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A61  作者: Aju


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5 壊れること

 週末が待ちどおしくなりました。

 仁美さんに連れられて、サトシさんとフードバンクのお手伝いに行く週末です。


 そんなある日のことです。

 荷物を持ち上げようとしたときに、首にかけていた小瓶が引っ掛かって紐が切れ、リュウジの遺骨が入った瓶が外れて飛んでいってしまいました。


 カチン! と音がして、瓶が床のコンクリートに当たり、ころころと転がりました。


 わたしは慌ててそれを拾いにゆきます。

 幸い瓶は割れていませんでしたが、ひとつ間違えば割れて粉々になってしまったかもしれません。

 少しだけしか入っていないリュウジの骨は、飛び散ってどこに行ったかわからなくなってしまったかもしれません。


 震える手で紐の切れたところを結び直そうとしていると、仁美さんの手がわたしの手の上に重なってきました。


「あらまあ。」

 そう言って仁美さんは、くるくると鮮やかに紐を結び直してくれました。

「作業の時は掛けてない方がいいかもね。」

 仁美さんは自分の鞄の中にその瓶を入れてしまいました。


「帰ったら、もっと丈夫で作業の邪魔にならない短い紐に変えてあげるね。」


 いいえ。

 わたしは胸のところにあるのがいいんですけど‥‥。

 リュウジが今も甘えてくれているようで‥‥。


 でも、そんなわがままは仁美さんには言えませんでした。

 紐を付けてくれたのも仁美さんなんです。

 作業のときも掛けていられるように——と、仁美さんはそんなふうにわたしを気遣ってくれているのだと思うからです。


 わたしはちらちらと仁美さんの鞄を見ながら、その日の作業を終えました。


 妙なところに結び目のできた紐を首に掛けて、わたしはその日の帰り道もサトシさんとゴミを拾って歩きました。


 その日のうちに仁美さんは、瓶の紐を短くて丈夫でカラフルなものに取り替えてくれました。

 掛けてみると瓶は胸ではなくもっと上の方、肩の高さと同じくらいのところにきました。


 ちょっと違うかな‥‥とは思ったのですが、仁美さんにはやっぱり感謝です。

 笑顔を見せて、仁美さんに(たぶん初めての)「ありがとう」を言ってみました。

 仁美さんが嬉しそうな笑顔を見せてくれました。

 ええ、そうです。わたしも「ありがとう」を言われると嬉しかったのでそうしてみたのです。

 そうしてみてよかったと思いました。



 翌日、仁美さんが仕事に行ったあと、わたしは檻の中でリュウジの骨の入った瓶の上に手を重ねてみました。

 ‥‥‥‥‥‥

 でも、ちょっと違うのです。

 やっぱりこの位置ではないのです。


 わたしは紐を首から外して、瓶を胸のところにもってきました。

 そうしていると、やっぱり安心できます。


 わたしはそのままで読みかけだった小説を読もうと本を開きました。

 挟んであった紐を外して文字を追いかけ始めましたが、またいつもみたいに眠ってしまったようです。


 夢を見ました。

 あまりよく覚えていませんが、愛が友達とお砂を掘って遊んでいるようでした。

 ()()の顔はよくわかりませんでしたが、幼い頃のリュウジのようでもありました。

 わたしの顔の前に蜘蛛の巣があって、わたしは手を伸ばそうとするのにそっちに行くことができません。


 うん!

 と力を入れて動いたところで、何かがバタンと胸から落ちました。


 目を覚ますと本が床に落ちて、小瓶がその下敷きになっていました。

 わたしは慌てて本を退けて瓶を確かめます。

 どこにもヒビなどは入っていないようでした。


 ほっとはしましたが、起きたばかりなのに胸がどきどきしています。

 わたしはもう一度、小瓶のついた紐を首に掛けました。


 不安がわたしを襲ってきました。

 2日の間に2度も、瓶を壊しそうになってしまいました。

 どうしよう。

 リュウジの遺骨はこれだけなのに‥‥。


 おかしいですよね?

 リュウジの体はとっくに壊れてしまっているのです。とっくに燃やされてしまっているのです。

 この瓶に入っているのは、その灰の中から西田さんが拾ってくれた残骸でしかないのですよね?


 わたしは何にこんなに不安がっているのでしょう。

 でも不安で不安で仕方がないのです。

 不安が大きくなって、怖くて怖くて仕方がないのです。


 この瓶だって、いずれは壊れてしまうものです。そうなれば中の遺骨もどこかに散らばってしまうでしょう。

 どう不安がっていても、いずれはそうなるものなんです。

 どんなに大事にもっていても、そうなるものなんです。


 週末、わたしたちはまたフードバンクのお手伝いに行きました。

 河原のゴミ拾いに——と仁美さんが車を止めてくれた場所で、サトシさんとわたしはゴミを拾いに河原に降りました。


 その場所で、ふとわたしは思ったのです。

 どんなに不安がっても、どうせ壊れてしまうもの‥‥‥


 わたしは首から紐を外し、河原の石で小瓶を砕きました。



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