第3話
「……あの、話を続けてもいいですか?」
小声で確認すると、ウィルさんははっとしたように私を見て、苦笑する。
「ああ、すまない。聞かせてくれ」
「はい。
さっきはわかりやすく『赤ちゃん』て言いましたけど、私たち……ドラゴンは、生まれたばかりの子供を『幼生』と呼びます。
だから、ウィルさんたちには意味がうまく伝わらなかったんだと思います」
「なるほど……」
「幼生は、前脚も後ろ脚も翼もなくて、身体は真っ白で、蛇みたいな細長い身体つきです。
生まれてから一年ぐらいはずうっと寝てて、その間に親と同じ身体つきや体色になります。
その後は少しずつ大きくなっていって、半角で親の半分ぐらい、一角で親より二回り小さいぐらいに育ちます。
幼生はすごく小さくて弱いので、半角になるぐらいまでは、母親は誰かが幼生に近づくのをすごく嫌がります。
近づくのを許すのは、伴侶……人間でいう旦那様ですね、それと自分の母親ぐらいです。
もし無理やり近づいたら、容赦なく攻撃されます。
ドラゴンは同族を大切にするし、子供はもっと大切にするので、幼生に手出ししようとしたら母親のフィアだけじゃなくドラゴン全員から攻撃されたでしょう」
「そうか……ディドが止めてくれてよかった……」
ウィルさんは、なんとなく青ざめながらつぶやく。
「……リーツァ王国が建国されてから今まで、十七頭のドラゴンが訪れたが、そのどれもが成体だし、性別もないと思われていたから、まさか出産するなんて思わなかったよ」
「そうですね、私も驚きました。
本来、幼生を生むのは二角半ば、二百五十歳をすぎてからなんです。
二角前で幼生を生んだって話は、初めて聞きました。
あ、でも、ディドさん、砂の一族では珍しくないことなの?」
問いかけると、ディドさんはちらっとふりむいて答える。
【いや、砂の一族でも早くて二角すぎだ。
二角前で生んだってえのは、俺も初めて聞いたな】
「やっぱりそうなんだ。
じゃあもしかして、フィア、弱ってる?」
【おうよ、かなり弱ってるんだ。
それもあって、話が通じるおまえを頼ったんだよ。
ウィルに説明してやってくれ】
「うん、わかった」
うなずいて、黙って私たちの会話を聞いていたウィルさんを見上げる。
「ディドさんに確認したんですけど、やっぱり二角前で幼生を生むのは、珍しいことみたいです」
「そうか……」
「人間でも同じですけど、子供を生むのは、母親の負担がすごく大きいんです。
だから、身体が成長して力を貯える前に生むと、母親が弱ってしまうんです。
フィアは今、だいぶ弱ってるみたいです」
ウィルさんは悩む表情でしばらく黙る。
「……助けてやりたいが、人間の力でなんとかできるだろうか」
「難しいですね。
とにかく今は、フィアに近寄らないことと、そっとしておくことが一番大事だと思います。
失った力を回復するには、あ」
言いかけて、またディドさんを呼ぶ。
「ディドさん、フィアの伴侶が誰か、知ってる?」
【確証はねえが、どうもルィトって奴のようだ。
今は王都にはいねえ。東の国境の砦だ】
「そうなんだ。
ウィルさん、フィアの伴侶はルィトってドラゴンさんらしいんですけど、ルィトさんは今、東の国境の砦にいるんですね?」
ウィルさんはなぜか驚いたように目を見開いたけど、苦笑混じりの表情でうなずく。
「ああ」
「ルィトさんを王都に呼び戻すことはできますか?
伴侶なら、フィアを回復させられるんです」
私の問いかけに、ウィルさんは困ったような表情になって考えこむ。
「……上層部と相談してみないと返事はできないが、フィアのために、なんとかしてみよう。
ただ、フィアの伴侶はルィトで間違いないのかな」
「それはそうですね、じゃあフィアに話を聞いて、確認できたら、なるべく早くルィトさんを呼び戻すってことで、お願いします」
「わかった」




