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迷宮探索ゲーム4

「俺たちに任せりゃ安全だって。強ぇから」


「頼りになるぅー。ドコ校の何組?」


「俺はウィキスタのDクラス。キミらエクリルっしょ、知り合えて嬉しいわ」


「ウチもウチも。てか今度遊びに行こうよ、祝勝会もかねて」


「いいね賛成、ノリが良くて好きだわ。あっはっは」


 スピーカー越しに浮ついた会話を聞いて苛立つアリィと、生暖かい視線で見つめるフェイリア。下手に触れると恨みつらみをぶつけられるから口をつぐんで静観しよう。


「みんなついて来ているか。人数が把握しきれないな」


 迷宮は採掘場だったこともあり、場所によっては通路が狭くなっている。十六人の大所帯では自然と縦長の陣形になって歩調にも差が生まれる。

 しかも前衛のナイトとウィザードだけでゴーレムを倒してしまうので、残りのメンバーは何もやることがない。

 後衛のハンターを除いては。


「前がふらふらするからマッピングが捗らないんだけれど」


「悪ぃ悪ぃ、ちょっとペースを落とすよう前衛に伝えるわ。つーかキミ、最後尾じゃ危険っしょ。俺が横についてやるよ」


「結構です。自分自身の役割をきちんと果たしてください」


「言っても俺ら、暇を持て余してんだよな。前衛が引換券をさくさく回収して、容赦なく先に進んで行くし」


 一方、やる気をなくしつつあるプレイヤーの中で、中衛でありながらひとりだけ戦闘に参加するウィザードがいる。


「前衛に割り込んで必死に食い下がろうとしておるのう。腕の見せ所だと思っているようじゃな」


「ボクと同じくらいの男子なのに、魔法すごいね」


「掩護射撃といえば聞こえがいいでしょうが、一歩間違えれば味方へ誤射。なまじ索敵に集中しているせいで無用な戦闘ばかり。これではありがた迷惑ですわね」


「サボらず協力してますアピールじゃないの?」


「カッカッカ。しぐさをよく見てみぃ、恋じゃよ恋。前衛を張るウィザードの女を意識しとるわい」


 一番に敵を見つけて一番に魔法を放つ。その度に女子に目線を送っているというだけで恋って言うの?

 そんなやる気のある前衛と、後追いするだけの後衛で間がさらに差がついていく。原因は中衛に陣取る男女のおしゃべり集団。


「前、前に進んで。ついて行ってよ!」


「一本道だから慌てなくていいっしょ。敵はぜーんぶ前衛が倒してくれるから、俺たちは安全確実に進もうぜ。それも役割ってこと」


 もっともなことを宣っているようで、実は女子を口説くことに夢中なだけ。


「ではラドよ。ここからが本題じゃ。こやつらの弱点について」


「弱点?」


「戦力過多でサボる輩が出てくるのがひとつ。では、もうひとつはなんじゃと思う?」


「えー。歩幅が違うから、はぐれやすくなるとか?」


「狭い迷宮では敵とて群れることができず、こやつらが力で押し負けることはなかろう。しかし必ずしも敵は前から攻めてくるわけではない。先頭との距離が開いてしまったらどうなるじゃろうか?」


 脇道から奇襲をかけたゴーレムが静かに、一瞬で最後尾にいた女子三人を消し去った。ウィザードふたりとハンターひとり、悲鳴を上げる余裕もない。


「あれ、後ろいなくね…………って敵、ゴーレム! おーい、みんな待ってくれ。待て、待てって言ってんだろ!!」


 ナンパに夢中のナイトは口だけでなく腕も立つらしく、多少手こずりながらも撃退して被害を最小限に留めていた。


「様子がおかしいと思って戻ってみれば……交戦していたのか」


「先を急ぎ過ぎっしょリーダー。俺が倒したからよかったけどよ、三人ロストしたぜ」


 狭い迷宮において、人数の多さが機動力と統率力の足枷になってしまった。宝探しはスピード勝負という焦りもあるだろう。


「急いだつもりはなかったのだが……今は先に進もう。ロストは残念だが、帰還した後は彼女らも含めて公平分配しようじゃないか」


 この同盟の目的は魔法のティアラを持ち帰って報酬を山分けすること。

 平等で公平、全員が協力者という前提で成り立つ約束は、ロストしたプレイヤーだけでなく前衛と後衛の負担にさえ不公平さを産み出す。


「だから速ぇんだって。バックアタックの危険もあるんだから足並みを揃えろって」


「悪い。狭い一本道では後ろまで世話を焼いていられないんだ」


「ところでこの道、さっきも通らなかったか?」


「似たような道だから錯覚しているだけじゃないか」


「…………私はウィザードながら、前衛でやるべきことはやっています」


「ハァ、いきなりなんだし。ウチらだって後衛は後衛で役割があるっつーの」


「先ほどハンターさんがロストしましたよね。彼女以外にマッピングをしている人はおられますか?」


「えーとー、アンタやってない?」


「ワタシは元から苦手だってわかってるっしょ?」


「私の志望はアルケミストコースって知ってるくない? ふたりがやってよ」


「じゃあ最初に言えし!」


「帰り道、わからなくね!?」


 ハンター同士の言い争いが火種になって同盟解除の危機に直面した。

 解散すればウィザード四人とハンター三人。特にハンターは女子ばかりになって危険だし、今さらどうにもできないという理由で同盟は維持されることになった。

 それでも身動きが取りにくいという大義名分で、パーティを分けて効率よく宝を探そうという結論になる。


「もはや友情も効率も何もない。色恋沙汰が絡むのは青春の常じゃな、カッカッカ」


「青春はともかく、二手に別れて協力するんだから効率的になるんじゃないの?」


「言い争いが始まった時点で、ウィザードたちは嫌気がさしておりましてよ」


「へ、へぇ…………女の勘ってやつ?」


「ラドが疎いだけです。それ以前に洞察力の問題ですわ!」

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