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蒼穹の涼風――人類の正義を撃ち抜け  作者: ジェミラン
第5章:終焉と新生

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闇が裂け、朝陽が薄紅色の帯となって空を染めた。焦土と化した敵の拠点の瓦礫の間、まだ煙がゆらゆらと立ち昇っている。爆炎と銃撃の轟音が遠ざかり、静寂だけが重くのしかかるその場所で、夏山颯は目を細めた。目の前には、瓦礫の隙間からその姿を覗かせる一輪のヒナゲシの花。執拗な戦の爪痕のなかに、小さな生命が凛と立っていた。


「これが、最初の朝か──」颯の声はかすれていた。けれど、その声には不思議とたしかな温もりが宿っていた。


彼の背後には、生き残った仲間たちが肩を寄せ合い、ほっとした表情を浮かべている。戦いの渦中では、彼らは常に前だけを見て歩いてきた。命の瀬戸際で電光石火の判断を繰り返し、敵の影に震え、友の死に涙をこぼした。しかし今、彼らの瞳に映るのはただ静かな光。長い夜が終わり、新たな朝が訪れたという確かな証だ。


「俺たちは……生きているんだな」



小さく呟いたのは、冬樹だった。頬にはまだ泥がべったりと残り、眉間には深いしわが刻まれているが、その言葉は清々しい空気のように澄んでいた。


「ありがとう、颯……」


後ろから野々村がそっと声をかける。彼女の目にも、安堵の涙が滲んでいた。激戦の中で何度も死の淵から生還し、分かち合った絆は、戦争の虚しさを超えて彼らを強く結びつけていた。だが、この朝は違った。戦いではなく、それぞれの未来への目線がそこにあった。


瓦礫の山に腰を下ろし、颯はすべての記憶を嗅ぎ分けるように吸い込んだ。撃ち合った銃声、燃えさかる火柱、仲間の最後の叫び、そして不意に訪れた終わりの沈黙。胸の奥で、彼ら全員の魂が一つになり、重い呪縛が溶けていくのを感じた。


「これから、どうする?」


志保が静かに訊ねた。その瞳は真剣だった。だが、それは問いかけではなく、既に自分たちの中に答えを持っていることの証明でもあった。彼女は大地に額を擦り付け、震える手で埃を払う。まだ見ぬ明日への第一歩が、そこに確かにあった。


「戻ろう、故郷へ。だが……」


颯は立ち上がり、ひとつ瓦礫の上に手をついた。手のひらに残る冷たさは、ただの灰ではなく、今は失われたもの全てを含んでいる。それと同じ数だけ彼らは背負い、そして守り抜かなければならない未来を抱えている。


「忘れてはいけない。戦いの果てに何を失い、何を守ったのかを。真実はまだ、世界の闇の中に隠れているかもしれない。でも俺たちは、間違いなく違う景色を見ている――新しい世界の形が、あの空の向こうにあることをな」


時間がゆっくりと動き出し、彼らの胸を波紋のように揺らした。互いに眼差しを交わし合い、もう一度だけ誰もが深呼吸をしながら、静かな別れの挨拶を交わす。


「ありがとう、みんな。これからもずっと共に歩もう」


その言葉は約束そのものだった。どれほどの困難があろうとも、彼らはその過去とともに生き、新しい道を切り拓く覚悟を胸に抱いていた。



やがて、颯はひとり訪れた。戦友たちの帰らぬ眠りが眠る場所へ。かつて共に戦い、倒れた仲間たちの遺骸は、彼らの手で小さな墓石に添えられている。土の匂いと風の音だけがそこにあった。


「俺たちは、生きている。お前たちの意思をここに継ぐため、誓う」


鋭くも優しい瞳を閉じ、颯は拳を固めた。敗北と死の連鎖を断ち切り、二度と繰り返さないために。戦場で失ったすべてに報いるために。彼の胸にはあふれる熱い想いが満ちていた。



「新しい世界を、築く──必ず」



そう呟くと、颯は墓前にそう告げ、深く一礼した。風が彼の服を揺らし、周囲の草木がささやくように揺れた。


震えていた大地も、太陽の光を受けて少しずつ彩りを取り戻し始めている。彼らが信じる未来は、まだまだ未完成かもしれない 。しかし、確かな灯は心の中に点り続けていた。


夏山颯が見たのは、灰色の雲の間から差し込む陽光。かすかな息吹が芽吹く新たな大地。そして、これからを生きる者たちの、希望に満ちた瞳だった。


終わりではなく、始まりの合図。失われた命の重みとともに、彼らの歩みはこれからも続いていく。




──いくつもの夜が明けて、やがて世界は再び輝きを取り戻すだろう──




そう確信しながら、颯はゆっくりと歩き出した。

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