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春休み

今新学期も終わり、新しいクラスや学校に馴染み始めた

学生さんもおられるかもしれません。社会人になると4~7月というのは

慌ただしい年度末を乗り越え、春の陽光と共に緩やかなスタートで始まり、

夏に向けてどっと忙しくなる時期です。

そんな私にも学生時代はありました。

今からお話しするのは私が中学3年生だったころの春休みの実体験です。


場面は福岡にある田舎の学校にて、卒業式を終えたところから始まります。

会場となった体育館を出た後、遂先ほどまで卒業式が行われていたその入り口を

見て、「もう終わるんだな」と実感します。そこから教室に戻り、

最後のHRが始まります。担任の先生が一人一人生徒の名前を読み上げ、

教壇の前に呼び、一旦預かっていた卒業証書を手渡していきます。

そこで、その生徒に対する思いを一言添えて一緒に贈ります。そして、

私の番が来ます。名前を呼ばれて行くと、

その時に贈られた一言は「まさかあんなにおもしろいとは!」でした。

私は控えめな性格の学生でしたが、最後の文化祭で演じた劇で

オカマ役をやり、それが空前の大ヒット。もう体育館が揺れるほどの大爆笑を

搔っ攫ったことが先生の印象に残ったようで、その事を褒めてくれました。

ただ3年間もあったのだから、もっと日常的なことを褒めてくれと思ったのは

ここだけの内緒です。さて最後のホームルームも終わり、

いよいよ教室から出ます。しんみりしたのは嫌いだったので

直ぐに教室を出て下駄箱に向かいます。靴に履き替え、履いていた上靴を

うっかりもう戻す必要のない下駄箱に戻しそうになった時、

ふとニヤけてしまったのですがその直後、胸から熱い想いがこみ上げてきます。

クセになっているほど当たり前だったこの動作も明日からはもうなくなるのかと

悟ると、今までの3年間が蘇ります。しかし、それを堪えて玄関を後にします。

一緒に出てくれた友人たちと校舎を振り返り、

各々が何かを胸にしながら、咲き始めた桜の木をよそに帰路へとつきました。

さて家に着くと高校入学までの春休みが訪れます。

毎年楽しみに待っていた長期休みの一つ、春休み。

中学1年から2年にかけてその全てが楽しみでしたが。中学3年になってから

迎える春休みは今までとは全く違ったもので、楽しさだけではなく、

寂しさや高校進学への期待と不安が合わさった何とも複雑なものでした。


しかし、この春休みはそんなノスタルジアを一変させ、

生涯忘れることのない驚きの展開を迎えることになります。


3月21日。休みに入って一週間が経ったころです。

その日もいつものように田岡という友人の家に集まり、

ゲームをしながら過ごしてると、田岡がこう切り出します。

「俺たちはいつも家でゲームばっかだ。」「もうすぐ高校生になるんだから少しくらい外の世界を知ってても良いんじゃないか?」と言い出します。

するともう一人の友人、藤井が「じゃあさ、やこ山に行ってみるか」と返しました。

この「やこ山」というのが、自転車を使えば5分ほどで麓に着くほどの身近な山

なのですが、道が整備されておらず、いかにも物々しい雰囲気の為、

地元では誰も寄り付かない、危険な山として認知されていました。

そんな山に藤井が行こうというので田岡は「え~」といった嫌そうな顔を

していましたが、私としてはちょっと興味を引かれたので

「まあ危なそうなら引き返せばいいだろう」と言って田岡を説得し、

3人でやこ山に行くことにしました。昼の12時に麓に到着し、さあ今から登るか、

というところで藤井が口を開きます。「今から入るにあたってルールを設けよう」

「一つは、日が落ちる前に山を出ること。もう一つは、

危険を感じたら必ず引き返すこと。この2つだ。いいな?」と言って

確認を取ります。田岡と私はそれに同意していよいよ山を登っていきます。

一応山頂を目指して歩いていくのですが、整備されていないその山道は思ったよりも

険しく、当時中3だった我々には少しきつかったのを覚えています。

山を登り始めて1時間たったころ、足が痛くなってきて「一回休憩しよう」というと

藤井は「いやまだいけるだろ」と言ってくるのですが田岡もちょうど

疲れていたらしく「いや頼む、一回休ませてくれ」と言ってくれたので

「わかった仕方ないな。少し休憩するか」といって近くにあった

少し大きめの石を椅子代わりにして腰を据えます。

すると田岡が話し始めます。「宗徳(そうとく)さ、好きな女の子いなかったっけ?

