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ゲーム遊びとゲーム制作1

「ジュディス、歯を食いしばりなさい」


 有無を言わさず返事を待たず、ジュディスは健やかなる食休みに堕ちていく。立て続けにミーシャも関節技の餌食になったけど、元気そうでなにより。


「全然平気じゃないからね!? ラド、レナちゃん、助けて!」


 趣味研でのボードゲームの結果が歪曲して広まった噂が、ジュディアの耳に届くまでそれほどかからなかった。

 内容としてはありえない話なんだから冗談として笑い飛ばせるものとしても。


「あんたが変な行動するとわたしまで変に思われるつーの」


 Xクラスではレナだけが何も知らないだろうから、どうかこのままでいて欲しい。


「みなさま、遊びに来ましたわよ!!」


 ノックもせず教室に飛び込んできたのは、ウェーブがかった長い金髪の女の子。


「って、お兄様!? そこの泥棒猫、今すぐ離れなさい!」


「アリィ!?」


 この子はアリィ。正式名称はアルネージュ・エレマールといい、エレモア帝国の第四皇女。そしてミーシャの妹だ。


「どうされたのですかお兄様。噂の相手もろともボロ雑巾のようになってしまわれて」


「実の兄を形容するには、はなはだ不適切なんじゃ…………それより噂の相手って」


「もちろん存じておりますわ、ジュディスでしょう。だって広めたのはわたくしですもの」


 変な噂を流すことで女除けを狙ったみたいだけど、それ以上に身内の恥をさらすことになるのは気にしないんだろうか。


「そんなことより…………レナ、遊びましょう!」


「わーい、アリィちゃん」


 レナとアリィは魔法オタクとして意気投合して以来、気心の知れた間柄になっていた。

 ボク自身もアリィには気にかけてもらっているけど、レナのおまけって感じがする。


「土曜の午後でしたら皆さんこちらでサボっていると思いまして。ぜひとも、やりたいことがあるのです」


 フェイリアが教室に広げたのは例のボードゲーム。ちょっと癖があって独特な、でも辛辣で品位に欠ける、フェイリアが作った悪趣味なものだ。


「どうしてそれをアリィが!?」


「わたくしも制作に携わりましたので。反省点を踏まえ、前回よりアップデートを加えております」


 負けず嫌いのカイザーと、噂の真相を知りたがるジュディア。何よりアリィと遊びたがるレナが賛成に回れば拒否権はない。


「ラド、顔に出ておりますわよ」


「は、ははは……」


 ゲームの内容は改善されたものを期待していたのに、生易しいものではなかった。

 双子のジュディスとジュディアが結婚したり別れたり。また結婚してカイザーを子供にするというおぞましい結末になってしまった。

 そしてミーシャとアリィ、ボクとレナが結婚したのは本当に偶然?


「ゲームは人数が増えるほど楽しくなりますわ。さらにお兄様と結ばれる運命を辿るなんて、幸せ者じゃありませんか」


「いや僕は別に…………だって妹だしねぇ……」


「あたしと結婚したラドくんは幸せ者!?」


「え、あ、うーん……借金まみれの最下位じゃなかったら……」


「お金はどうとでもなるよラドくん。ね、ね?」


 兄弟姉妹はすべての地位と財産を投げ打って結婚する、なんてマスが追加されていなければこんなことにはならなかった。

 いや、ボクとレナは本当の兄弟姉妹じゃないんだけど。


「本日は有意義なひと時を過ごせました。お兄様、そろそろ馬車の時間ですわ」


「楽しい時間はあっという間だよねぇ。じゃあ僕たち兄妹はお暇するよ、また来週!」


「夫婦、の間違いですわ。それでは皆さん、御機嫌よう」


 たっぷり遊んでぐったりして、みんながそれぞれの帰路につく。


「あたしたちも夫婦だよ夫婦。どう? ラドくんどう?」


 返答の言葉選びを間違えると即刻、ミーシャとジュディスの二の舞になるだろう。だからやっぱりレナにはこのゲームを知って欲しくなかった。

 そんなボクの掌にはアリィに手渡された秘密のメモが握られている。



 ──話あり。月曜午後、趣味研にて。

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