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【書籍化・完結済】少女とドラゴンと旋風(つむじかぜ)  作者: 香住なな
第一章 湖のドラゴン
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第10話

 

 それからも、ディドさんがウィルさんに毎日の食事がわりの果物の種類に注文つけたり、竜騎士の誰それの鞍の扱い方が悪いとかいう話を通訳してるうちに、太陽が山の端にかかった。

 あの位置に太陽が来たら、そろそろ夕食の支度を始める時間だ。


「あの、ごめんなさい、私、そろそろ帰らないといけないんです」


 もっとディドさんと話していたかったけど、しかたない。

 諦めて言うと、ウィルさんが空を見上げる。


「ああ、すまない、もうそんなに時間が経っていたんだね」


「いえ、いろいろ話ができて楽しかったです。

 ディドさん、ありがとう」


 寝そべってるディドさんに笑いかけると、ディドさんも笑ってくれる。

 

【おう、俺もありがとよ、いろいろ助かったぜ。

 そうだ、最後にもひとつ通訳頼むわ】


「いいよ、なに?」


【何か目印になるもの……ああ、これでいいか】


 言いながら、ディドさんは爪先でちょいちょいと私が座ってるマントをつつく。


【これを、竜舎で俺の前脚が届くとこに置いてくれ。

 アリアに通訳してもらって、おまえらに伝えたいことがある時は、これひっぱって合図するから。

 念じて言葉を伝えるより確実だろ。

 合図を出した時は、大至急ここに来て、アリアに相談してくれ。

 ってウィルに伝えてくれ】


「それは……アリアに迷惑じゃないか?」


 ウィルさんが気遣うように言うから、小さく首を横にふる。


「そんなことないです。

 ディドさんたちの役にたてるなら、嬉しいです。

 今の私は人間だけど、ディドさんたちを同族だと思ってますから」



 人間として生まれかわって十七年が経ち、ドラゴンとしての記憶はだいぶ薄れてきていた。

 だけど、今日ここでディドさんに会って話をしてるうちに、記憶が鮮明によみがえってきた。

 同時に、考え方もドラゴン寄りになった気がする。

 ドラゴンは、数が少ない分、同族での助けあい意識がすごく強い。

 ディドさんたちが困ってるなら、たとえ作業の当番をすっぽかした罰で食事抜きにされたとしても、ディドさんたちの手助けをしたい。



【おう、俺もおまえを同族だと思ってるぞ。

 こいつらより話が通じるしな】


 ディドさんがにやりと笑って言うと、私が通訳しなくても内容を察したのか、ウィルさんも苦笑する。


「ありがとう、手伝ってもらえるのは助かる。

 ただし、アリアを頼るのは、非常時だけに限定しておこう。

 でないと、ディドは毎日でも会いに来そうだ」


【できるならそうしてえがな、アリアにはアリアの生活があるってことぐらいわかってるさ。

 だから非常時だけで妥協してやるが、それ以外に月に一度ぐらいはいいだろ】


「それは……私も嬉しいけど、大丈夫なの?」


「こらディド、勝手に何か追加しただろ。

 アリア、ディドはなんて言ったんだい?」


 ウィルさんは、優しいながらもごまかしは許さないっていうような、まっすぐなまなざしで私を見る。

 ディドさんをちらっと見てから、さっきのディドさんの言葉をそのまま伝えた。

 ウィルさんは大きくため息ついてから、ディドさんを見る。


「しかたないな……、月に一度だけだぞ」


「……いいんですか?」


 私を見たウィルさんは、苦笑混じりに言う。


「ダメだと言いたいところだけど、そうしたらディドはきっと勝手に竜舎を抜けだして、君に会いに来るだろう。

 竜舎は木造でドアも鍵もないし、あったとしても、本気になったドラゴン相手では紙同然だ」


「そうですね……」


【そういうことだな。

 このあたりで呼んだら、村にいても聞こえるか?】


「聞こえる、と思う。

 私、他の人より目も耳もいいから。

 あ、でも、その時の状況によってはどうしても抜け出せないかもしれないから、ここで一時間待っても私が来ない時は、悪いけどそのまま帰ってね」


 自分一人でいる時ならなんとかなるけど、誰かと一緒だと、抜け出してここまで来るのは難しい。


【わーった。

 そん時は、次の日の同じぐらいの時間に来る。

 それなら、都合つけやすいだろ】


「うん、なんとかできると思う、ありがと」


「……また勝手に相談して……」


 ため息ついてるウィルさんは、どこか仲間はずれにされて拗ねる小さな子供のようだった。

 苦笑しながらさっきの会話を伝えると、ウィルさんはまたため息ついてから、うなずいた。


「ディドの案に賛成するよ。

 だけど、君の生活を優先してくれていいからね」


「わかってます、ありがとうございます」


「こちらこそ、ディドのわがままを聞いてくれてありがとう」


 くすっと笑うと、ウィルさんは立ちあがって私に手をさしだす。

 最初意味がわからなかったけど、さしだされたままの手に自分の手を重ねると、やわらかく握って軽々とひっぱりあげられた。

 こういうことを自然にやるところは、さすが貴族、いやさすが騎士、だろうか。

 内心感心しながらら、マントを取りあげて軽く払った。

 草の染みも汚れもついてなくて、ほっとする。


「これ、ありがとうございました」


「どういたしまして」


 マントをさしだすと、ウィルさんは笑顔で受けとって手早く身につけた。


「さて、じゃあディド、だいぶ遅くなってしまったけど、巡視を続けよう」


【わーってるよ。

 じゃあアリア、またな】


「うん、またね」


 ウィルさんがひらりと鞍にまたがると、起きあがったディドさんが尻尾をふって挨拶してくれる。

 尻尾のかわりに手をふり返して、ディドさんが飛びたっていくのを見送った。 

 

ウィルは、顔も身体も性格も能力も身分も役職も良い超優良物件ですが、ヘタレですw

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