告白できたの?」突然の質問に私が面を食らっていると藤井が

「え!?マジ!?いたの??誰よ!?」と詰め寄ってきます。

実は私には同じ部活に好きな同級生の女の子がいたのですが

結局告白する勇気が出せず、そのまま卒業していました。

「いや、無理やった」というと田岡が「お前マジ根性ねぇな」と言ってきます。

「いや、だから誰なんだよ!」藤井が言います。私が答えあぐねていると

田岡が「宗徳が入ってた部活に同級生の女の子が一人だけいたやろ?そいつだよ」

と答えてしまい「あー!おい!!言うなよ!」とすぐ返したのですがもう遅く、

そこから藤井の「どこが好きなん?」「連絡先交換したの?」

「このままでいいのか?」と怒涛の質問攻めが始まり完全に参っていると突如

「オー…」という声の様なものが山中に響き渡ります。

それは少し低く、動物の鳴き声の様な、男の叫び声のようにも聞こえました。

思わず3人とも周りをパッと見渡します。しかし何の気配もありません。

時計を見ると時刻は13時半。まだ日も落ちていませんが最初に決めたルール。

「少しでも危険を感じたら必ず引き返すこと」にしたがってその日は

下山することにし、そのまま解散となりました。


そしてこの日経験した事が、私たちを思いも寄らぬ方向へと引っ張っていきます。


次の日、3人で田岡の家に集まると話題は直ぐに昨日聞いた「あの声」になります。

「あの声?なんやったんやろうね?」と藤井に聞くと「熊じゃない?」と返され、

人だと思った俺は「いや、男っぽかったくない?」と聞き返しますが、

そこで田岡が割って入り、「実は昨日気になって、やこ山について調べたんよね」

と言い出します。田岡によると、親に聞いても、ネットで調べても

全く情報が出てこなかったので、近くの公民館に行き、地元が出している機関紙や、

本など、やこ山に関する資料を調べまくったらしく、

その時に見つけたかなり古びた日誌に、とある村の伝承が書いてあったそうで、

そこから大体の見当がついたとのことでした。


今から約300年前、私たち3人が休憩をとったあの場所には昔「やんこ村」と

呼ばれた村があったそうです。当時江戸幕府中期だったころで、

京保の大飢饉がおこり、悪天候により作物は育たず、

わずかに残った物にも虫が湧いて食べられなくなったりといったありさま。

福岡県全体でみると、わずか2年の内に30万人中、10万人もの死者を出す

大飢饉だったとのこと。そんな中やんこ村でも死者が続出。

元々50人ほどいた村人は20人まで減少。更には食い扶持を減らすために、

生まれて間もない子供や老人を川に流していたそうです。

しかし、それでも不作には抗えず苦しんでいた村民達が話し合い、

山を下りて少し離れた所にある寺に行き、「どうすればこの苦境を乗り越えることができるか?」と

住職に相談しようということになりました。

そこで村の村長が寺に赴き、住職を訪ねると5尺ほどの、

今で言う150cmほどの縦長で大きな箱を渡されます。そして住職に、

「まず、この箱を壊したり、開けたりしてはいけません。

そしてこの箱を持ち帰り、誰か一人の村民の家に置き、

必ず毎晩虫の湧いていない奇麗な稲穂を一つお供えしなさい。

そして7日毎にこの箱を別の村民の家に置き、すべての家に行き渡った後、

最後に村長の家で7日間稲穂のお供えをして、その箱を燃やしなさい」と言われ、

村長はその箱を持ち帰ることにします。言いつけ通りに村で実行し、

一人目、二人目と順調に箱が家を渡るにつれ、徐々に天候の良い日が続いたり

今まで沸いていた虫が少なくなったりと状況が好転。

恐らくこのころ村民たちが油断をし始めたのでしょう。

