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迷宮探索ゲーム1

「ホームルームが始まるから、全員教室に入りなさい!!」


 混乱を収めようとする先生の呼びかけも虚しく、掲示板前は足を止める生徒たちで収集がつかなくなっていた。


「何があるんだろう。ラドくん、見にいってみる?」


「あれだけの騒ぎなんだからクラスの誰かが教えてくれるよ、ははは……」


 原因は察しがついている。

 迷宮探索とお宝探しのパーティ対抗戦。そんなお祭りを開催、しかも明日なんて告知されたら騒動にもなるわけで。

 そのポスターはボクと趣味研で仕上げたものだし。


「みんなおはよ……」


「おせぇぞ、早く来いや!」


 教室に入った瞬間にブチ切れてくるカイザーに大人しく従い、みんなの輪に加わる。


「面白そうじゃないか。力試しもできるみたいだし」


「あの廃坑がゲーム会場ってウケる」


「中止になったギルド対抗戦の代替案ってことは、物騒なイベントになるんだよね」


 クラスやギルド、年齢性別や学校の枠にとらわれず自由にパーティの編成が可能。気の会う仲間や有能な人材を集めて参加申請するルールだから混雑していたわけ。

 争奪戦はすでに始まっていた。


「掲示板の人だかりはこれだったのかー。みんなはギルドの友だちを誘うのー?」


「一度潜入してる廃坑だぜ。Xクラス、このメンバーで組んだ方がいいだろう。丁度六人いるし、戦力も整っている」


「ギルドに友だちがいなくてハブられるだけなのウケる」


「プリーストギルドだと、ぼく以外は女の子ばかりになりそうでやりにくい……」


「それって極上のハーレムじゃないかジュディス。僕はうらやましいよ」


 ジュディアが記した要点のメモをレナと読みながら、理解をしていくフリをする。そして予め考えておいた、誘いを断る口実を告げた。


「参加条件にある、エスカレア特別区の四校に在籍する生徒って、ボクは当てはまらないんじゃないかなぁ」


「あぁん? そんなの無視してゴリ押しすりゃいいだろ。教師どころか学園長にすら認識されてるじゃねぇか」


「そうよ。ラドだけ仲間はずれなんかできないわ」


「だけどマジェクタルの登録が必須だから」


「そんな条件なんてあったっけ。ノートには書いてないみたいだけれど」


「あっ、いや、さっき誰かが言ってたんだ。マジェクタルがないとロストできないとか。身体の安全を確保するために魔法をかける、とかー、あはは……」


 生徒手帳として身分を証明するマジェクタル。ちなみに財布にもなる優れものなんだけど、今回に限れば必要性がまったく違う。ロストするために必要な装置なんだ。


「マジェクタルなんて持ってて当たり前だから気付かなかったわ」


「ラドくん理解が早いね。でもそんな話、誰かしてたっけ?」


 この設定はボクが参加できない理由付けのために書き加えたもの。

 だから本当は、マジェクタルがなくても普通の人だったらロストできちゃうんだよね。

 そう、普通だったら。


「ラドがいればゴーレムなんて触っただけで破壊だろ。討伐の手間が省ける最終兵器になるんだがなぁ」


 ボクの体質で特技で、そして秘密であるものがリフレクト。魔法を跳ね返す能力だ。

 これは魔力や魔法が関わるゴーレムや魔物といったものに触れるだけで『おかしく』してしまう。

 じゃあマジェクタルや導魔器はどうなんだといえば問題ないわけで、それがエスカレアの学者や研究者を悩ませている。


「仲間を都合のいい道具としか見てないのクズすぎてウケる」


「そうなるといっそ、みんなバラバラで組んだ方が後腐れないのかもねぇ」


 実戦形式の迷宮探索ゲームだからナイトとウィザードの二強になるだろうという予測はフェイリアもしていた。生徒たちは強制参加ではないので、優秀な人材を集めるには早めに手を打たなければならない。


「プリーストのぼくやハンターの姉さんに、パーティ需要なんてないんじゃないかな」


「わたしはやるわよ。だって優勝者にはひとつ願いを叶えてくれるってのよ!?」


「気持ち悪いくらいにわかりやすなジュディア」


「うっさいわ。バラバラでっていうミーシャだって、友だちなんていないっしょ?」


「僕? 妹とその友だちに声をかければ頭数を揃えるくらいには…………ひぇっ!?」


 素早く飛びついたカイザーが足四の字固めを、遅れてジュディアが腕ひしぎ十字固めでミーシャを痛めつける。


「てめぇいつの間にお嬢様連中を手籠めにしやがったんだ、あぁ!?」


「まだ……まだだよ…………妹が友だちを……紹介したい……って」


「まだってことはするつもりってことよね。手癖が悪い腕は折っちゃってよくない?」


「腕ごと持っていかなくてもいいじゃないか姉さん」


「カイ……ザァ……痛い、手加減…………エレノア……さん……が」


「エクリル女学院だって言ってんだろ。おいおいオラオラ、俺様にも紹介」


「誰を紹介すればいいのかしら、貴男」



 あ、エレノアさんだ。



 突然の開催告知とパーティ編成の自由により、一部の生徒たちが教室を飛び出して校内を走り回っているそうだ。

 エレノア会長は学園内の見回り名目でXクラスにやってきた。


「一番になるためにここに来たわ。私とパーティを組みましょう」


 さっきまで関節技をかけていたカイザーは白目を剥いて固まっている。


「カイザーだったらあげるあげる。煮るなり焼くなり好きにしていいよ!」


「それは後で存分に楽しむわ。貴方たちはどうするの」


「実はねぇ、ラドは参加できないんだ。だからいっそ、バラバラになろうかって話をしていたんだ」


「あら。では私を入れて六人になるんじゃないかしら」


「エレノアさんが加わってくれれば心強い話だけれど……」


 後腐れなくと言った手前、ミーシャに限らずみんながボクに遠慮している。


「このメンバーでパーティを組んでもらえたらボクは嬉しいな。大好きなみんなだから、心置きなく応援できるよ」


 気の合う間柄で組んで欲しいというのは本意だけど、わざとらしすぎたかな?


「人間できすぎっしょ、この子ってば……」


「大好きなんて言われたらむず痒いけど、頑張ろう姉さん」


「ラドくんの分までがんばるから。あとでもう一回言ってみて?」


「気合いが入るね。みんなよろしく!」


 エレノア会長の剣技と魔法は目の当たりにしている。戦力としては申し分なく、ロストする可能性は大幅に下がるだろう。

 そう、ロストして欲しくないんだよね。


「フリック、貴方も異議はないわよね?」


 加入を歓迎している中でひとり、返事もせず熟睡するカイザーことフリック・スタイン。


「…………ボクカイザー。イノチにかえても、オマエ、護る、アイシテルゼハニー」


 代わりにボクが、雑な腹話術で返事をしただけなのに。エレノア会長は膝から崩れ落ちて床に伏して悶え苦しみ出した。

 先ほどの鬼神と化した形相といい、全身を痙攣させて涙目になっている今といい、いつもクールで表情を崩さないエレノア会長が見せた別の顔は、みんなも初めて見たそうだ。

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