表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

第三話 未来都市の昼食会:義鷹テーブル席の訪問者

砂漠に建設された未来都市の研究所。

そこに集まったのは、国家、企業、投資家、研究者、特務員、若者――

それぞれが異なる“内界の欲望”と“外界の利害”を抱えた者たちだった。

第三話は、そんな多層の思惑が交差する昼食会を舞台に、

三界生成理論が現実の人間関係の中でどのように姿を現すのかを描く章である。

ここでは、

人の欲望がどのように動き、

どのように衝突し、

どのように未来を形づくるのか。

義鷹の視点を通して、

読者は“未来都市の胎動”を目撃することになる。


 シーン1:三界のテーブル席の構造


 砂漠の光が差し込む巨大ホール。

立食パーティー会場には、三十余りの丸テーブル席が長方形に並び、

その北側中央には、高い位置の演壇が設けられていた。

演壇の傍には、義鷹の秘書であり、司会者の波瑠(五十歳)が、

マイクを持って立つ。

義鷹一行を確認した波瑠の凛とした声が会場の空気を切り裂いた。

「皆さん、拍手をお願いします」

その声を合図に、主催者の三人へ大拍手が沸き起こる。

欲望の“音が交差して迷う空間”が三人を包み込んだ。

波瑠は、演壇と丸テーブル席を、彼女なりの“構造理解”に基づいて配置していた。

左にベス:中央に龍郎、右に義鷹。

ヨシとベス夫婦は、利害不一致の象徴として別テーブル席に分離されている。

「随分、大勢、集めたね」

約二百人の思惑が渦巻く光景に、自我のアキラが感心する。

「あぁ、彼らが、ホットになり過ぎ、結果的に大勢になってしまった」

 義鷹は、クールに評価した。 


 三つのテーブル列の“意味”

左列:外界の価値を上げたい人々(ベス陣営)

”緑地化の富を念願している民”

・ベスの父、緑の党の政治家トム・キンブルと、彼の出資者たち。

中央列:内界と外界を結び付ける人々(龍郎陣営)

“投資結果を享受する民”

・龍郎が集めた投資事業家たち。

右列:内界の資産を富に結び付けたい人々(義鷹陣営)

“自分の夢に人生を賭ける民”。

・世界中から集めた技術者志望の若者、一心会の学生・社会人幹部たち。

・砂漠での投資事業を学ぶ“事業家の卵”たち

 義鷹が小さく呟く。

「集めただけでは、意味がない。三つの欲望エネルギーが、

統合され“シーズ”に向かい発芽しなければならない」

 アキラが即座に応じる。

「大丈夫だ。エネルギーは、すでに充満している」

 龍郎の百兆円の投資資金を狙う視線が、砂漠の空間を重くしていた。

 義鷹は、胸の奥にざわつきが走る。

「キンブル家の欲望は、静かに君の内界へ侵入して来る。

ベスは、君の理想を利用しようとしている」

 アキラの囁きに、義鷹は、静かに頷いた。

「あぁ。利用される側の強さも、弱さも知っている。心配するな」

 義鷹にとって、この立食パーティーは、“静かな知のコロッセオ”だった。

人々は、自分の思惑を携え、自由に移動して、価値交換の合意点を探る。

 波瑠の配置は、まさに三界に分離された“三つの勢力図”を可視化していた。

無害な核融合が起こるかどうかは、まだ分らない。


 “不毛砂漠”の不動産価値増大で、果実を得ようとする

ベスが率いるキンブル家一族の外界グループ

 “水と栄養”を供給して、投資判断の成果を期待する

龍郎の率いる投資家の“境界グループ”

