4 ボランティア
わたしとサトシさんは一緒に、仁美さんが参加しているフードバンクのお仕事のお手伝いに行きます。
仁美さんの役に立ちたいのです。
途中、徒歩で歩くときはサトシさんは丁寧にゴミを拾います。
わたしも真似をして拾うことにしました。
わたしがゴミを拾ってサトシさんの持つビニール袋に入れると、サトシさんは少しはにかんだように嬉しそうな顔を見せました。
なんだかわたしはそれが嬉しくて、いっぱいゴミを探して拾うようになりました。
そうやって見てみると、わずかな距離の間にも実にたくさんのゴミが落ちていることに気がつきました。
これまでほとんど気にしたことがなかったのですが、みんな誰かが捨てていったものなのですよね?
人間は見ようとしないものは見えていないんだ、ということにわたしは初めて気がつきました。
サトシさんはゴミ拾いの金属製トングみたいなものを仁美さんにもらって、それでゴミを挟んでビニール袋に入れていきます。
わたしが最初手で拾っていたら、仁美さんが同じものを私にも渡してくれました。
「何かの感染症になったりしたら、困るのはわたしだから。」
わたしは別に汚いという感覚もなかったのですが、仁美さんを困らせてはいけないので言うとおりにすることにしました。
2人のハーネスの先は仁美さんが持っています。
外に出す時はそうしないといけない規則だからです。健次さんもそうしていました。
サトシさんとわたしはフードの付いたパーカーを着て、頭から深くフードをかぶり、その上でマスクもしています。
顔の『X』がなるべく見えないようにするためです。
そうしないと怖がる人がいるからだそうです。
だから、わたしとサトシさんは少し俯き加減に歩きます。それでよけいよくゴミが見つけられるのかもしれません。
フードバンクでは主に荷物の整理のお仕事をします。
2人も『X』がいると食料を受け取りに来るお母さんたちが怖がるといけないから、奥であまり顔を見せないように仕事をするように言われました。
そうですよね。
子どもを殺した女がいては、受け取りを躊躇するお母さんがいるかもしれませんものね。
それは子どもに食べ物が渡らないことにつながってしまいますから。
そうです。
わたしは子どもを殺した女なんです。
‥‥‥‥‥‥
でも、なんだかそれは遠い世界のことのようにも、今は感じてしまいます。
仁美さんと一緒に働いている人たちは、わたしを見ても驚きませんでした。
「ああ、この人がサチコさんなんですね。よろしくね。」
わたしなんかを名前で呼んでくれます。
サトシさんが一生懸命働いている姿を見ているからかもしれません。
サトシさんは本当に一生懸命働きます。
わたしと違ってサトシさんは食べ物を手渡す方の仕事もさせてもらっています。
丁寧で親切だからかもしれません。
「あの人は長いから、みんな慣れてくれたんですよ。」
ボランティアの羽田さんという人がそんなふうにわたしに説明してくれました。
「あなたもここにくる人たちが慣れてきたら、少しずつあっちも手伝ってもらいますね。」
明らかにホームレスだとわかる人たちが来たときなどは、サトシさんはその人たちと談笑もしていました。
あとで聞いたところでは、もともとの知り合いなんだそうです。
人権剥奪者でもあんなふうに普通の人とつながることもできるんだ、とわたしは少し新鮮な驚きを持ってその光景を眺めていました。
午後の日差しは汗ばむくらいで、サトシさんの笑顔はきらきらと輝いているみたいに見えました。
こうしてボランティアのお手伝いをしている時は、わたしは不思議に眠くなりません。
体を動かしているからでしょうか?
それとも、わたしは本を読むことが苦手だからなんでしょうか?
昔はそんなこと思ったことはなかったような気もするのですが‥‥。
役に立てていることが嬉しいのだろう、とわたしは自分の変化をそのように考えてみました。
汗を流して働く——という経験を、わたしはしたことがなかったのだとこの時初めて気がつきました。
施設にいるときはお世話されるばかりで、勉強だけをしていました。
同情はされていたようですが、言葉は知っていても「同情」という感覚はわたしにはよくわかりません。
施設を出てからは、お金を稼ぐことで頭がいっぱいでした。
稼ぐ方法は1つしか知りませんでした。
頬をつたう汗を袖口で拭いながら、誰かから「ありがとう」と言われるような仕事をしたのはこれが初めてです。
なんだか心が弾むような感じがします。
わたしにもまだ「心」が残っていたみたいです。
「いい顔をしてるわね、サチコさん。」
仁美さんにそう言われて、思わず顔を上げてしまいました。
あ‥‥『X』が見えてしまった‥‥‥