数件周ったあと、村長の家に周るよりも前にとある一人の村民が稲穂のお供えを

忘れてしまいます。すると一転して冷夏と呼ばれる夏にも関わらず気温が

低い状態が続き、一気に作物が育たなくなる事態に陥ります。

慌てた村長が寺に行き、状況を説明します。

すると住職は「こうなってはもう遅いが解決方法が一つあります。」と言います。

それは以前渡した箱に村で一番偉い村長が入り、

その中で死ぬまで食べることも飲むこともせず過ごし、亡くなった後に箱ごと、

この寺にお供えして天の許しを請うというものでした。

村長はとてつもない恐怖に駆られたそうですが、このままでは村は全滅する恐れも

あり、自分の家族を守るためにもやるしかないと腹をくくったそうです。

村に戻り寺で聞いたことを皆に説明し、いよいよ村長が入ることになります。

しかし、箱を開けようとするのですが一面を釘で頑丈に留められており、

なかなか空きません。やっとの思いで、箱を開けると中から白骨化した

死体が出てきたそうで、以前にも同じ過ちを犯した者がいたことが察せられます。

そして村長が中へ入り、釘でもう一度留めなおします。

それから何日か経ち、中から返事が返ってこなくなったころ、

村民たちは寺へその棺となった箱を渡しに行きます。すると住職が大きなカゴの様な桶に水を張り、

その中に箱を入れます。そして下から火を焚きます。

住職が言います「これで肉体は燃えませんが魂は焼かれて天へと献上され、

神の怒りも静まることでしょう」村民たちはその一言に安堵したようですが、

水が煮え立つと箱の中から叫び声が聞こえ、ばたばたと震え始めます。

どうやら村長はまだ生きていたようですが、住職は悲しい顔をしたまま動かず、

村民が助けようとするとそれを制止して「終わるまで待ちなさい」と一言。

そして叫び声が消え、箱の動きがピタリと止まると「これでもう終わりです。作物もまた育つでしょう」

と言って村民たちを返したそうです。それから間もなく京保の大飢饉も終わり、

やんこ村の人口も回復したそうですが、ときおり寺の方から低く唸るような声が

聞こえてきたそうで、それを気味悪がった村民たちが一人、また一人と村を離れ、

気づけば村は無くなってしまった。


という伝承が、その日誌に書かれてあったそうです。


そしてここまで田岡が私たちに説明してくれた後、

耳を疑う衝撃の事実を明かします。

なんと「この話に出てくる寺が今もある。」というのです。

しかも、その寺というのが毎年お祭りを開催しており、

私たちも毎年遊びに行く、本当によく知っている寺でした。

更にその祭りの開催日を2日後に控えているという状況でした。


ここから物語は、いよいよクライマックスへと向かいます。


田岡が言います。「2日後の祭りに、この寺に忍び込もう」と。

さすがにまずいと思った私は「いや、それはやばい。もし見つかったらどうする?」

しかし、田岡はどうしても「あの声」の正体が気になって仕方がありません。

あまりにも必死になって説得してくるので私も藤井も観念して、

「わかったじゃあ作戦を立てよう」と言って忍び込むことになりました。

ここで、その時立てた作戦を説明します。

目標は、日誌に登場した棺を見つけること。

作戦決行はお祭りが終わって人が帰ったあと、住職たち職員が油断しているであろう

タイミングを見計らって忍び込む。

しかし、万が一見つかりそうになった時の為に、寺の入り口に一人おとりを残し、

そのおとりがわざと見つかって住職たちの気を引き、その隙を狙って

残りの二人が中へ侵入するというものでした。

作戦が決まると、問題は誰がこのおとりをやるか?という話に移ります。

藤井が「田岡は目が良い。だから寺の中がもし暗くても棺を見つけられるかも