 “新しい種や芽”の視点で、創業者利益を得ようとする

情報収集のひな鳥たちが集めた価値を生み出す“事業家の卵たち”。

キンブル研究所の研究技術者、一心会の幹部候補生の青年たちがいた。


 アキラ:「この波瑠の配置は、面白い構図じゃないか」

義鷹:「これは、まるでお前の主張する三界生成理論の構図じゃないか?」

義鷹が思わず心の中で呟いた。すると、アキラは、

「二十一世紀では、AIを使った情報処理能力が富の源泉になる。

物事の仕組みや構造を理解すると、投資の世界では、時間コストの節約と

未来予測が正確になり、利益が得られるからだ」

 アキラは、人間行動は、その人物の内界を知ると予測精度が上がる。

価格変動に影響力のある人物の行動が分れば、

投機の世界では、莫大な財産を築けることがあると主張した。


 シーン2:コロッセウムの壇上に立つ龍郎


 拍手が静まり、三人が指定席に着くと、会場には“一瞬の無音”が訪れた。

波瑠は、本日のスケジュールを説明し、続いて、岡本龍郎の略歴を紹介する。

龍郎が演壇に上がりと、ふっくらとした体型が、会場に不思議な安定感を与えた。

「投資家の皆様に一言申し上げたい」

龍郎が、自分の動機を明かす戦術を取った。

「皆様に休暇を取っていただき、この砂漠の研究所へお誘いしたのは、

皆さまの持つエネルギーを、この砂漠に誘導したいと思ったからです」

「競争には、人間と地理と環境が、大きく影響します。

時間の三要素の運動が、人間史の過去と未来を作って来たといえます」

 続けて、時間の三要素――

内界(過去)、境界(現在)、外界(未来)

――を軸に三界生成理論を語り始めた。

「国家や企業の過去の失敗の多くは、地勢と環境を忘れ、

内界と外界との利害や価値観を境界で調整できなかったことに起因します」

 砂漠は、一般に“見捨てられた土地”とされる。

しかし、龍郎は、砂漠を“空間・太陽光・砂”という資源地”と捉え直した。

「十万平方キロの私有地を空から見て、この研究の心臓部分も拝見しました。

私は、この砂漠の未来都市を“文明の発祥地”

にする計画に参加する決断をしました」

龍郎は、提示された事業計画書を十分、吟味したかのように語り、

コロセウムのスターターの役目を終えた。

 アキラが分析する。

「義鷹。龍郎、本気モードになっている」

「いいや、まだ、分らない。彼は計算高い」

義鷹は、慎重だった。


 シーン3:未来予測のコメンテイターの紹介


 波瑠が、各国の未来予測のコメンテイターを紹介して行く。

新事業の成功には、正確な未来予測が不可欠だ。特に、新事業は、

その製品の寿命を考えて置く。新商品を開発できないと、経営は行き詰まる。 

 黒田一族は、環境変化の先読みが得意な情報組織員を常に育てていた。

「昼食会での話題につきましては、自由です。

各国情勢については、これから紹介する担当者に直接、お尋ね下さい」

波瑠は、予測情報の価値を知っていた。コメンテイターが壇上に上がって

手短に挨拶することを求めた。

 

「オウ国の情報は、エリザベスさんが担当します。

エリザベスさん、皆さんにご挨拶をお願いします」


 彼女は、黒田伊藤家の姻族の特務員だ。キンブル家と

黒田伊藤家の両方に利益調整者、つまり“境界者”の立場にあった。ベスは、

この場では、キンブル家と投資家の共通利益を背景にした挨拶をした。


「この砂漠の緑地化計画は“緑の党”の長年の念願でした。

“新文明の発祥地”の研究所として、これからも成長し続けています。

どうか、今後も皆様のお力をお貸し下さい」


 この研究所のオーナーは、キンブル家であった。

投資事業組合を作り、業務執行組合員となり、研究所建設資金を集めた。

自己資金不足を他人資本で埋めたのだ。

 ベスが経営する“パール投資顧問株式会社”が投資事業組合を組成して、

資金を四十人から調達して完成したものだった。彼女は、この砂漠の研究所を、

ニッチ国などの砂漠を研究する企業に賃貸しして収益を上げていた。


 波瑠:「アメ大陸の情報は、北は陽子さん、中は愛菜さん、

南は美咲さんが担当します。代表して、陽子さん、

皆さまにご挨拶をお願いします」


 陽子:「世界情勢は、コメット国の一国支配体制から

チュン国の春秋戦国時代のように変化する動きになると見ています。

十九世紀や二十世紀前半の政治世界が誕生するかも知れません。

ご関心のある方は、私の席にお集まり下さい」


 この四十代の美しい三人は、ニッチ国とメキシ国のハーフだ。

アメ大陸の黒田一族内でのアンティーク事業の利権を持つ。

コメット国籍を持つ義鷹の養女たちだ。

両親は、商談中、コメット国の連邦ビル爆破事件に巻き込まれて死亡。

義鷹は、家裁の命令で三人を養女にした。


 波瑠:「ロ国は、アリーナさんが担当します」

 

