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【書籍化・完結済】少女とドラゴンと旋風(つむじかぜ)  作者: 香住なな
第二章 王都へ
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第5話

 先におりたウィルさんが、私の腰を両手で持ってふわりと地面におろしてくれた。


「ありがとうございます」


「いや、無理な姿勢だったから、身体はつらくないかな」


「大丈夫です」


 確かに横向きでちょっと安定悪かったけど、ディドさんが風の膜でやわらかく包んでくれていたし、ついでにウィルさんも支えてくれていたし、平気だ。


「そうか、だったら着いてすぐで悪いけど、フィアと話をしてもらえるかな」


「はい」


「ディドは、悪いがここで待っていてくれ。

 マイク、ディドに水と果物をやってくれ」


「はい!

 ……あの、団長……」


 ウィルさんが近づいてきていた竜騎士らしき若い男の人に言うと、二十歳ぐらいの男の人はぴしっと敬礼して答えた後、悩むような表情になる。


「なんだ?」


「……実は、さきほど、軍務大臣とおつきの方がおいでになりまして……」


 ウィルさんはちょっと眉をひそめて、男の人に向きなおる。


「……竜舎に入れたのか?」


 静かだけど、どこかとがめるような問いかけに、男の人は気まずそうな表情で視線をそらせて小声で言う。


「……団長が戻られるまで誰も入れるなとのご命令だと説明したんですが、『私は近衛騎士団総帥たる王太子殿下の代理だ』と言われると、拒みきれず……申し訳ありません」

 

「…………わかった。

 私が話を」


 【近づかないでっ!】


 ウィルさんの言葉を遮るように、目の前の大きな建物から、咆哮のような叫び声が聞こえた。


「今のは……フィア?」


 私のつぶやきに、ウィルさんがびくりとして、走りだす。

 あわてて後を追って、目の前の建物に入った。

 どうやらこれが竜舎らしい。

 馬小屋をものすごく大きくしたような造りだった。

 建物の右寄りの扉のない開口部が入口で、そこから奥のつきあたりの壁まではまっすぐ何もなくて、左側は壁でいくつかに仕切られていた。

 手前二つと一番奥はあいていて、奥から二つめの仕切りの前に十人ほどの人間がいるのが見えた。


「フィアは調子が悪いんです、近づかないでください!」


 ウィルさんが走り寄りながら叫ぶ。


「わかっておる。

 だから、私が直々に調べにきたのだ」


 一番前にいた立派な服と顎鬚の中年の男が、偉そうな口調で言う。


「私たちにドラゴンの診察はできません。

 だから、ドラゴンたちの指示に従うしかないんです。

 今もしきりに『近づくな』と言っているでしょう」


「私には何も聞こえんよ」


「……あなたには聞こえなくても、私には聞こえるんです」


 ドラゴンは強く念じて意思を伝えることができるけど、受け取る側によっては理解できないこともある。

 走りながらちらっと見ると、まんなかの仕切り二つに、それぞれドラゴンがいた。

 通りすぎる私を興味津々の表情で見ている。

 挨拶をしたいけど、今はそんな余裕はない。

 ウィルさんの背後に追いつくと、ウィルさんと言いあいをしてた髭の男が、じろっとにらんできた。

 この男が大臣らしい。ということは高位貴族のはずだけど、気品は感じられず、かわりに傲慢さが視線にも顔つきにもにじんでいた。


「なぜ竜舎に平民の小娘がいるんだ。

 ここは選ばれた者しか入れない場所だぞ、今すぐ追い出せ」


「はい」


 大臣がくいっと顎先で私を示すと、その背後にいた部下らしき男が短く答えて、私に近づいてくる。

 だけど、ウィルさんが私を背中にかばうように、その人との間に身体を滑りこませた。

 私は村の女の子たちの中では背が高いほうだけど、ウィルさんは私より頭一つぶんぐらい高いし、細身だけどしっかりした身体つきだから、広い背中しか見えなくなる。


「彼女は、ルーステッド領レッシ村の娘で、アリアです。

 私が連れてきました」


「なんのためにだね」


「それは、……部外者にはお話できません」


「なっ……私は軍務大臣だぞ!

 王太子殿下がご不在の今は、近衛騎士団の全指揮権を委譲されておる!

 竜騎士団長で、クローツァ公爵家の次男であり、伯爵位を持つといえど無礼だぞ、ひかえろ!!」


「軍務大臣といえど、国の守護者たるドラゴンに無礼は許されません。

 大臣こそ、ひかえていただきましょう」


 ウィルさんの背中越しに聞こえる大臣のどなり声は、すごく怒っているようだった。

 答えるウィルさんの声は、やけに静かで、だけど強かった。

 それが気に入らなかったようで、大臣はさらに叫ぶ。 


「ええいうるさい、とにかくあのドラゴンに異常があるというのなら、調べればいいのだ!

 おいおまえたち、あのドラゴンをひっぱりだせ!」


 ウィルさんの背中からそっと顔を出してのぞくと、大臣の背後にいた男たちが、困ったように顔を見合わせていた。

 ドラゴン相手に力ずくなんて、無意味だ。


 フィアの様子をうかがうと、こちらに背を向けて身体を丸めていた。

 顔は見えないけど、険しい気配が伝わってくる。

 今近づいたら、間違いなく攻撃される。

 ドラゴンは戦いを好まないけど、戦えないわけじゃなく、同族を守るためなら戦うのだ。

 まして幼生を守ろうとする母親は、容赦しない。

 それで彼らがどうなろうとかまわないけど、攻撃したら、フィアがよけい弱ってしまう。

 

「わしの命令が聞けんのか、早くしろ!」


 大臣が、男たちをどなりつける。


「は、はい」


 その声に急かされたように、男たちがフィアに近づこうとする。


「近づかないで!」


 それを遮るように、フィアとの間に両手を広げて立ちふさがった。

 

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