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ゲーム遊びとゲーム制作2

 エクリル女学院ってどうしても慣れない。

 廊下を歩くだけで好奇な目で見られる気がする。悪さをしているわけじゃないし、自意識過剰と言われたらそれまでだけど。


「余りにも遅いから迎えに行こうと思っていたところですわ。さぁ、ついてらっしゃい」


 アリィが腕を掴んで引っ張るものだからより一層、周囲の反応が痛い。


「高貴な身分が集まるエスカレアにおいては、第四皇女なんて些末なものですわ。さあ、中へどうぞ」


 身分じゃなくてエクリル『女学院』で手つなぎする男女がいたから注目されたわけで。これもまた変な噂が立たなきゃいいんだけど。


「お邪魔しまーす……ってフェイに、カイ!」


 フェイリアの側で表情を変えず不動で佇む女の子。十六歳だった時のフェイリアを模して創られたゴーレムだから女の子っていうのはおかしいかも。

 お姉さん、でいいのかな?


「ラド様、ご無沙汰しております」


「わーいカイだ。元気だった?」


 前に遊びに来た時は出会えなかった衝動で、思わずカイの手を握って感触を確かめてしまった。このまま抱きついても優しく受け止めてくれるだろうけど、今はやめとく。


「カッカッカ、そんなに愛おしいのかえ。あと十年、いや五年もすればワシも、な」


「フェイリアが将来、こんなに美人になるなんて想像つかないよ」


 背筋が凍る感覚に振り返ると、冷ややかな視線を突き刺してくるアリィと目が合う。


「いいから黙って着席なさい。レナに言いつけますわよ」


 アリィはボクを脅迫しようとしているんだ。だからこっそり呼び出して何かしらの対価を要求するつもりなんだ。


「やっぱり…………。あの手紙で呼び出して、どうするつもり?」


「やっぱりってどういう意味ですの! 理由ならたった今できましたわ。カイの手を握って悦に浸る……まさか、先ほどのわたくしでも…………」


「そなたら何を阿呆な小咄を興じておる。呼びつけたのはワシじゃ、本題に入るぞえ」


 フェイリアが先日、学園長室前の廊下で小耳に挟んだ話があるという。

 新入生が各ギルドに慣れてきた毎年五月に、様々な競技で勝ち負けを争うギルド対抗戦というものが開催されていた。

 平たく言えば運動会のようなお祭りイベント。各ギルドが意地とプライドをかけて競い合い、様々な報奨が与えられるというもの、らしい。


「雑貨や文房具、剣や防具といったものから、ランチ券やら学費の減免や免除なんてものもあるようじゃ」


 内容がすべて推測でしかないのは、今ここにいる全員が途中入学で日が浅いから。そもそもボクはマジェニア学園に勝手に出入りしているだけで、生徒ですらない。


「今年はギルド対抗戦をやらぬのかと悔やむ生徒が気の毒でのう。子供たちのやる気を阻害するわけにはいかぬと思わんか」


 イベントが行われなかったのはエスカレア特別区内で魔物発生の騒動があったから。学園の建物も一部損壊したし、問題が解決した今でも避難した生徒の一部が未だに戻ってきていない。


「フェイリアって見た目はボクより子供なのに、やっぱり大人で優しくて、すごく生徒思いなんだね」


「うむうむ。そんなに褒めるな、照れくさいじゃろう」


「…………で、本音は?」


「そんな面白そうな遊び、ワシも楽しみたいんじゃ!!」


 素直に本音をさらけ出すのは可愛らしいけど、こういうところは誰かに似てるかも。


「でもフェイリアって車椅子でしょ。運動はできないんじゃ?」


「筋力が戻らぬだけで日々リハビリはしておる。しかし話はそうではない。ワシが設立したサークルを何じゃと思っておる。ギルド対抗戦が中止とならば趣味研の出番、ワシらで作ればいいんじゃよ!!」


 予算はともかく報奨品は余っている。生徒の安全性が確保できればという条件で、代替案を検討するという言質を得たそうだ。


「フェイリアってフェイラー学園長の姉ってことを思い出したよ」


「フェイラーの孫という設定は世を忍ぶ仮の姿。しかもワシには大きな借りと負い目があるからのう、カッカッカ」


「楽しそうだね。何やるの?」


「それを今から考えるのじゃ」


 ギルド対抗戦の参加者は二千人ほどの大規模なものみたいだけど、サイコロゲームじゃ半分も集まらないだろう。ドッジボールのトーナメント戦で盛り上がったとしても、趣味研らしさはない。


「条件があってのう。授業やギルド活動は平常通りに行われるため、教室やグラウンドは占拠できぬ。準備と撤去を考えれば大規模な設営は無理じゃ」


 尚更、サイコロゲームを渡して各自遊んでくださいとなってしまう。これではイベントである必要性すらない。


「それより今さらなんだけど、どうしてアリィがいるの?」


「薮から棒に、本当に今さらね。知略や戦略を鍛えるゲーム作りが楽しいからですわ。エレモア帝国第四皇女として、人を動かすトレーニングにもなります。わたくしは魔法は使えませんが、理論や応用は得意ですし」


 アリィは導魔器と呼ばれるマジックアイテムを作ったり改造するのが得意で、禁書レベルの難しい書物を読み解いて騒動を起こした前科がある。


「そうなんだ。じゃあウィザードギルドには戻らないの?」


「入部早々に上級生と揉めてしまって気まずくなりましたから。それでもほら、魔法を学ぶために必ずしも環境が必要ではないというのはフェイが証明しているではありませんか。天才ウィザードから学ぶところは多大にありますの」


 最上級の褒め言葉でフェイリアが無邪気に破顔する。とても可愛らしい六十六歳児だ。

 そんなフェイリアの夢は学園長になることだし、アリィも将来的に国を治めて動かしていくポジションに就いてたりして。


「さらにカイはゴーレムだし……ってそうだ。魔法でゴーレムって作れる?」


「簡単なものならばいくらでも。それがどうした?」


「趣味研が魔王ポジションになったら面白いかなって」


 フェイリアがゴーレムで敵を作り、生徒たちが冒険者になって倒していく。道中には報奨品を隠してみたり。


「封鎖された廃坑を使えたりしないかな?」


「なるほど、宝を探す迷宮探索ゲームというわけか。参加者の増大も期待できる上に、あそこならば邪魔されず自由に使えるじゃろう」


「腕試し、試練場と考えれば確かに楽しそうですわ。しかしそれでも、ギルドらしさを表現するには難しいのではなくて?」


「そもそもギルド対抗にこだわる必要はない。プレイヤーそれぞれ六名のパーティを組んでもらい、自由に探索させれば…………うむうむ、構想ができてきたぞい!」


「閉塞空間である以上、参加人数も絞る必要がありますわね。もしくは…………」


 フェイリアとアリィが紅潮しながらノートを走らせている。何気ない思いつきがヒントになってくれたというならボクとしても本望、お役御免。


「よかったね。じゃ、楽しみにしてるよ」


「おぉん? ラドよ、そなたは毎日暇を持て余しておるのじゃろう。臨時部員でいいから手伝え、よいな?」

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