しれない。となると俺か宗徳だが、俺は宗徳より足が遅い。

だから宗徳がおとりになるのが良い」と言いました。

しかし、私だって折角なら中に入りたい思っていました。

何度か三人で話し合いをしましたが、やはりどう説明しても結局藤井の案が一番

良いだろうということになり、結局私がおとり役になりました。


そしてお祭り当日、私たち三人は毎年の様にお祭りに参加し、

屋台のカステラや焼き鳥を食べ、広場で行われる猿回しなんかを見て楽しんで

いました。そうこうしているうちに日も落ちて終わりが近づいてきます。

客がパラパラといなくなり始めたのを見て田岡が「よし、行くぞ」と声を掛けます。

田岡と藤井が本堂の脇にある植木に身を潜め、私が寺の入り口にある階段付近に

隠れます。住職たちが屋台の撤収が終わったのをみて、各々職員たちが

熊手や箒を持って境内の掃除を始めます。

10分ほどジッと待っていると本堂前を掃除していた住職が別の所を掃除しようと

場所を移しました。すかさず藤井が田岡を引っ張り小声で「行くぞ」と

言って本堂へ突入します。そして扉を開け中へ入り私の方へ眼をやり、

「そこで待っていてくれ」とジェスチャーを送るとそのまま扉を閉めてしまいます。


そこからしばらく、私は二人が出てくるのを待つことになります。

途中住職たちが境内を行ったり来たりするので見つからないように息を殺しながら、

「早く帰ってこい!」「遅すぎる、まだ出てこんのか!」と心の中で

叫んでいると、目を疑う光景を見てしまいました。

掃除が終わった住職が本堂入り口の扉に歩み寄り、軽く中を確認するとそのまま

鍵を閉め、立ち去ってしまったのです。

「まだ中に入っているのに!」思わず体を出しそうになりましたが、

見つかってしまったらどうなるか分かりません。

「やばい!」と思って色々と考えを巡らせていると本堂の扉が少し動きます。

二人が中から出ようとしているのが見て取れたのですが、鍵が掛かって開きません。

すると持っていたガラケーが振動します。開くと藤井からのメールで

「扉が開かない。まだそこにいるか?」という内容でした。私は

「住職がカギを締めた、まだいるけど、どうすることもできなかった。ごめん。」と

返しました。するとまたメールが来て「わかった、別の出口を探すからまだ

待っていてくれ。」と返信が来ました。時刻はもう21時を過ぎていました。


それから5分ほど待っていると突然背中から「おい、何をしている?」と

声を掛けられ驚いて後ろを見るとそこには住職が立っており、

頭が真っ白になりました。住職の手が私の腕を掴もうとすると後ろから

「宗徳!!」と叫び声が聞こえハッと我に返り、声のした方にパッと首を振ると

藤井と田岡が本堂から出てきていました。

しかし、その叫び声を聞いた職員たちが何事かとゾロゾロと集まってくる

気配がします。それを感じた田岡が「逃げるぞ!!」と言い放ち、

目の前にいる住職を無視して一目散に寺から逃げ出します。


後ろから大人たちの怒号が聞こえますが、それを振り切るように必死に

走り抜け、入り口に停めていた自転車に乗ってこぎ出しました。

そうして気づけば私たち3人はそれぞれの家へと帰っていました。

顔が青くなっていたのか、帰った途端に親から「何かあったのか?」と心配されましたが、

当然言えるはずもなく、別にといってそのまま風呂に入り、その日は寝ました。


翌朝、目を覚ますと藤井からメールが来ていました。

「今日田岡の家にあつまろう」ということでした。

急ぎ、支度を済ませて田岡の家へ向かいます。中には何があったのか?

日誌にあった箱は見つかったのか?俺たちの正体はバレたのか?

