迷宮探索ゲーム5
お昼に始まった迷宮探索ゲームも、気付けば残り一時間。
時間感覚がわからない地下の管理室でアリィが用意したスナック菓子をいただきつつ、改めて全体をチェックしていく。
「ティアラを見つけたパーティはまだ出ませんね」
「このままタイムアップとなれば一番の旨味を楽しめぬわ。平和で退屈な状況が続くようならばヒントを与えよう」
「運営側にとっては、見つからずに終わった方が勝ちじゃないの?」
「かくれんぼではないのだし、見つけてもらわねばゲームとしてつまらぬよ」
長丁場となった探索に飽きて座り込むプレイヤーも増えてきた。今ここで迷宮を出たら入手した宝や引換券は確保できるが、再入場はできない。
プレイヤーがまばらに減っている状況で、自らの意思で退場しないのはこのルールのせいではなかった。
「これだけ探しても見つからないんだ。誰かが見つけるまで待とう」
「すでに罠もなく、敵の強さも把握した今ではロストする可能性もないしな」
「でもこれだけ探しているのに、魔法のティアラなんて本当に存在するのだろうか」
引換券すら探し尽くされ、疲れ果ててしまったプレイヤーは時間ギリギリまで何かを待っていた。
「頃合いか。ちょうどソコで休んでおるな。仕掛けを発動させよう」
椅子代わりに座っていた岩が隆起してゴーレムに姿を変える。不意を衝かれたプレイヤーは泉に転落、剣も水底に落としてしまった。
ゴーレム自体は強くなく、あっさり倒されてしまったけどプレイヤーは沈んだまま戻ってこない…………と思いきや、興奮気味に浮上してきた。
「見つけたぞ、宝だ、宝箱がある、引き上げるから手伝ってくれ!!」
みんなが探し求めていた魔法のティアラ。発見したパーティは笑顔になり喜びを分かち合っている。
「よかったねフェイリア、アリィ。これでイベントも無事に終了だよ」
「何を言っておる。これからが本番じゃというのに」
「世の中、性善説ばかりでは成り立たないのですよ。他人の成功を祝福できる素直さがラドの可愛いところですが、これでは少々不安になりますわね」
可愛いなんてフォローされても、こんなの素直に喜べない。ゲーム中はずっとこの調子で人格否定されてる気がする。
ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ……………………。
突然、宝箱にしかけられたアラームトラップが発動した。迷宮内では大音量が遠くまでよく響く。
「どうした!? お宝でも見つけたのか!?」
「すごいじゃないか、おめでとう!」
他人の成功を祝福するのはボクだけじゃないと安堵したのも束の間、押し寄せたプレイヤーたちに異変が起きていた。
「ちょっと見せてって言っただけで、すぐ返したじゃん」
「俺は受け取っていないぞ!?」
「返せって言われたから渡したでしょ!」
「今は誰が持っているんだ!?」
「ハンターの女子、三人組じゃなかったか。ひとりどこに行った!?」
「ならば斬り捨て御免!」
「うわっ、逃げろ!!」
静寂に包まれていた迷宮内が、打って変わり一気に騒がしくなった。
剣と剣が交わる音、悲鳴と怒号が、壁を隔てた管理室にも生音で響く。
「恐怖のカーニバル、開演ですわ…………ぐふふふふふ」
「笑い声が怖いよアリィ……」
競い合い、時には助け合うライバルだったプレイヤーたちが、今では互いに敵として対峙している。動きが遅いゴーレムとは違い、頭脳と俊敏性を持ち合わせた人間が最大の強敵となってしまった。
ここはさしずめ、本物の戦場。
「ティアラを持っているのは誰だ!!」
「女だ、女が怪しい!」
「特徴は…………」
「ええい、すべて倒してしまえ!」
自分のパーティ以外はすべて敵、鉢合えば剣が舞って魔法が乱れ飛ぶ。身体は安全にロストできるけど、残された衣服や引換券はボロボロになり、時には焼き尽くされた。
「みんな仲良く遊べないのかな」
「だからパーティ対抗戦と言ったじゃろう。むしろ安心安全に戦えるんじゃ、楽しそうにしておる」
ナイトは実際に剣で人を斬ることなんてできない。
ウィザードは全力で魔法を使えるまたとない機会。
思う存分に己の能力を発揮できる状況に、緊迫感もありつつ確かにいい表情をして戦っている。
そんな中、例の同盟パーティは合流を果たしていた。
「生きていたかリーダー。誰がティアラを持っているんだ」
「俺たちは誰も持っていない。そっちは?」
「持ってたら聞かないっしょ。ただでさえ女が怪しいって言われて、逃げるだけで精一杯だっての」
迷宮内のプレイヤーたちには分からずとも、フェイリアとアリィにはお見通しだった。ティアラを隠し持っているのはこのハンターの女子生徒だ。
「第二フェイズに移行するかの。ゴーレムのターゲットをプレイヤーから…………よし、ティアラに変更じゃ」
「ティアラに?」
「つまりティアラを持っているプレイヤーにゴーレムが群がるということですわ」
迷宮内のゴーレムが群れをなしてハンターに向かう。有利に進めてきた合同パーティにとっても、次々に押し寄せるゴーレムには苦戦を強いられた。
「一度下がって立て直しましょう。魔法でこじあけるので時間稼ぎを!」
「僕の力があれば、ナイトなんて頼らなくても!!」
「え、魔法なら私が、どうして、ちょっと邪魔……」
優等生の女子ウィザードにいい所を見せようとした男子ウィザードが至近距離で魔法を放った結果、前衛パーティを巻き込んで盛大に弾け飛んだ。
「あらあらやってしまいましたわね。自身の力を誇示することのみを目的とした、なんと愚かな男の末路ですわ」
「言ってやるなアリィ。あの小童も認められたかったのじゃよ、意中の相手に」
「今頃素っ裸になって軽蔑されてますわよ、ぐふふふふ」
「だからアリィ、笑い方が怖いんだってば」
ゴーレムの動きが変化したことは他のプレイヤーも気付いたらしく、生き残ったハンターが魔法のティアラを所持しているという判断も早い。
「ティアラを求めて無抵抗となったゴーレムを倒した後は、プレイヤー同士の醜い争い。なんとも不毛じゃて」
「それでもまだ十組ほどのパーティが生き残っておりますね」
「カッカッカ。してラドよ、気付かぬかえ?」
「ふぁ?」