第2話
眼下の景色があっという間に流れていく。
初めてのような、懐かしいような、奇妙な感覚。
もっと楽しんでいたいけど、今は状況の把握のほうが先だ。
本当はディドさんに聞きたいけど、飛びながらだと話しにくいだろうし、とりあえずはウィルさんに聞いたほうがいいだろう。
「ウィルさん、何があったんですか?」
見上げて問いかけると、ウィルさんははるか前方を見渡してから、私を見る。
「夜明け直後に、竜舎のドラゴンたちが急に騒ぎだしたんだ。
あわてて見にいくと、フィアが身体を丸めて壁際にいた。
様子を見ようと近づこうとすると、ディドに止められて、他のドラゴンたちも『近づくな』としきりに伝えてくる。
何があったのかとディドに聞いたら、何か伝わってきたんだが、意味が理解できない」
ウィルさんは言葉を切って、小さくため息をつく。
「困っていたら、ディドがあの約束のマントをつついて、君を連れてくるよう伝えてきたんだ。
三日前に話したように、本来は竜騎士団の関係者以外は竜舎には入れないんだが、もしもフィアの命に関わるようなことなら、躊躇していられない。
そういうわけで、君を迎えにきたんだ。
突然のことで申し訳ないが、協力してほしい」
真摯な表情で見つめられて、こくりとうなずく。
「わかりました。
私に協力できることなら、なんでもします」
フィアにはまだ会ったことないけど、困っているなら助けてあげたい。
ウィルさんはほっとしたように笑う。
「ありがとう。
じゃあまずは、ディドに何があったのか聞いてもらえないかな」
「はい。
ディドさん、フィアに何があったの?」
前方を見ながら飛んでいたディドさんが、わずかにふりむく。
【あいつ、幼生を生んだんだよ!】
「ええっ!?」
驚いて、思わずディドさんの顔のほうに身を乗り出す。
「でもフィアって、二角前なんでしょ!?」
【おうよ、だから俺もこないだウィルに相談された時、そんなこととは思わなかったから、驚いたぜ】
「そりゃ驚くよね……」
【おうよ、けど人間どもにはうまく伝わらねえしよ、しょうがねえからおまえを頼ったんだよ。
悪いが、説明してやってくれや】
「うん、わかった」
姿勢を戻して見上げると、ウィルさんは心配そうな表情で私を見る。
「何か、わかったのかな」
「はい、えっと、フィアは、赤ちゃんを生んだんです」
「ぇええっ!?」
すぐ近くで大声を出されて、思わずびくっとする。
私も驚いたけど、ウィルさんの驚きは私以上だった。
「あ、いや、驚かせてすまない。
だが……赤ちゃん……いや、ドラゴンにも性別があるなら、おかしくはないんだが、いつの間に……いやだが……」
だんだんひとりごとのようになってくる。
三日前までフィアが女の子だと知らなかったウィルさんには、ショックが大きかったようだ。




