迷宮探索ゲーム3
みんなから離れフリをしてから、フェイリアを背負って管理室までの直通ルートを下っていく。厚い壁に阻まれているはずなのに、ところどころでプレイヤーの阿鼻叫喚が響いていた。
「遅いですわよ。先頭はすでに地下二階まで来ておりますわ」
「地上じゃ百人単位で泣き叫んでいたんだけど」
「それはカイの働きによるものですわね」
迷宮に入ってすぐに通路が二手に分かれている。道なりに進むと宝がたくさん隠してある大部屋に行き着くんだけど、それは罠。
逃げ場がなくなるのをいいことに、巨大なファイアドラゴンを配置していたんだ。
「圧巻じゃろ。実際はワシが作ったハリボテまがいなものじゃ」
カイが手にした魔法の杖で口から炎を吐き出しているように見せかけているんだけど、宝探しに夢中のプレイヤーたちの虚をつくには充分のようだ。
「先頭では早速、面白いことが始まっておりますわ」
モニターになっている大きな鏡に触れると映像が拡大して音声も拾う。そこでは、順調に進んでいるように思われてるパーティが仲間割れを始めていた。
「この宝、ずっと欲しかったエレモア製の盾じゃないか。運がいいぜ」
「待ってくれ。パーティで見つけたものは後で公平分配をするぞ」
「引換券でもないこの盾を、どうやって分割するつもりだ。こういうものは使ってこそ意味がある」
「ならば前衛である俺が使わせてもらおう」
「その前衛が見逃した宝だろう!!」
「前衛には前衛の、後衛には後衛の役割が」
「じゃあ交代だ。ん、オイ後ろ、いや、前!!」
「は? ちょ、まっ……」
一瞬の警戒を怠った隙を狙い、隠れていたゴーレムが奇襲をかけた。倒れ込みながらラリアットのように振りかざす拳でふたりを葬り、起き上がり様にまたひとり、ふたり。
最期は迷宮内に響き渡る絶叫を上げて絶命…………いや、ロストした。
「奇襲成功、やりましたわ。わたくしの勝ちですわね!」
ゲームだとわかっていても思わず目を背ける惨劇。
その様子を笑顔を浮かべて楽しむアリィ。
ゲームマスター、創造主、魔王……の立場として忠実にロールプレイをしているだけなんだけど、ちょっと性格悪くない?
「強さとバランスを兼ね備えたこのようなパーティでさえ、欲に目が眩めば崩壊するというもの。ラドよ、勉強になったかえ?」
「ああ、えぇ……まぁ、うん」
「おやおや、このパーティは同盟を組もうとしているようです」
アリィが切り替えたモニターには、迷宮内では珍しく一箇所に大勢のプレイヤーが集まっていた。
「ティアラを持ち帰ったパーティの願い事も合わせて、手にした宝を三つのパーティで協力して山分けにしないか?」
魔法が効きにくいゴーレム相手に助太刀する形で共同戦線を張っていたナイトとウィザードのパーティが、逃げ回っていたハンターパーティを助けた。
その縁で今、この瞬間に友情が芽生える。
「逃げるしかできなかったからマジ助かるぅーっ!」
「ウチらふたりロストしたけどー、引換券は回収しといたからー」
ナイト六人、ウィザード六人、ハンター四人。
それぞれ個別パーティならば偏った編成でも、同盟を組めば理想的なバランス。現時点で先頭を突き進む実力も踏まえて優勝候補といっていい。
「カッカッカ、甘いわ。ラドはお子様じゃのう」
「みんな強そうなのに、どうして?」
「このような状況、このようなイベントで生まれた友情というものに心を打たれる素直さは悪くない。だが、協力やら同盟などとヌカす痴れ者の妄言、果たしてどこまで通用するのかのう?」
「ラド。プレイヤーの比率は理想的になりましたが、パーティメンバーをなぜ六人と決めたのかを考えてみなさいな」
「男女比もほぼ半々と、これまた青春を謳歌しそうじゃのう。おめでたいこやつらを例にして、勉強するがよい」
フェイリアとアリィから散々な言われ方をしたボクは、渋々ながら同盟パーティの動向を見守ることにした。




