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家族になりたい 1

「俺の当初の予定では、樹里が大台に乗るまでに全部決着がついてるはずだった。でも、出来ない上に、社長にまで叱られるし……」

大和くんはものすごく辛そうに、まるで吐くみたいにそう言った。

「それに俺、ちょっと気になることがあって病院いったんだわ。でさ」

その後、彼はものすごく小さな声になってぼそぼそっと言った。

「俺のなんだけどさ、ほとんどダメらしいわ。」

「ほとんど、ダメ?」

私は大和くんの言うことが全く解からなかった。

「俺、ガキの頃病気しててさ、その時俺が使ってた薬がその薬かどうかちゃんと覚えてないんだけど、俺の病気の治療薬の一つで使うと子供が出来なくなるってやつがあるって聞いちゃってさ。今更お袋に当時の薬の名前聞いたらその意味がばれるだろうし、ばれたらショックだろうからな。聞けなくて確めるために病院に行ったんだ。

そしたら薬の影響じゃないみたいなんだけど、その……精子の数がさ、普通成人男性の半分にも満たない、約25%だって言われた。おそらく自然には出来ることはないだろうって」

「そうなんだ……」

私はそんな大和くんの半泣きの告白に、相槌を打つことしか出来なかった。


「だから……山口さん、俺と別れてください」

そう言うと、大和くんは改めて深々と頭を下げた。やっと事情は飲み込めたけど、なんだか変。そもそも何で別れなきゃならないの、私たち。

「ちょっと、子供ができないくらいで何で別れなきゃならないのよ!」

そうよ私、子供がいないとイヤだって一度でも言った? それ以前に私たち、夫婦でもないんだけど。

「だって、樹里は子供欲しいんだろ? 不妊治療する金なんて俺にはないから」

大和くんがそう返す。子供が欲しいのは、大和くんの方じゃないのよ、まったく……

 そりゃ、私だって絶対に要らないなんて言わない。私もミニ大和くんみたいな男の子がいたらいいなぁって思うよ。きっとめちゃくちゃかわいがっちゃいそうだと思う。

 でも、それって絶対に欲しいわけじゃない。そうよ、欲しいのはひとつだけ……

「でも、子供なんて……大和くん以上に欲しいものじゃないもん!」

私はそれこそ初めて自分から正直に自分の思いを口にしていた。

 私は今まで、大和くんが勝手にウチに転がり込んできたから、成り行きでずるずるそうなったみたいな……そんな体であまりこちらから熱を上げている風には見せてなかった。

 でも私、どうでも良い奴となんかどんなに誘われたって寝ないよ。それ以前に、ウチに入れてないと思うわ。

 ホントはずっと側にいて欲しかった。でも、側にいてって言ったら元カレみたくウザがって離れて行ってしまそうで言えなかった。

「子供なんて、居ても良いけど、居なくてもいいよ。ねぇ、私と二人じゃ家族になれないの?」

私はやっとずっと言いたいことが言えた。

「そう……言ってくれるのか?」

そう言った大和くんはもう本泣きしていた。

「あたりまえでしょ! じゃなきゃ、こんなウザイ男と5年半も一緒になんか居られないわよ。じゃぁ何? 私だけが家族じゃ、大和くんは不満なの?」

そう口にした私からも涙がぼろぼろと溢れ出す。

「いや……樹里が居てくれるだけで、俺は充分だよ」

それに対して大和くんは神妙な顔つきでそう返した。

「私も、大和くんが居てくれたらそれで良い。じゃぁ、決まりだね」

私はそう言いながら、大和くんが隠し持っていた(と本人は思っていたようだけど、ここは元々私の部屋だし、ちゃんと知ってたわよ)婚姻届の用紙が入っている引き出しを開けた。でも、用紙はもうそこには入っていなかった。その様子を見た大和くんは、部屋の隅っこのゴミ箱を指差した。見ると、特殊な紙質の用紙が丸めて捨ててあった。

「もう、まったく早とちりなんだから……明日昼休みにでももらってきて夜にでも一緒に書こうよ。そして、社長に持って行こう」

「婚姻届は会社に提出する書類じゃねぇだろ」

私がそう言うと、大和くんはふっと笑ってそうツッコミを入れた。

「バカね、保証人は社長とお姉さんしかいないでしょ」

「分かってるよ、そんなことくらい。俺もそう思ってたから。樹里、ホントに良いんだな、俺で」

「うん、俺が良いの。」

私は頷いた後、大和くんの首に腕を巻きつけて、大和くんの頭の後ろを子供にしてあげるようになでなでする。

 もうこんなに立派な子供がいるんだもん、これ以上子供なんて要らないよなんて言ったら、怒るのかな、それともまた泣くのかな? そんなことを思いながら……

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