。

 険しかった気配がゆるんで穏やかになったのを感じて、私もほっとした。


「どういたしまして。

 伴侶も母親もいないのに幼生を生むなんて、不安だったでしょ。

 私もドラゴンだった頃に子育ての経験があるから、なんでも相談に乗るわ」


【ありがとう、よろしくね……】


「うん。

 まずは、しばらく眠ったらどうかしら。

 疲れてるのに、うるさい人間がたくさん来て、よけい疲れたでしょ。

 もうあなたたちには誰も近づかせないから、安心して眠ってちょうだい」


【でも……大丈夫かしら……】


 不安そうなフィアに、しっかりとうなずく。


「大丈夫よ。

 そうだ、心配なら、ディドさんにあなたたちのまわりに風の膜を張ってもらいましょ。

 そうすれば、人間は絶対近づけないもの。

 ウィルさんにも頼んでおくけど、風の膜があれば安心でしょ」


 自分でできるはずだけど、今のフィアは弱りきってるから、ディドさんにしてもらおう。

 ウィルさんはあまりあてにならなさそうだけど、ディドさんなら安心だ。

 フィアはしばらく考えてたみたいだけど、小さくうなずく。


【そうね……ディドさん、お願いしていい……?】


【おうよ、任せとけ】


 ディドさんの答えとともに、風が吹いた。

 フィアの身体をふんわりと包むように、風の膜ができあがるのを感じる。


【フィアがもういいって言うまで、張り続けとくからな。

 それと、俺らとアリアの声だけは聞こえるようにしといた】


「ありがと、ディドさん」


 ふりむいてディドさんにお礼を言って、フィアに視線を戻す。


「フィア、私の声は聞こえるかしら」


【聞こえるわ……】


「私はいつでもここにいるわけじゃないけど、人間たちに交渉したいことがあったら、ディドさんに相談してね。

 そしたら、ディドさんが私をここに連れてきてくれるから」


【わかったわ、ありがとう……】


「どういたしまして。

 じゃあ、ゆっくり眠ってね」


【ええ……本当にありがとう……】


 フィアはかすかに笑うと、丸めた身体の向こうに頭をおろした。 

  

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