 アリーナ:「ロ連邦国は、明らかに孤立して衰退期に入っており、

このままでは、連邦制の維持が困難になっています。ロ国の今後の未来予測

を知りたい方は、私の席にお集まり下さい」


 アリーナは、第十二代大頭領・故・光政の孫娘(五十五歳)だ。

彼女は、ロ国の元・情報部員の情報売買組織“ボボシチ”を運営。

彼女の組織は、ロ国の技術者の国外での仕事の世話をしている。


 波瑠:「チュン国の情報は、ダイ人のメイリンさんの担当です」


 メイリン:「私の担当情報エリアは、チュン国との摩擦が増大しています。

このエリアの展開予想を知りたい方は、私の席までお越し下さい」


 彼女は、ダイ人やチュン人の起業家や企業家たちを

ニッチ国などで事業展開させる仕事をしている、

義鷹は、彼女を含めて四人の年齢差のある異母妹を持つ。

父親の第十三代大頭領・政茂は、アジ大陸情報収集の特務活動

の拠点を維持する女性特務員人材を育成していた。


・ダイ人のシャオ・メイリン(四十八歳)

・カン人のナ・スジン(四十八歳)

・シンガ人のジェニー・タン(四十四歳)

・シャム人のシリポーン・クギミヤ(四十二歳)


彼女たちの母親は、いずれも母国で事業を行っている。

彼女たちは、外国担当の特務員の元締めだった。


 コメンテイターの各テーブルには、十代から二十代の

各国の女性特務員見習い数名が配置されていた。彼女たちは、

ここにいる研究者たちを、SNSなどを用いて、この研究所員に

スカウトした特務員だった。


 義鷹は、黒田一族と岡本一族とキンブル一族の力を統合し、

新たな世代の統合拡大作戦を展開していたのだ。


 波瑠:「ニッチ国の担当者は、凛さん。桜さん、葵さんが担当します。

代表して凛さん、ご挨拶して下さい」


 凛:「ニッチ国は、現在、世界情勢の変化によりコメット国の

軍事力依存から自立した防衛体制が求められています。この変化による

事業環境予測を知りたい方は、私達の席にお越し下さい」


 この三人は、黒田本家の十代後半の養女たちだ。いずれも、

児童養護施設・青葉会の出身者だ。

“巫女様”と呼ばれている。

 巫女様とは、幸運にも、黒田神社を運営する黒田本家の

養女になった未来予測脳力のある妙齢の女性のあだ名だ。

巫女様と結婚できた者は、黒田一族の“若頭候補者”(王子様)

になれる制度があった。


 波瑠:「この研究所で開発された技術の“事業化プロジェクト

責任者“近藤教授、一言、お願いします」

 

