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【書籍化・完結済】少女とドラゴンと旋風(つむじかぜ)  作者: 香住なな
第二章 王都へ
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第4話

 

 うなずいたウィルさんは、真剣な表情で黙りこむ。

 ルィトさんを呼び戻す段取りを考えているのだろう。

 高位貴族で竜騎士団長という肩書きがあればなんでもできそうだけど、さっきの答えからするとそうでもないみたいだ。

 そういうむだな権力争いをしたがるところも、私が人間を嫌いな理由のひとつだ。

 内心ため息をついてから身体を斜めにして前方を見て、目を見開く。


「王都……」


 視界のはるか先の平野に、大きな街が広がっていた。

 建物はまだ麦粒のようだけど、街の中央にある城ははっきりと見えた。


【アリアは王都に来たことあんのか?】


 私のつぶやきが聞こえたのか、ディドさんがちらっとふりむいて問いかけてくる。


「ドラゴンだった頃に近くを通ったことはあるけど、下りたことはないよ。

 このあたりは、セリオがお気に入りだったな。

 あ、セリオって、私がドラゴンだった頃の友達の風の一族なんだけど、ディドさんはセリオに会ったことある?」


 風の一族は世界中を巡っているけど、たいてい決まったコースがあった。

 私は北大陸の里から、南大陸の外周を巡るように飛ぶのが好きだった。

 端のあたりは、人がまだほとんど住んでいなかったから。

 南大陸の北端のリーツァ王国付近は、私より一角(いっかく)、百歳ほど年下のセリオがお気に入りのコースだった。

 人間は好きじゃないけど、人間が造る建物は面白いと言っていた。


【おう、あるぞ。

 王都に来るのは、ほとんどあいつだな。

 しばらく前にも来たぞ】


 ドラゴンの『しばらく』だから、おそらく数年前だろう。

 

【そういや、久しぶりに飛んだ気分はどうだ?】


「すごくきもちいい。

 ねえディドさん、ちょっと風の膜をゆるめてもらえる?

 自分で風を感じてみたいな」


 ドラゴンが空を飛べるのは、翼の力ではなく、風を自由に操れるからだ。

 翼は、風を制御するのに使う。

 風を操れば、風より速く飛ぶことも、大きな物を吹きとばすことも、物のまわりに巡らせて包むこともできる。

 かなりの速度で飛んでいるのに、身体に風が当たらないのは、ディドさんが私たちのまわりに風の膜を張ってくれているからだ。

 ドラゴンだった頃は風の膜を視認できたけど、人間になった今は何も見えない。それでも、ドラゴンの力の名残りか、感じとることができた。

 ディドさんが気を遣ってくれてるのはわかるけど、自分の翼じゃないとはいえ久しぶりの飛行だから、風を肌に感じて、もっと実感してみたい。


【あー、きもちはわかるが、今は我慢しとけ。

 けっこう速く飛んでるからな、風の膜がねえとおまえら吹きとんじまう】


「そっか、そうだね。

 じゃあ、帰りならいい?」


【おう、そん時ゃのんびり飛んで楽しませてやるよ】


「ありがと、楽しみにしてる」


 くすっと笑って、ふと視線に気づくと、ウィルさんが何か言いたそうな表情で私を見ていた。


「なんですか?」


「……ディドと、どんな話をしていたのかな」


「ああ、えっと」


 簡単に伝えると、ウィルさんは驚いたようにまわりを見回す。


「風の膜……そうか、そういうことだったのか……。

 ドラゴンに乗って飛ぶと、馬に乗っている時のような風の抵抗を感じないのが疑問だったが、ドラゴンの不思議な力の作用だと思っていた……」


 ウィルさんはドラゴンが大好きで小さい頃から竜舎に出入りしていたらしいのに、そんなことも知らなかったなんて、呆れてしまう。

 人間は好奇心が強いけど、理解が及ばないものは『不思議』で片づけてしまうから、知性が発達しないのだろう。


「風の膜を作るのはドラゴンだから、ドラゴンの力ってことで合ってますよ」


 呆れながらも言うと、ウィルさんは我に返ったように私を見る。


「……そうだな、だが、はっきりとはわかっていなかったんだ。

 竜騎士団が長年研究してきたことが解明されて、ありがたいよ」


 そう言うウィルさんは、嬉しいような困ったような悔しいような、複雑な表情をしていた。


【そろそろ下りるぞ】


 ディドさんの声に視線を前方に向けると、いつの間にか視界いっぱいに城が広がっていた。

 城の左手側にまわりこみ、ひらべったい大きな建物の脇の空き地に、ふわりと着地した。

  

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