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エピローグ1

 窓から吹き抜ける風が心地よく、時々浅くなる眠りを深淵に突き落とす。

 無意識にシーソーを繰り広げている身体は、ジリジリと照りつける初夏の陽射しとも戦っていた。

 そうだ、ボクとレナは…………。

 力を振り絞り、のしかかる重い岩盤を押しのけたのが夢の最後で、現実は眠気に抗ってまぶたを開いただけ。


「深淵……奈落の底…………?」


「起き抜けに堂々と胸の谷間を凝視するなんていい度胸してるじゃない、胸だけに」


 思わず仰け反ると、すぐ背後にはレナが密着していた。


「あんっ」


 さらに驚いてクリス先生の胸に飛び込む…………なんてことはしない。バウンドをして再びレナを攻撃しちゃうし。

 危険を感じたら身体は硬直するようにできているんだ。


「もう少し優しく起こしてよぉ……ラドくん…………」


 上半身を起こして周囲を確認する。

 Xクラスの教室にいて、メイ先生の布団で仲良く寝ていたみたい。


「今日って…………日曜日……だっけ……」


「月曜よ。もうすぐお昼になるわ。寝ぼけてるんじゃないわよ」


「ラドくんおはよう。メイちゃんのお布団も寝心地いいね」


 夢じゃない。少しずつ頭が冴えてくると思い出す。ボクとレナは地下迷宮を脱出したんだ。カイに助けられて空を舞うように振り回されて。

 でもそこから何も覚えてない。


「ふぅん、お姉ちゃんとレナに挟まれるのが夢だったの。チビッコも案外マセてんのね」


「夢の意味が違うって。それよりどうしてここに」


「カイがここまで運んできたのよ。お姉ちゃんも疲れて眠っちゃった」


 本来の持ち主、メイ先生は早い段階で裏ルートの可能性はなしと判断、サボってぐっすり寝ていたらしい。だから罰として大穴が開いた地下水路周辺の調査を命令されたそうだ。


「寝汗でべたべたするぅ。ねぇお姉ちゃん、今日はもう帰っていい?」


「教師の立場じゃダメと言いたいけれど仕方ないわよね。私はせめて、ギルド活動だけでも行かなくちゃ……大人の辛いところよねぇ」


 …………うん?

 その言いぶりだと午前中の授業はサボったように聞こえる。副担任だからいいのかな。


「レナ、せっかくだから学食行こうよ」


「その前に身体だけでも軽く拭いてもいい?」


 寝起きが悪いレナを待っていたら食事にありつけないので、ボクが濡れタオルを用意してあげた。バケツは…………キレイだから新品だと思う。


「うわー、やっぱり砂っぽいよ。帰ったらお風呂に入ろうね。ラドくん、背中を拭いてくれないかな」


 肌が露になっているレナを気遣って背を向けていたのに、ふたりきりの教室で誰かに見られたら命取りだ。


「ね、聞こえてる? あたしがそっちに行こっか?」


「わかった、わかったよ!」


 入口に近いところでやるものじゃないし、そもそも明るい時間帯に肌をさらけ出したまま近づいてきてはいけません。


「だからあたしは気にしないん……あんっ、冷たい」


「動いちゃダメだって。あっ、身体を捻っちゃ……」


「…………見た? 見えた? 見えちゃった?」


 嫌がりなさい、隠しなさい、恥じらいを持ちなさい。

 説教じみた返答をすれば認めたことと等しい。今後の運命を大きく揺さぶる重大な岐路に立たされているんだ。


「じゃあさじゃあさ。良かった? 悪かった?」


 この選択肢じゃ辿り着く場所はどちらも同じバッドエンド。火を見るより明らかというやつだ。


「答えなさい」


「……………………良かった」


「素直でよろしい」


「人ん家でよかねーだろ」


「ひえっ、メイ先生!?」


 教室だけどメイ先生の家、メイ先生の家だけど教室。

 レナは平気な顔で着替え始めているし。いっそ茶化したりネタにして欲しい。


「オメーらがぶっ壊したあの場所、普段は人目につかねーし、セノーテになったってことにするんだってよ」


「セノーテ?」


「簡単に言えば地面が崩落して地下水が溢れた池みてーなもんだ」


 なぜか手にしたヤカンを押し付けてきて、メイ先生は布団に潜り込む。


「フェイからの伝言だ。メシの後でいいから学園長室に行ってこい。アタシは今まで働かされたかんな、寝る」


 学食を平らげてからヤカンに水を汲み、学園長室へ向かう。

 この流れ……やっぱり、どうせ、またきっと。怒られるんでしょ?


「でもおかしいよ。一応、朝までには間に合ったんだし」


「誰かにバラされてたらお姉ちゃんもギルド活動どころじゃないと思うの」


 階段から廊下にさしかかる角で怪しい動きをするアリィに出会う。隠れて何かを探しているようだ。


「しーっ、まだ早いですわ。よし、フェイラー学園長の退出と施錠を確認。わたくしはこのまま尾行します」


 独り言かと思いきや手にはデザイア改Ⅱ。相手は誰か…………きっとフェイリアと通話しているんだろう。


「これは試作のデザイア改Ⅲ。音声だけですが対になる物と会話ができ……話は後で!」


 レナが興味を示す前にアリィは走り去ってしまった。すぐさま、フェイリアがカイに運ばれて階段を下りてくる。


「わざわざ教室で待っておったのに。まあよい、学園長室に行くかえ」


「学園長ならたった今、出ちゃったよ。カギも閉めたし」


「そんなものいくらでも複製できるわ。それにいくらフェイラーが身内とはいえ、今回の件は趣味研内に留めておかねば大問題となる」


 学園長室に侵入してさらに奥、廊下からは入れない準備室に向かう。フェイリアにとっては最も安全で確実なテレポート魔法の転移座標。

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