 近藤:「投資家の皆様、近藤です。よろしくお願いいたします。

私どもは、既に事業計画書を皆様に提示させていただいて

おります。ご関心があり疑問点や質問事項がございましたら

各テーブルのプロジェクト担当者席までお越し下さい」


 近藤守は、砂漠未来都市建設の先駆者だった。彼は、オイルマネーが

溢れるアラ国などで先進都市を建設した経験を持つ。


 波瑠:「それでは、皆さま、昼食会を大いに楽しみましょう」

声は、戦闘開始を告げる“時の鐘”のように大ホールに鳴り響いた。

 波瑠は、司会の仕事を終えると義鷹のテーブルにやってきた。

彼女は、いわば、義鷹政権の官房長官の位置付けにあった。水泳で

鍛えた体形は、若々しく三十代半ばの容貌を維持していた。


 シーン4:目付・里見波瑠


「ご苦労さま、波瑠!」

義鷹と啓介が、ねぎらいの言葉を掛けた。

啓介――無口な武道家・大鳥啓介(四十歳)は、義鷹の“代理人”の一人である。

代理人とは、義鷹の意思表示を外界へ伝える役割を担う存在で、

義鷹には、十人の代理人がいた。

「驚きましたよ。まさか、オウ国まで来て世界会議をセットから

司会までまかされるとは」波瑠は、本音を漏らした。ベスは、

オウ国での世界会議を運営ができる事務局スタッフを育てていなかった。

「すまない、ここには、君を超える後継者がまだいない」

 義鷹の言葉には、含みがあった。

「嫌みな誉め言葉ですね、他にご注文は?」

 波瑠は、重責を終えた後の余裕を見せ、軽やかに返す。

「他家の大頭領家の頭領たちの動きは、どうだ。

娘たちの公開は、早すぎたか?」

 義鷹は、核心に触れる。

「いいえ、歴代黒田大頭領家は、男性たちをオウ国まで外国研修と

称して送り込んできました。タイミングは、問題ありません」 波瑠は、

義鷹政権の“要”である。義鷹の実家にある児童養護施設“青葉会”で育ち、

里見家の養女となり、東都大学を卒業後、大手銀行で勤務。結婚・離婚を経て、

“黒田一族の目付”の役職に就いた。目付とは、黒田一族の人々の動きの監視役だ。

 アキラが呟く。

「義鷹、波瑠を引退させるのか?」

「あぁ、そろそろ、後継者を考えないといけない」

 義鷹は、心の中でと答える。

「上手く行っているのに、なぜだ?」

 今日のアキラは、珍しくしつこい。

「波瑠は、自分の“世代界”で通用しても、次世代界では、難しい」

「そうだった。

“界”は、世代ごとに形成されるのだったな」

 アキラは、自分の理論を思い出す。

「俺、ボケモンじゃ!」

 アキラが、茶化すと義鷹の瞳孔が開いた。

「いつからダジャレを言うようになったんだ」

「わからん。それも忘れた・・・そうだ。波瑠は、内界の目。

啓介は、外界の目。龍郎は、境界の目だ」アキラは、ようやく正常に戻った。

 

 黒田一族の情報網は“百業界の領域”に及ぶ。

政茂大頭領が、長門一族と政略結婚し、

政界・官界・教育界の情報網が完成させた。

義鷹は、そこに岡本家を加えて“三界”を形成した。


・長門一族:政界、官界、教育界に強い(母親出身母体:姻族)

・黒田一族:経済界、情報界に強い(血族、姻族関係)

・岡本一族:投資界、金融界、経済界に強い(友人関係)


 波瑠は、黒田一族、啓介は、長門一族の人々の動きを監視している。

二人は、岡本一族を監視している人物を知らない。


 シーン5:レインジャー隊員・坂田八郎


 義鷹のテーブル席の一番乗りは、坂田八郎(二十七歳)。

その表情には、明らかな“迷い”があった。

彼は、ニッチ国の陸上自衛隊のレインジャー隊員で、小隊長を務める。

「坂田君、何か深刻な相談事ありそうだなぁ」

 義鷹は、核心を突く。

「えぇ、お願いしたいことがあります」

 義鷹に心を読まれたことで安心したのか、坂田の顔に光が戻る。

坂田の鍛えられたに外界の肉体と裏腹に、内界には恐れが潜んでいた。

「実は、結婚したいと思っている女性がいるのですが・・・・・・

彼女が工作員かどうか調べていただきたいのです」

 職業柄、結婚した後で妻が外国の工作員と分かると致命的だ。

坂田の悩みは、切実だった。

 義鷹は、即座に“相談係り”の顔になる。

「勤務先、携帯の機種、番号、名前と住所を教えてくれ」

 坂田は、メモを差し出した。

「恩にきます」晴れやかな顔で席に戻る。

 アキラが、冷静に分析する。

坂田は、啓介の“御庭番組織”の後継候補だが、内界機能は、未熟。

義鷹は、若者に甘く、アキラは、厳しい。

「頭領になるには、前途多難だなぁ」

「どうだ、アキラ、黒田伊藤家も仕切れる器か?」

「さぁ、どうかなぁ?まだ自分の妻になる正体を見抜けない。

内界機能が未熟なレベルだ」

「二十代の若者だということを忘れている」アキラは続ける。

「性格が分りやすい。自分の利益中心に動く。心を読み易く、使い易い人間だ」

 義鷹は、ふとベスのテーブルに視線を向けた。

「あそこにいるのが彼の黒田伊藤一族か」

「そうだ」

 義鷹は、ベスの動きが気掛かりだった。

「ベスは、上手く、両家の利害調整を上手くできると思うか?」

 義鷹は、ベスに関しては心配性だ。

黒田伊藤家は、ファンドのゲートキーパーの会社を経営し、

彼等の投資評価は、投資家の判断に大きく影響を与える。

キンブル家は、砂漠の港湾設備への投資を黒田伊藤家に期待している。

しかし、ベスは、黒田伊藤家の姻族であり、利益相反の立場にあった。

 アキラが指摘する。

「そもそも、君が悩むのは、ベスの言葉を信じて、

両家の利害調整を彼女に任せたからだ」

「あぁ、俺の責任だ」

 義鷹は、恐妻家だ。総じて女性の要望に弱い。

「オウ国の未来都市の警備は、実直な坂田一族に任せたい。

この問題はどうか?」

「ニッチ国人の警備で、この未来都市は、大丈夫なのか?

