第1話
ディドさんとウィルさんに会ってから、三日後の朝。
みんなの質問責めもようやく一段落し、穏やかに朝食を済ませて片づけを手伝っていると、『声』が聞こえた。
【うおーい、アリアーーーっ! どこだーー!?】
「!!」
「えっ、今のなにっ!?」
一緒に作業していた子たちの騒ぎ声を無視して、外に飛びだして上空を見上げる。
はるか上空でゆっくりと旋回している影を見つけた。
「ディドさあん!」
大声で叫んで大きく手をふると、ディドさんが急降下してきた。
村の中心にある村長の家の前は、小さな広場になっている。
行商人が来た時は市場になり、収穫祭を行う場所でもある。
広場の中央にふわりと着地したディドさんの背の鞍から、ウィルさんがひらりと降りる。
「ディドさん、どうしたの!?」
あれからまだ三日しか経ってないのに、しかもわざわざ村に来たなら、『非常時』だろうか。
走り寄ると、ウィルさんは緊張した表情で早口で言う。
「すまない、アリア、今すぐ私たちと一緒に王都に来てほしい」
「えっ、……わかりました」
やはり非常事態のようだ。
驚いたけど、理由を聞くのは後でもいい。
「ありがとう」
ほっとしたように少しだけ笑ったウィルさんは、表情をひきしめて遠巻きにしている村人たちを見回す。
「お騒がせして申し訳ありません。
私はリーツァ王国竜騎士団団長、ウィレスリッド・クレアス・リドル・クローツァ。
村長殿はいらっしゃいますか」
「は、はいっ」
凛とした声の問いかけに、遠巻きに見ていた人の輪の中から村長がおずおずと一歩踏みだす。
「村長のレッシでございます。
あの、なんでございましょうか」
「緊急の用件につき、アリア嬢をお借りします。
彼女の身の安全は、私が剣にかけて約束します。
急ぎますので、これにて失礼します」
ウィルさんは早口で言うと、私を見る。
「今は一分でも時間が惜しいんだ、事情は後で説明する。
とりあえず乗ってくれ」
「わかりました」
「ありがとう」
ウィルさんがディドさんを見ると、ディドさんは乗りやすいように地面に寝そべる。
ウィルさんに促されてディドさんの脇までいくと、ウィルさんが両手で私の腰を持つ。
軽々と持ちあげられて、鞍に横向きに乗せられた。
遠巻きにしてる村人たちから、なぜか悲鳴のような歓声のような声があがる。
ちらっと見ると、女の子たちが、うらやましそうな表情で私を、うっとりした表情でウィルさんを、見つめていた。
ドラゴンとして長年生きた記憶がある私には、ウィルさんは『かわいい男の子』ぐらいにしか思えないけど、この村しか知らない女の子たちには『ステキな騎士様』に見えてるのだろう。
ウィルさんが私の後ろに乗ってきて、鞍の前につけられている取っ手を両手でつかみ、腕の中に私を囲むようにする。
「身体を楽にして、私に寄りかかってくれ」
「はい」
本当はまたがったほうが安定するだろうけど、スカートだからしかたない。
もぞもぞ動いて楽な姿勢をとって、横向きでウィルさんにもたれかかる。
また悲鳴と歓声があがったけど、ウィルさんは気にせず私を見た。
「大丈夫かい?」
「はい」
「よし、じゃあディド頼む。王都に戻ってくれ」
【おうよ、行くぞ】
ディドさんが答えて起きあがり、ばさっと翼を広げた。
風が巻きあがって、村人たちがあわてて数歩下がる。
大きくはばたくと、ふわりと浮きあがった。
もう一度大きくはばたくと、さらに上空高くに上がり、一気に加速した。




