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1年後―夏― 2

「ゴメンね、付き合い長いから忘れちゃってたわ。樹里ちゃん、人妻だったんだものね」

ベッドの横にはお姉さんが付き添ってくれていた。でも、人妻が何で関係あるんだろう。暑さは既婚未婚に関係ないと思うんだけど……首を傾げる私にお姉さんは続けてこう言った。

「仕事はどんなことしてでも振り分けさせるわ。だから、これからは自分の体を優先させてね。もうお母さんなんだから」

「はい?」

お姉さん、今……何て仰いました?? 絶対に呼ばれないであろうと思われる呼称で呼ばれた私は、軽くフリーズしていた。

「やっぱり気付いてなかったの? 既婚者だって言ったら検査してくれてね、樹里ちゃん、あなたおめでただってよ」

その返事にお姉さんはウインクして答えた。

えっ? えっ!? え~っつ!! マジっすかぁ!!! そのときの私の表情と言えば、たぶん『ムンクの叫び』だったに違いない。

信じらんない。だって…… 

 そりゃね、身に覚えはあるわよ。ないとは言わない。

でもさ、私が大台に乗るまでに籍を入れたいと、大和くんがどんなに頑張ってもダメで、その上、お医者さんにまで『普通じゃムリ』って言われてて。それが、この忙しい最中にぽっこり出来ちゃうって何?

「そんなにビックリしないでもいいじゃない。後で先生が最終月経を教えて欲しいって。それで正確な週数も出るからって。たぶん、状態から見て3ヶ月半ばってトコかなって言ってらしたけど」

私の驚きまくる顔を見て、お姉さんがそう言った。うわっ、ホントに? ホントに私、お母さんになれるの? 3ヶ月半ばという具体的な数字が妙にリアルで、そう実感した途端私はぼろぼろと泣き出した。


「樹里、大丈夫か!!」

その時、私が倒れたと連絡を受け、大和くんは出先から血相変えて病室に飛び込んできた。

「うん、大丈夫」

大和くんの顔を見て私はにっこりとしてそう返した。でも、泣いた後だったから、大和くんはムリして笑顔を作ってるんだと思って、逆に心配そうな顔をしてそんな私を見た。

「そうよ、これからは八木君が頑張らなきゃ。樹里ちゃんを労ってあげてね」

「はい……忙しくてそこまで頭が回んなくって……すいません」

お姉さんがそう言うと、大和くんは神妙にそう言って頭を下げた。

「よしっ、頑張れ新米パパ」

それからお姉さんはそう言って大和くんの肩を叩いた。それに対して、大和くんはびくっと叩かれた部分を震わせると、

「パパ?」

あり得ない! っていうのが満面に出た表情でお姉さんを見た。

「あ、樹里ちゃんが気付いてなかったから、八木君が気付いてる訳ないわね。おめでと、あなたもうすぐお父さんらしいよ」

お姉さんはニコニコ顔でそう言った。

「子供? ホントに?」

「うん、3ヶ月半ばだって……」

信じられない様子の大和くんに私はもじもじしながらそう答えた。何だか恥ずかしくなって真っ赤になっていく私とは対照的に、大和くんの顔はどんどんと青ざめていく。そして、苦虫を噛み潰したような表情でしばらく沈黙したあと、大和くんは真顔でこう言ったのだった。

「樹里、正直に言え。それ、誰の子だ」

と……

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