彼らは、銃器を扱えない」

 オウ国では、銃を使ったテロ事件が起きていた。

砂漠地が多く、住める場所が東部地域に限定されるため、

移民政策で人口が増え、土地価格が高騰して、治安が悪化していた。

「坂田家は、オウ国社会での警備面の人脈を持っていない。キンブル家も、

役に立たない」アキラは、黒田伊藤家グループの欠点を指摘した。

「あぁ、そうだな。世界には、危険地帯があり過ぎる。命を守る装備品が

必要な世界がどんどん広がっている」

「我々の建設する未来都市でコメット国のような同時多発テロ行為

が起きては困る。

レイザーバリアの研究をこの研究所でしてもよいと思う。どうか?」

「君のいう通りだ」

 義鷹は、地勢を無視しない。

ニッチ国を海洋国家として、太平洋の島嶼国と南半球の未開発国での

事業拡大を考えていた。

百万人未満の島嶼国の排他的経済水域に眠る資源を活用するには、

民間軍事会社と連携が不可欠だ。

防衛力を持たない国家は、蹂躙される。――それが人類史だ。

義鷹は、坂田をニッチ国民間軍事会社の創業者にする願望を秘めていた。


 シーン6:行政改革の志士を集める柳生八郎


 次に、現れたのは、柳生八郎(二十七歳)。

ニッチ国の総務省の役人であり、一心会の若手の顔でもある。総務省は、

国家の基本構造――行政組織、公務員制度、地方政府の行政――を司る。

義鷹は、ニッチ国の政府組織が二十一世紀の環境に適応するのには、

この省の改革が本丸だと見ていた。

「ヤナ会の郎党は、増えているか?」

 柳生が幹事を務める若手の公務員の研究会のことだ。

「順調に増えています。ストレスを抱えた人たちなので、

生き抜き効果的は、抜群です」

 義鷹は、若頭時代に“二十一世紀社会貢献倶楽部”を作り、

若い志士の育成を始めていた。

「2027年から2029年に予想される世界の秩序崩壊

に備えて、ニッチ国の新体制のプランを作ってくれないか」

 柳田の目が輝く。

「政府組織を、連邦制・州制・経済特区制の

“三界”で再構築するのだ」柳生は、真面目に受け止める。

義鷹は、新文明を “ハーモナイ文明”と名付けて、

自分が開拓した共存共栄部分の利権を与えると告げた。

「祭主様は、なぜ、そのような国家構造を考えたのですか?」

「三大国は、足もとを見て横暴な要求をして来る。三つの領域を使い、

彼ら要望を受け止めつつ、ニッチ国の富を増殖させるためだ。

一界構造では、いくら辛抱強い国民でも、耐え切れなくなる」

柳生は、一気に乗り気になる。

「まずは“人材派遣省”を作れ。

世界の未来都市に人材を送り込む制度だ」

柳生の表情が、使命を帯びたものに変わる。

「要は、大国の様々な要望に地味で弾力的に対応できるようにするのだ。

三つの領域を導入するメリット、デメリットを研究してみて」

「連邦国制は、どのような視点で考えるのですか?」

「経済統合を希望する島嶼国や国とニッチ国との相互メリット

焦点に当てて、経済圏内の“情報・ヒト・カネ・モノの移動の自由”

を考えてくれ。

そうすれば、問題点が浮かび上がる」

「君の頭脳なら物理学や心理学の視点で国家間の構造

の歪みの問題を理解して解決策を提案できるはずだ」

「そんな。買いかぶりですよ。僕は、経済が専門ですよ」

 柳生は、専門分野の視点で物事を考える習性があった。

義鷹は、柳生に“ホモサピエンス文明”を“ハーモナイ文明”

