社交性の赤 ーSociety Redー
高層ビルとよばれる建築物から眼下に広がる深い夜の谷間を見下ろし、私は物思いに耽る。
現代は人間達の時代だ。かつては、魔物達が跳梁跋扈した甘美な時代があったが、それも過去の時代だ。結局のところ、個々の能力よりも群体としての能力に秀でた人間達が勝ち残ったというわけだ。
そして私たちはそのおこぼれに預かって生きているというのが現代の構図だ。老人達にはそれを屈辱と思う輩の方が多いが、慣れることさえできたなら、それほど悪い現状でもない。
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グラスの中、先ほど拝借してきた紅い液体にタバスコとニコチンを大量に、それが私の嗜好だ。
享楽の名は社交性の赤、魔物達が人間の世界に潜む為には必要なものだ。私達の誰もが持つ"血の衝動"を薄め、存在を隠し、この世界から狩り出されないようにする為に不可欠なものだ。
それゆえにコイツは自嘲と侮蔑をこめてNasty Bloodとも呼ばれる。この薬が製造された理由は単純明快、人と魔物が平和裡に共存する為に製造された。というならば素敵な話だが、現実はもっとdrasticだ。つまり争いは無価値、利用できる者は最大限利用する、それが何であっても、という事だ。いやはや人間達の活力には脱帽する。グラスの中身を一口、その喉越しに嚥下される液体の微妙な味わいの中にそいつは居た。
グラスに映ったそいつは執事という固有名詞が服を被た見本ともいうべき態度でその中に居た。発せられた言葉は二つ、その似姿に相応しい声色で、「この件は貴女に」と密やかに、「相手の名は百面相の貴婦人、伸ばされた腕の名は東方正教十字会」と厳かに。
ため息を一つ、私は宙に放り投げたグラスの中の銀髪の執事に一瞥もくれず、闇の静寂の中へと跳躍した。