色々な思いと考えが胸や頭を駆け巡ります。


そうして田岡の家に着くと既に藤井は到着しており、

田岡の部屋で二人して待っていました。

私が「どうだった?何があった?見つかったのか?」と矢継ぎ早に質問すると

藤井が私をなだめるように「落ち着け」と言って、

彼らはそこで全てを話してくれました。


今から話すことは田岡と藤井から聞いた話で、

あの二人は普段から私をビビらせようと驚かしてくるようなタイプだったので、

もしかすると多少話を盛ってある可能性もありますが、とにかく、

今から書くことは全てあの寺に隠された秘密の話です。


あの夜、藤井が私の方へ目線を向けてジェスチャー送り、本堂入り口の扉を閉めた後、

中は真っ暗で何も見えなかったそうです。そこで当時持っていた子供携帯という

名前のガラケーがあったのですが、それをポケットから取り出しライトを点けて

あたりを探索したそうです。すると本堂の正面奥に仏壇があり、

大きな仏像が祀られていたそうなんですが、その左手奥に扉があり、

鍵が開いていたのでそのまま入ってみるとその部屋の中央に、

横倒しになっている箱が置いてあったそうです。そこで近づいてよく見てみると

鎖でグルグル巻きにされていたようですが、何年も前に巻かれていたのか、

この鎖が錆びまくっていて衝撃を加えれば切れてしまいそうなほど細っていたそう

です。しかし箱自体は大きさからしてちょうど日誌に登場したものと同じ。

二人は、「まさに、あのやんこ村の箱に違いない」と直感したそうです。

そこで田岡と藤井は興奮して舞い上がり、この箱の写真をガラケー撮った

そうです。ちなみにこの写真は僕も見ました。

画面中央に箱が横たわっていて、その右前で田岡が立ってピースしてるという、

見るからに「盛り上がってんなこいつら」という写真でした。


そして、写真も撮ったということで藤井は「証拠もとれたし帰ろうや」と言い

戻ろうとするのですが、それを田岡が引き止め、なんと「開けてみようや」と

言い出します。流石に藤井がそれはマズいと言って止めますが、田岡が

「ここまで来ておいて中身を見らずに帰れるかよ」と言って全く言うことを

聞きません。「そこまで帰りたいなら一人で帰れば?」とまで言ってきます。

すると藤井が「わかったよ、そこまで言うなら俺もやる。一人より二人の方が安全

だろ?」と言って仕方なく箱を開けることになります。

しかし箱は鎖で巻かれています。

とはいえ錆で細っているので何かで叩けば切れるのでは?ということで周囲を

探していると、田岡が仏壇によくある「おりん」、

これを叩くバチを見つけてきます。それを持って箱の前で構える田岡、

それを携帯のライトで照らす藤井。


そして田岡が鎖めがけてバチを振りかざしたらしいのですが、

この時狙いが外れてなんと鎖ではなく箱自体を叩いてしまい、

この箱自体も脆くなっていたのか「バキ!」と鳴って穴をあけてしまったそうです。

「ヤバッ!!」と二人とも思わずその場に固まったそうなんですが

藤井が向けていたライトがその穴の中をわずかに照らしていて、

箱の中身を田岡が見てしまいます。するとミイラ化したような人間の

胸のあたりが見えてしまったそうで、田岡が発狂しそうになります。

それを感じ取った藤井がすかさず駆け寄って田岡の口をグッと塞ぎます。

すると田岡が「ンー!!!」ともがきながら箱の穴を指さし、

藤井も気になってライトで照らして見てしまったそうです。

そこには、ほぼ骨だけなんですが所々僅かに人の皮が残っていて、

鼻を衝く悪臭とお香の様な匂いを混じり放つ死体があったそうです。

この時二人は「バクバクと爆音で鳴る自分の心臓が、印象に残っている」と

話していました。それから2人はゆっくりと、徐々に落ち着きを取り戻します。

すると今度は「この箱をどうするか?」という問題が頭に浮かんできます。

箱はもう穴が開いてもとには戻せない。かと言ってこのままだと

絶対にマズい。いろいろ考えたそうなんですが、

結果藤井が「箱をひっくり返して穴を隠すしかない」と言い、

「マジ!?」と田岡が嫌そうに返し、正直持ちたくないなと思ったそうなんですが

他に良い案もなく、二人で箱の両端を抱え、ゆっくりとひっくり返し、

穴を床に向けて箱を置きなおしたそうです。それから、「もう出ないと」

ということで二人は本堂から抜け出そうとします。


周囲に誰もいないことを確認して小部屋を出て、

入ってきた扉に手を掛けますが鍵が掛かって開きません。

そこで私とメールのやり取りをした後別の出口を探すことになります。

その後なんとか脱出し、寺の入り口側に行くと

住職に捕まった私を見つけて、思わず藤井が「宗徳!!」と叫んでしまいます。

そのおかげで住職が一瞬気を取られ、手を振りほどいた私はそのまま逃げ、

藤井と田岡もその住職が呆気に取られているうちに脇を抜けて走り去って

行ったそうです。


これがこの日の結末です。

いかがだったでしょうか。田岡と藤井そして私、宗徳の三人が繰り広げた

冒険譚。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。


実はこの話、私はつい最近まで忘れていました。

じゃあなんで急に思い出したのか?それはですね、つい先日数年ぶりにあった

同窓会に呼んでいただきまして、そこで藤井と久々に再開したんですが

その藤井が話してくれたことで記憶の蓋が開いたんですね。

でもなんでこのことを思い出せずにいたのか?それはあの後に起こった

出来事がトラウマになって、この事を忘れてしまっていたんですね。



そう、この話には実は続きがあります。



それはエグ味のある真実で、言って良いのかどうかわからない。

驚きもありますが、人によっては聞かない方が良かったと思えるようなことです。


気になる方というか、知っても大丈夫という方だけ続編を読んでみてください。

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