に変える行動を求めた。

「ニッチ国の環境事業を拡大するには、

世界の砂漠の未来都市に人を集める“人材派遣省”創設が必要なのだ」

「いよいよ“新文明の創造”が始まる時期が来たのですね」

柳生は、大頭領の与えた使命を果たすべき、別のテーブルに移動して行った。


アキラが心の中に現れる。

「君の計画では、ハーモナイ文明を築く若者が新政権を取ったときに、

この計画がスタートするはずでは?」

「あぁ、熟年世代の新政権の旧利権構造下では、

新文明勃興は無理だ。内界の泥沼を綺麗な湖のようには、再生できない」

「AI頭脳を活用できる若者たちの活躍時代が、

世界大恐慌後に来るはずだ」

義鷹は、二十一世紀の大変化は、2029年末までに起きると予測していた。

アキラが核心を突く。

「総務省の中で一気に改革を進めることができる人材

を確保して置くのが君のねらいか?」

「あぁ、構想を温めるだけでは何事も実現しない。

行動させることが狙いだ。当然、失敗する。

失敗の苦労をさせることで、彼らの内界を強化できる」

「ハーモナイ文明創造の最初の犠牲者にする積りなのか?」

「その積りはない。だが、何事にも犠牲者が付き物だ。

彼らが外界の政界、官界、教界で失敗しても、内界の黒田一族社会で生きられる。

挑戦することが新文明のスタートなのだ」


 シーン7:食糧問題を担当する宗像八郎


義鷹のテーブルに“キンブル未来都市研究所”の研究員の

宗像八郎(二十八歳)が、新年の挨拶に訪れた。

「宗像屋は、どうだ。ビジネスになる微生物は見つかったか」

「まだです。ただ、候補は、かなり絞れてきました。

藻類が未来都市の食糧問題を解決できると見ています」

「そうか、素晴らしい」

義鷹は、成果を出していなくても宗像屋を肯定した。宗像八郎は、

北都大学農学部出身で、砂漠緑地化のための“微生物研究”を担当している。

 黒田一族は、商人文化の名残で、研究者にも屋号を付けて呼ぶ。

宗像屋が得意な講義を始めた。

「藻類は、微生物の一種で三十億年を掛けて進化してきた大先輩です。

微生物とは、バクテリア、原虫、藻類、菌類の総称です」

「地下でも人類の有用物質を生産できる可能性があります。あと、三年で

成果を出せるはずです。

今は、地下で太陽光をどう使うか研究しています」

 義鷹は、宗像屋の本意を察した。研究費削減を恐れているのだ。

「分った。研究費の心配は、要らない」

 宗像屋の顔が明るくなる。

世界的な異常気象による食糧不足時を考えれば、

二~三年分の備蓄が必要だ。どの国も対応していない以上、

焦って研究を止める必要はない。

「砂漠の土壌改良技術のほうはどうだ?」

 宗像屋は、土壌改良も担当している。

砂漠を農地に変えるには、水・微生物。動植物の生態系を再構築する必要がある。

「オウ国の砂漠は、栄養物が少なく痩せています。

大陸移動により生態系のバランスが崩れたのが主因です。

今は土壌内の食物連鎖の解明が進んでいますが、

技術完成には、実験が必要です」

「つまり、まだ時間が必要ということだな。了解した」 

 宗像屋は、安堵して別なテーブルに移動した。

彼は、礼として、生態系の知識を“代価”のように語る。そして、

会話を代価のように支払って行った。それによると、

「豊かな土壌内には、細菌、菌類、ミミズ、線虫などが

食物連鎖の社会を形成しています」

義鷹は、興味を示す。

「それは、人間社会の構造に似ていると、いうことか」

「はい。自然環境が破壊されると土壌は痩せ、砂漠化します。

人間の内界も同じです。三十兆個の細胞と百兆個の微生物が食事、

ストレス、睡眠不足などでバランスを崩すと“内界の砂漠化”が起きます」

 宗像屋は、結論を述べた。

「砂漠の土壌に、人体の内界と同じような生態系を創造できるかポイントです」

 義鷹は悟った。

破壊された環境を再生するには、微生物界への莫大な投資が必要だ。

採算ではなく、生存の問題と考えるべきだと。


 シーン8:環境問題のエキスパート・竹中八郎


 竹中八郎(環境省)が、新年の挨拶に訪れた。

「環境大臣の地球温暖化への取り組み方はどうだ?

