真夜中の掟 ーThe Style of Monstersー
地下という閉鎖空間は私を不愉快にする。が、ここが奴らのねぐらと言われれば黙して歩くしかない。やれやれ、だ。
しかし、悪い事ばかりでもない。痕跡として、あの微かな臭いが奴の存在を裏付ける。機械化妖魔特有の臭いだ。
社交性の赤とはつまり遮光性の赤だ。こいつのおかげで私達は血の衝動を抑え込み、陽の光の中に歩み出すことができる。だが、利点ばかりというわけでもない。こいつの多量服用は人間達に都合の良い副作用を生み出す、それが自己存在の喪失。そして自我を失った魔物は他の物質との融合能力を高める。そしてそれを有効利用しない手はない。自己を見失った魔物に新たな意志を植え付け、自分達に都合の良い道具として作製する。機械化妖魔の誕生というわけだ。そいつらが生み出された理由は単純明快、殺し合いは魔物同士でとそういうわけだ。
「!」
攻撃は予想の範囲内だったが、その速度が尋常ではなかった。敵の身体に備え付けられた銃弾の弾着よりも速く奴の攻撃が私を切り裂く、この狭い空間の全てを足場にし、その四本脚の黒い獣は私を中心にした放射状の斬線を描く、
弾着、私の身体の中に無数の弾丸が無造作につっ込まれ、私が地下道の中を吹き飛んだという幻影を残視、無造作に突き込まれた鉛弾を取り込み、影と自分を入れ替え、その場に悠然と佇む。
「我が名はマリア、闇の母マリア」流儀に則り名乗るが、反応は当然のようにない。やれやれ、だ。鬼火のような眼光の中、その攻撃衝動の裏で別の冷たい演算がその機械化された知性で行われているはずだ。そいつがはじき出す動きには無駄が無ない。
あの場所で見た殺戮方法に一致する。そこには血の衝動に導かれる歓喜も渇望も、敵を自分の前にひれ伏せるという歪んだ快楽とは全く無縁の意識が働いている。やれやれ、だ。
次の一手はレーザーの射出、だが、その光条が私を貫く事はない。さすがに光速を超える事は不可能だが、それを制御する照射筒の動きを察知するのは容易、それの描く射線軸と身体とを入れ替え、煙草に着火「炎よ!」、特殊音声と光の残滓により描かれた魔法陣の術式に従い簡易呪文が起動、爆散、現出した炎は無軌道な軌跡を描き炎幕を張って敵に肉薄、煙と急激な熱による空間の歪みでさらに打ち出されるレーザー光を無効化、急激な状況変化に対応するまでの数秒の間隙に敵性体に肉薄、ごちそうしてくれた鉛の弾丸の一部を彼に当てた手のひらを通じ返却、
その黒い犬に似た獣は弓なりになって吹き飛び、壁に激突する、寸前、三本になった足を器用に利用し危なげなく着地、埋め込まれた機銃を放棄、跳翔し肉薄、その開かれた口腔内の牙が私に突き立てられる寸前、その口の中に先程の煙草を放る、舌先と牙とで不器用に描いた刻印が無事効果を発し、奴の体内を侵食、無言の苦鳴をあげて奴がくずおれる。
煙草をくわえ直し、一服、今度はゆっくりと高等魔術式を起動、精神界で高速演算処理された特殊数式の応答を現実化、「その魂よ、安らかなれ、浄化の炎!」蒼炎が現出、その肉体を悲鳴もろとも呑み込み、その存在を根底から消し去る。




