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ゲーム遊びとゲーム制作3

 方向性が決まってからの行動は早かった。

 かつて廃坑の最下層に存在した小部屋は管理室に改装されて、よくわからない機材や導魔器が大量に搬入されていく。

 ボクの仕事は廃坑内の安全性を確認しながら、報奨品代わりのお宝引換券を配置、隠していくこと。


「かなりたくさんの数だったよね。カイが手伝ってくれて助かったよ」


「ラド様が隠す場所が絶妙で、程よい難易度になると推測されます」


「次はじゃな、この管理室から直接外へ繋がるトンネルを掘ってくれ」


「は?」


 地下五階相当なのに、地上までどれだけあると思ってるの?

 有能な炭坑夫が束になっても数ヶ月はかかりそう。


「はい、フェイリア様」


 壁に拳を突き立てて岩盤を砕いていくカイ。見た目は美人で怪力のゴーレムなんて、もうメチャクチャだ。


「こんなの、プレイヤーの誰も倒せないよ…………」


「じゃろうな。その気になればカイだけでエスカレアを制圧できるかもしれぬ。そんな冗談はさておき、量産ゴーレムは普通に倒せるレベルにしておく。そもそもプレイヤーの目的はワシらと直接戦うものではないからの」


 フェイリアとアリィだけで考えたエンディングを用意しているみたいだし、きっと楽しいイベントになるだろう。


「言い忘れておったがラドは参加できぬ。訳ありでのう、申し訳ない」


 ここまで手伝っておいてプレイヤーに回ったらインチキになるけど、わざわざフェイリアが頭を下げるんだから理由はきっと魔法絡みだ。

 ボクは、魔法が効かないから。


「フェイリア様、お待たせしました。アリィ様、途中急勾配の箇所もありますのでご注意ください」


 地上までの直通トンネルを開通させたカイのメイド服こそ汚れているけど、掌や指先まで傷ひとつついていない。


「痛みもないの?」


「表面にコーティング魔法をかけてもらっておりました。フェイリア様によって創られたわたしは対魔耐性が強力なので直接魔法の効果が薄いのです。魔法が完全に効かないラド様に比べたら見劣りしますが」


 魔法はほぼ効かず、コーティング魔法でブーストしたとはいえ、素手で岩盤を破壊する無敵状態のカイと比べられても困る。本当に敵じゃなくてよかった!


「それと、少量ですが採取しました」


 ボトボト、ゴトゴト……ゴトッ。目の前には魔力を宿すというジェムストーンの原石。この廃坑は昔、石炭とジェムストーンの採掘場だった。


「今回遊ぶには十分な量じゃろう。これでゴーレムが創れる」


 グラム単位で高価に流通する宝石を前にしても、フェイリアとアリィは目の色を変えずに黙々と準備に集中している。


「ラドよ、詫びを込めて褒美にひとつくれてやろう。精製する必要はあるが」


 手の平サイズでゴツゴツと、ところどころ青く光る大きなジェムストーン。ボクにとっては無用の長物ではある。


「…………これ、精製したらどれくらいになるのかな」


「おそらく数十万といったところでしょう。それよりラドとカイ、次はわたくしの手伝いを頼みますわ」


 ボクは無力で平凡な庶民だ。

 フェイリアやアリィと比べなくても、多分そう。


「こちらの物を迷宮の至るところに設置して欲しいのです」


 手渡されたものを端的に表現すると、水晶玉がついたペグ。これ以上わかりやすく形容する言葉をボクは知らない。


「水晶には触れないでくださいまし。もう少し右に、逆ですわ、わたくしから見て右」


 驚くことにこの水晶玉が喋る。

 実際には水晶玉越しにアリィが喋っているんだけど、向こうからはボクたちの様子が丸見えになっているようだ。


「導魔器であるデザイアの技術を改良したのです。わたくし側ではそちらの音と視界が確認できますわよ。理論としては太古より存在していて、一流のウィザードは水晶を媒介して遠視魔法を…………」


 魔法オタク、導魔器オタクのアリィによる難解な講釈を聞き流しながら、迷宮内に『デザイア改』を設置していく。プレイヤーたちの手に届かない場所を探しながら、最後のペグを打ち込んだ。


「六十四個目、これで終わりだよ」


 その後も迷宮の手直しやゴーレムの配置などの大規模な作業を、わずか三日で完遂した。力仕事はカイに助けられたし、アリィとフェイリアの指示も的確だった。


「この鏡がモニターになって、迷宮内の様子がわかるのです」


 アリィは以前、デザイアによる覗き行為で大目玉を食らっている。でも今回は生徒たちの安全を考慮した真っ当な使い方。

 そして何より、フェイリア。


「迷宮内に結界を張ったんじゃ。これでプレイヤーは死ぬことなくロストとなり、迷宮の外へ飛ばされる仕組みになっておる」


 要約すると、フェイリアお得意のテレポート魔法を応用した安全装置というわけ。理論を聞いても複雑怪奇だからアリィやレナでも理解できないだろう。


「週末には開催にこぎ着けそうじゃな。土曜であれば多くの生徒も参加できるじゃろう、このパーティ対抗戦にな」


「今日って木曜日だよね。急な話だけど、いいの?」


「もともと余興、問題ない。告知と根回しは学園に任せるとして」


「最後に、例のアレが残ってますわよ」


「例のアレ?」


 プレイヤーの欲望をそそる、わざとらしく大きめな宝箱。こんなに大きければすぐに見つかってしまうだろう。


「この場所でよい。最奥の透き通った泉、目を凝らせば容易に見つけられるじゃろうて」


「宝ごと沈めちゃうの? 奪い合いになって溺れちゃったら」


「そのような軟弱者としても死にはせぬ。ロストしてゲームオーバーになるだけじゃ」


 迷宮内に複数ある泉は、辿り辿るとエスカレア特別区の中心にある噴水まで繋がっている。その水脈は魔力の通り道を兼ねていて、魔脈だという講釈が始まった。


「じゃから、魔法を使って余った魔力消費するためにじゃな……」


「それは前にも聞いたから。バッチリだから。帰ってポスター作るんだよね!?」

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