優秀な秘書の助言を活かしているか?」

「まだ、僕の“環境経済富裕理論”を信じてもらえません」

 竹中家は、学問に秀でた家系で彼は、鳳凰義塾大学経済学部を卒業し、

環境大臣秘書官を務めている。

 使命は、ニッチ国の環境産業を百兆円規模に育てることだ。

「平均温度が三十年で一度以上、上昇しても、政治家の反応は鈍いのです」

 義鷹は頼んだ。

「すまないが、君の理論をもう一度説明してくれ」

竹中は、資料を渡した。

「これは“成長神話”が起こした問題を、三界で分類したものです」

 義鷹は、思い出す。

「これは、君が編み出した“人間を内界・境界・外界で捉える環境地図”だな」

 竹中は、頷く。

「はい、この三界のバランスが崩れると、相互に侵略や被害が起きます。

僕は、これを環境政策の基盤にしています」

 

              ***三界環境地図***


■外界(エネルギーの方向):内界→外界;外界→内界

三つの環境は、相互に影響し合い、変化する

・生物界→人間界→自然界

・人間界→生物界→自然界

・自然界→生物界→人間界

領域

・自然界:土地、空、宇宙、山、森、森林、川、海、湖

・人間界:都市、国家、企業、民族、家族

・生物界:微生物から植物や動物までの生命体

現象

・自然界:地震、津波、洪水、火山爆発

・生物界:食物連鎖(生産者、消費者、分解者)

・人間界:組織連鎖(創造者、成長者、破壊者)

変化

・自然界:温暖化、気候変動、氷山崩壊

・生物界:適応・進化・絶滅

・結果:生態系の系統樹が変化する。


■境界(相互作用の現場)

・生物界→人間界→自然界:感染症

・自然界→生物界→人間界:天災、食料不足、水不足、砂漠化

・人間界→生物界→自然界:汚染、水質汚染、森林破壊、二酸化炭素排出、放射性廃棄物


■内界(人間の葛藤要因)

・思想:利己主義、自由主義、共存共栄主義

・欲望:本能、安全、承認、尊重、自己実現

・価値観:自律、成功、権力、善意

・感情:喜び、怒り、悲しみ、恐れ、驚き、嫌悪、期待、信頼

・心理:知覚、記憶、思考、性格、行動

・教育:学校、家庭、社会、生涯教育


 義鷹は、核心を突く。

「環境問題を解決することが、莫大な収益を生むことを誰も

気付いていないのだな」

「その通りです。まだ、僕の努力不足です」

 義鷹は、次の問いを投げた。

「地球上の砂漠面積は?」

「陸地の約四分一、三千六百万平方キロです」

「君たちは、海から近い百万平方キロの砂漠の借地権

を十兆円手に入れ、現地国と利益を分け合いながら

緑地化を進めて欲しい」

「現地国民と利益を分け合う共存共栄思想を広めるのですね」

 義鷹は頷く。

「ニッチ国の基本は、富を搾取しない、利益を独占しない、共存共栄する。

これが基本行動OSになる」

 竹中八郎は、使命の重さを再確認して、席を離れた。


 シーン9:失敗計画

 

 義鷹のテーブルに長門政治(二十歳)率いる

“未来都市研究会チーム”の幹事七名が現れた。黒田塾の特務員コースの大学生で、

ベンチャーキャピタリストへの挨拶を終えたところだった。

 彼らは、大学在籍中に技術を事業化し、出資を受けて起業をする競争をしている。

出資は、返済義務がないため、責任の重さが、融資とは正反対だ。

「君の研究会のメンバーは、今、何人になったか?」

「二十名です。もっと、メンバーを増やしたいのですが・・・」

「何人までメンバーを増やしたいの?」

「三年生になるまでに百名まで増員です」

「予算は?」

「十億円です」

 義鷹は、動じない。

「スポンサーに寄付金額を増やしてもらう必要があるな。君達は、稼げるのか?」

「もちろんです」

 政治は、自信家だ。

「信用取引総額は、いくら必要だ?」

「百億円を担保に三百億円にして下さい」

 義鷹は、核心を突く。

「運用利回り二十%を達成できる根拠は?」

「ありません。ただし、祭主様のAI投資OSモデルがあります」

「実効性は、未証明だぞ」 

「だからこそ、実証したいのです」

 政治は、義鷹の理論を逆手に取った。

 義鷹は、笑う。

「政治君は、人の痛いところを突くのが上手だな。

「スポンサーが了解すれば、僕が反対しない。責任は彼らが負う」

 政治は、満足した。

 義鷹は、事業化リストを求め、政治はメモを渡した。

「これで、取引成立ですね」

「君の研究チームの大学三年生からの研究進路が

明確な者は、何人だ?」

「はい、僕を含めて十二名です。まだ、一年生なので

自分の進路を決めかねている者が多いのです」

 

