魔法国家、日本の裏側
※この話は、“世界の裏側”を知りたい人のためのプロローグです。
「とにかく本編を読みたい!」という方は、第一話へどうぞ!
現代日本。議会があり、選挙があり、そして──
魔法と契約で築かれた、“もうひとつの日本”がある。
なぜ、この国は“こんなふう”になったのか。
その理由を、ほんの少しだけ語らせてください。
日本は、神の国だった。──そう信じられていた時代がある。
いや、今もなお、そう思っている者は案外多いのかもしれない。
本稿は、その“神の国”が崩れた瞬間から始まる。
嘉永六年。
ペリーという異人が、黒き艦を率いてやってきた。
彼の持ち込んだのは、砲艦と、もうひとつ。
音──である。
フィラデルフィアから太平洋を越え届いた鐘の音。
鐘の名は、リバティベル。
自由の鐘、と呼ばれたそれは、ただの物理的な音ではなかった。
魔法の器──とでも呼ぶべき概念が、この国の“結界”に触れた。
軋んだのは、物理ではない。
600年、誰にも破られたことのない“神域”そのものだった。
それが、時代の始まりである。
のちに“文明開化の鐘”と呼ばれるこの響きが、
何を終わらせ、何を始めたのか。
時の天皇は、即断した。
律法をもって、全国の魔法家を集め、従わぬ家を討った。
この戦いは、後に“魔法内戦”と呼ばれる。
期間にして、わずか七日──とは、記録に残る話である。
勝者が、御紋九家である。
その背に紋を与えられた者たちは、
血の古さ、力の強さ、忠誠心、あるいは単なる便利さで選ばれた。
いずれにせよ、彼らがこの国の“裏側”を支配する仕組みを築いた。
表にあるのは、議会と選挙。
裏にあるのは、紋と契約。
二重の国家。
──それが、今の日本という国の、ほんとうの姿である。
さて、この国の裏面史には、ひとつだけ“綺麗に消された話”がある。
御紋九家は、かつて──御紋十家であったという噂だ。
秋月という家があった。
敗戦後、彼らは“内側”を見ようとした。
神律の深奥。
知ってはならぬものを、知ろうとした。
その結果──家は消えた。
裏切りも、反逆もなかった。
ただ一歩、覗き込んだだけで。
名は抹消され、血は絶たれ、記録は焼かれた。
だが、契約とは──
忘れ去られても、消えるとは限らない。
それから八十年。
物語は、只人として生まれ、
その名に選ばれてしまった、ひとりの少年に始まる。
彼はまだ知らない。
八十年の眠りが、彼の存在によって終わりを告げたことを。
* * *
【次回予告】
今日も、ごはん食べて、制服着て──
そう、朔夜様の朝は“ふつう”のはずでした。
でも、知らなかったんです。
世界の“どこか”が、もう動きはじめてたこと。
バス停での待ち合わせ、ちょっとした陰謀トーク、
春の空気に、ちょっぴりの違和感──
次回、『第一話 選ばれざる継承者』
ほんの小さなきっかけが、
朔夜様の“運命”を動かしはじめます──っ!
……これで、いいですか?
──朔夜様の“影”より。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます!
このプロローグは、ちょっとおカタイ歴史語り回でしたが……
物語の本編は、第一話からしっかり始まります!
そして嬉しいお知らせです!
〇 この【プロローグ】と【第1話】を同時公開中!
〇このあと【第2話】【第3話】も公開予定です!
更新されたらぜひチェックしてみてくださいね。
それでは、“日常崩壊”のはじまりをどうぞお楽しみに──!