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蒼穹の涼風――人類の正義を撃ち抜け  作者: ジェミラン
第5章:終焉と新生

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9/10

敵の中枢「コア」への最終強襲。歪んだ物理法則が支配する深淵で、夏山は世界の真実と対峙する。

重苦しい空気が夏山颯たちの肺を絞めつける。彼らが踏み入れたのは、人類が幾多の戦火をくぐり抜けてきた戦場すら凌駕する異形の空間だった。目の前に広がるのは、有機的な脈動と無機的な冷徹が混じり合った、まさしく生命体とも機械ともつかぬ巨大な構造物。壁面がまるで生き物の皮膚のようにうねり、その表面を蠢く血管状の配管が脈打つように流動している。鋼鉄やコンクリートの冷たさは消え失せ、代わりに粘膜の湿り気と金属の硬質感が奇妙に入り交じっていた。


重力は不安定に増減を繰り返し、夏山たちは足元が踏みしめられる感触すら揺らぐのを感じる。瞬間、体が軽くなり、まるで宇宙空間を漂うように浮き上がる。だが次の瞬間には、逆に足元を押し潰されそうな重圧が襲い、血管が切れそうな痛みが走った 。頭に響くのは遠くのタイタンやクラーケンが咆哮するかのような低周波音。時間の流れも狂っていた。瞬間的に数秒が数時間に、また、数時間が一瞬に変わる。周囲の空間が歪み、まとう空気そのものが振動し続けている。


それはまるで時空の織り目が裂け、別の次元に侵入してしまったかのような感覚だった。


彼らの前に姿を現したのは、情報の海――いや、知性そのものだった。



「よく来たな、人類よ」



空間に言葉が、音を伴わずして直接響きわたる。まるで無数の思考が結集した意識の塊が語りかけてきたかのようだった。夏山の心臓は凍りついたが、同時に強烈な好奇心がその眉間を支配した。



「我々はこの宇宙の深淵から生じ、時間と空間の隙間を漂う存在。君たちの戦争も歴史も、すべて我々の目には明瞭に映っている。人類は自己保存のためと言いながらも、破滅への道を選び続けてきた。殺戮、欺瞞、裏切り……それこそが彼らの真の目的だったのだろう?」


声は、凍てつく冷静さの中に奇妙な慈愛を含んでいた。夏山は無数の記憶が頭の中を駆け巡るのを感じる。幼少期の故郷、軍服に身を包み誇りに満ちた誓い、仲間たちとの絆。そして今、彼らが辿った幾多の戦いの意味が、すべて覆されていく。


「だが、忘れてはならない。君たちの側にあるものは、真実の氷山の一角に過ぎない。貴様らが守ろうとした『国』と『軍』―― それは我々の手駒であり、人類の破滅を加速させるために糸を引く存在だ。君たちは奴らの意志に支配され、操られている。抵抗など無意味であると気付いているか?」



言葉の一つ一つが、夏山の心臓を深く刺し貫いた。目の前に現れたスクリーンのような映像には、これまで知らされなかった秘密が激しく紡がれていた。国家間の秘密協定、裏切りの連鎖、戦争資本の闇、そして敵と同じ情報網と技術を用いながら、密かに操られていた彼ら自身の軍隊。


戦いが人類のためでなく、むしろ彼らを死地へと追いやるために利用されていたという事実。綻びた理想の像は、血肉に染まった鉄塊のように冷たく立ちはだかる。


「なぜ……なぜこんなことが……」


夏山は震える声で問うも、知性はただ静かに笑ったのだろう。



「それが、生命の本質だからだ。自己保存と繁栄の欲望が、破滅をもたらす矛盾こそが存在の根幹。だが、君たちの意思の弱さとは違う、真の覇者としての一撃を今ここに示せ。さもなければ、この宇宙の闇に沈むことになるだろう」


夏山は握り締めた拳を解き、わずかに震える指で新兵器の制御装置に触れた。情報の波動の中に浮かび上がる敵中枢の心臓部を見つめながら、彼は決断した。たとえ絶望が血となり肉となり、骨の髄を抉ろうとも、ここで屈するわけにはいかなかった。