     ******研究テーマ******


・長門政治:投資工学

・大村大輔:AI利用技術(言語統一OS、投資OS開発など)

・北村杜夫:砂漠の資源化技術(石英、長石、雲母、磁鉄鉱、塩など)

・中川栄治:防衛技術(レイザーバリア技術など)

・川村拓郎:海底都市技術(海底都市、鉱山船、深海潜水艦など)

・風間裕:地下都市技術(地下都市、トンネル、道路など)

・真田幸村:量子技術(半導体、通信、コンピュータなど)

・伊藤伸介:核融合技術(小型原子力エンジン、発電機)

・久住源:微生物利用技術(土壌改良、人体健康、生態系など)

・大槻信二:生態系循環形成技術(川、湖、沼、草地、森林、山)

・京極卓:生命科学技術(小型人工臓器開発など)

・松坂康介:宇宙工学(宇宙船設計、宇宙通信、地球監視)


 アキラが、現れる。

「義鷹、君は、この砂漠に必要な“新しい芽”を育てていたのか?」

「老木には、新しい実はならない。若者の種が必要だ」

 義鷹は、失敗学として、株式投機を“心理戦”の訓練にしていた。

 アキラは、皮肉をいった。

「君は、失敗から学ぶ天才だからな」


 義鷹は、2025年三月の投資家育成計画を思い出す。

黒田塾第三世代の高校生十名に、株式運用競争を課した。

“自己制御能力”の育成と“自由行動の顛末を学ぶ教育”を仕掛けたのだ。

 権利とは、自由な行動の選択を介して、

“自己責任の重さ”を受け止める義務である。

 投機とは、投資と異なり、目先の欲望の戦いだ。見事に勝者と敗者に分れる。

「長門君、競技ルールを説明してくれ」

「これは、短期戦の勇者になるゲームです。

スポンサー交渉により各人に教育資金で一億円、

チームで総額十億円が提供されます。

その運用目標は、毎年十二億円以上です」

 政治と大村は、中学一年生の時から、六年間、父親の口座で

実戦訓練を積んでいた。

 義鷹は語る。

「指導者像に必要なのは、失敗しないことではない。

自分と他人の内界を知り、失敗に対処できることだ」

「相場は、価値変動の教師だ。自分流の運用方法を確立しなさい」

「指導者になる者は、敵対者の戦い方を学び、内界・境界・外界

の構造を理解し、調略作戦を実行できねばならない。

まず“心理戦”を征することから始める」

「龍郎の投資家グループとの“師弟制度”を導入した。

師匠選びは、人生を左右する。慎重に選びなさい」

青年達は、再び師匠探しに戻って行った。


そのとき、龍郎のテーブル席のほうから、

ざわめきが起きた。

 オウ国とニッチ国の環境大臣がお忍びで昼食会場に登場した。

投資家たちの視線が、一斉に一点へと集まる。

龍郎が、ゆっくりと立ち上がったのだ。

 アキラが、低く呟く。

「義鷹・・・境界の目が動いたぞ」

 義鷹は、椅子から手を離し、龍郎の背中を見つめた。

百兆円の資金を握る男が、ついに“次の一手”を打とうとしていた。

未来都市の運命を左右する、昼食会の第二幕が始まる。

第四話:未来都市の昼食会 ― 龍郎テーブル席列の話し合いへ続く


第三話は、未来都市の昼食会という静かな舞台で、

三界のエネルギーが初めて“可視化”された章だった。

外界の欲望を背負う者。

境界で計算を巡らせる者。

内界の夢を抱く者。

そして、そのすべてを統合しようとする義鷹。

彼らの会話は、単なる挨拶や雑談ではない。

未来都市の命運を左右する“芽”が、

砂漠の光の下で静かに発芽した瞬間だった。

だが、芽はまだ脆い。

風が吹けば折れ、

熱が強すぎれば枯れる。

次章では、

その芽に最初の“風”が吹く。

百兆円を握る龍郎が動き、

投資家たちの視線が一点に集まるとき、

未来都市の本当の物語が始まる。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