「たとえ裏切りに縛られていても、俺たちが背負うのは人類の未来だ!たとえ虚像の上に築かれた「国」の看板だとしても、存在に意味を与えるのは俺たちの意思だ!」


彼の声には、深淵を前にした人間の震えと、それを乗り越えようとする強烈な意志がこもっていた。


新兵器の出力を段階的に引き上げる。エネルギーが収束し、新たな暴力の火柱となって無機と有機の狭間を貫こうとしている。


その脈動は、生きているかの如く、空間の裂け目を震わせた。



「これが人類の最後の光だ」



夏山は覚悟を胸に、指先で最終起動ボタンに触れた。闇の中枢を打ち砕き、未知なる光の扉をこじ開けるために。


彼の目が見据える先には、終わりか、新たな始まりか。宇宙の彼方へと轟く、一撃の鼓動だけが響いた。


――無限の闇が、夏山颯を包み込んだ。


轟音と共に吹き荒れる敵の攻撃。光速を超えるレーザーが、地面を引き裂き、空気を焼き尽くしていく。仲間たちの悲痛な悲鳴が次々と断ち切られ、瓦礫の下に埋もれていった。砂塵の中で、夏山の身体は幾度も何度も弾き飛ばされ、傷だらけのまま立ち上がる。しかし、彼の瞳は決して揺らがなかった。今、この瞬間を越えねばならない。彼にとって、この戦いは単なる任務ではない。亡き友・秋山零の言葉と、受け継いだ意志が胸の奥で激しく燃えていた。


「颯、絶対にあきらめるな。どんなに絶望的でも、強い意志だけが道を切り開くんだ…」


あれは序盤、静寂の中で交わした約束。彼が何度も思い返した言葉だった。零の姿はもうない。だが彼の魂は、夏山の心臓に直接語りかけていた。この敵の中枢を破壊しなければ、人類の未来はない。仲間の命も、自分の命ももはや数え切れない。だからこそ、今は前に進むしかないのだ。



厚く張り巡らされた敵の防衛網。そこには物理法則すら無視した不可侵のバリアが立ちはだかる。すべての攻撃を吸収し、反射し、時には致死的な環境変化を引き起こすこの結界。これを突破せねば、コアには届かない。夏山は唇を噛んだ。


「これが最後だ……!」


懐から新兵器──試作型エネルギー投射装置「フェニックス・アロー」の起動画面に指先を滑らせる。通常は安全装置のリミッターが十二段階のヤマを超え、いよいよ全解除されるときが来た。制御系統から流れ始める過負荷電波。異形の機械を身体の一部のように操り、颯は奥深く静脈に流れる血の高鳴りを感じた。


「新兵器、全リミッター解除。これで最後の翼となる……!」


青白い閃光が装置からほとばしり、彼の全身を包み込む。同期値が跳ね上がり、機械油と電磁波が混ざった匂いが鼻を突いた。


時間は止まり、宇宙の法則さえも侵害するかのように、夏山の周囲の空間が歪んでいく。



敵陣のバリアは完璧に見えた。だが、半年に及ぶ数多の戦いで叩き込まれた経験と、何度も死線を潜り抜けてきた鋭い直感が告げる。完璧に見えるものにも必ず隙はある。波打つ結界の干渉パターンが痛烈に脈動し、かすかな周期性を露わにしていた。


「ここか……!あの日、零が教えてくれた"音のずれ"だ。」


かつて見失ったタイミング。繰り返す波の中で一瞬収束し、脆く裂け目を生む瞬間。夏山はその合間を狙って放った。


「フェニックス・アロー、全出力最大。覚悟を――!!」



圧倒的エネルギーを放つ弓なりの光線が、突破口へ飛翔した――。



防御網が割れ、鋭利な火花と共に轟音が敵の中枢内に鳴り響く。数百のサイバネティック兵器たちの咆哮と電磁波砲の反撃が消え去り、コアが怯えたように揺らぐ。


「くそっ……こんなはずじゃない!」


敵指揮官の叫びすらかき消される。ひび割れ、軋み、そして――「悲鳴」のような鈍い響きが空間に延々と鳴り渡った。


「これが……俺たちの意志の力……!」


青白い閃光の中、夏山の拳がしっかりと弓の引き金を引いた。爆発的なエネルギーの渦がコアを包み込み、あらゆる存在の根幹を揺さぶった。



瓦礫が崩れ落ち、辺りの世界が揺れ動く中、夏山は深く息を吐いた。灰に紛れ、仲間の磐石な意志が彼の背中を押す。零の言葉が彼の心に再び燃え上がる。


「諦めなければ、未来は変えられるんだ……!」


運命を掴み取った英雄の姿。闇の中で何度も闘い、折れそうな心を繋いだ絆の証明。今、夏山颯は、人類の未来のために新たな一歩を踏み出していた。



そして、遠くから聞こえる勝利の鼓動と共に――最終決戦は終焉を迎えたのだった。

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