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迷宮探索3

 四方から狙われる危険がある十字路から少し戻って地面に腰を下ろす。

 迷宮内じゃ時間経過が体感できないけど、本来は熟睡している時間帯。慣れない緊張感もあって体力の消耗は激しかった。


「…………そこから二十、十五、三十。全部足して……」


「なるほど。図に起こしてみますのでしばしお待ちを」


 無言で座っていると寝落ちしそう。レナに話しかけて眠気を紛らわしてみる。


「今日は……きっとみんなお休みだよね」


「お家に帰る前に倒れちゃいそう」


「みんなは学園が近いからいいけど、ボクとレナは教室で寝ちゃう?」


「いいねそれ。ラドくんは経験者だし」


「あの時は記憶がないんだよね。目覚めたら教室だったもん」


 ジュディアとアリィの通信が終わり、暗号だらけのマッピングがイラストに起こされて見やすくなっていた。

 ボクたちは今、エスカレア特別区の中心から真西に三キロの地下にいる。


「今まで通った道は、エスカレア北西に広がる森の地下でした。水が抜けたことで野生動物が侵入したのだと思われます」


「わかったわ。この先の十字路はどちらに向かえばいいかしら」


「西へ向かってみてください。真っすぐ南下してもエスカレアを一周するだけで変わりばえはしません。残りの時間で脇道を調べて欲しいのです。運が良ければ地上に出られる可能性も考えられます」


 クリス先生とメイ先生は未だに戻らずに調査を続けているそうだ。それにしても、フェイリアを連れ去った犯人がカイの予想通りゴーレムだったとすれば……。



 どこの誰で、何が望みだろう?



「ゴーレムだと仮定すればですが、創造主の命令がなければ動けません。ゴーレム自身が自分の意志で動くことは考えにくいのです。もしかするとフェイ以外にゴーレムを操っている人物ということも……」


 ここで話し合っても結論は出ない。タイムリミットまで一時間と少し、先に進もう。


「広い場所に出るぞ。気をつけろ…………って、オイ!」


 今までの狭さから様変わりして、急に視界が開けた。高い天井と深い地底。巨大な空洞になっている場所だった。


「岩が濡れて滑りやすい。滑落するんじゃねぇぞ」


「すごくヌルヌルしてるねぇ。水はどこに行ったんだろう」


「なんか壮大な神殿みたいね。行けるところまで行きましょう」


 神殿という例えは的確で、明らかに人の手で作られた壁や柱が崩れていた。空洞すべてがひとつの建物だったように思える。


「え……壁に穴があいているけれど、全部調べるには無理があるよ姉さん」


「集合体恐怖症じゃないけれど、ちょっと気持ち悪いわ」


「わかる。穴から巨大なミミズとかウネウネ出てきそうだよねぇ」


「気味悪いこと言わないで! 罰としてミーシャ、中の様子を見てきなさい!!」


 デザイア改Ⅱを持たされたミーシャが穴の奥へ入っていく。しかし、すぐに戻ってきた。


「行き止まりだったよ。何もないんだ」


 他の穴も同じ結果で、奥に進む道ではない。すべてを調べなくても結果は同じだろう。少なくとも巨大ミミズの巣穴ではなかった。


「皆さん。その穴は……もしかしたら湧水の源かもしれませんね。古代都市の水汲み場とか妄想が捗りますが今は時間がありません。残念ですが行き止まりで引き返して、戻ってきてください」


 フェイリアを発見できないことは心残りだけど、子供のボクたちがこれ以上できることはない。夜明けを待って学園や大人たちを巻き込み、大々的な捜索となるんだろう。

 そしてこっぴどく怒られて…………今度こそ本当に、全員退学かも。


「一度ならず二度も、ロリババァ関連に苛まれるとはなぁ」


「人命には代えられないから仕方ないさ。最後に叫んでみようよ」


「反響で崩れたらどうすんだってお前。まぁ好きにしろや」


「フェーイリアさああああああん!!!」



「…………おるぞ、ここじゃ」



 驚きつつ声の元を辿ると、祭壇に横たわるフェイリアが半身を起こして手を振った。熟睡していたようでボクたちに気付かなかったらしい。


「ロリババァ、てめぇ何で生きてんだ暢気に寝てんだ、生贄にでもなったのか!!」


「うるさいのうカイザー、ワシとて困っておったんじゃ。ほれ、来たぞ」


「何がだよ!」


 ボクたちが歩いてきた水路の方角から、ものすごいスピードで駆け寄ってくる女の子。エクリル女学院の制服を着ていて、噂に上がっていた容姿に合致する。


「私はイーノ。貴方たちは許可されていません」


 ボクたちは歓迎されていないらしい。かといって手を出してくる様子はない。

 イーノと名乗った女の子にはフェイリアの面影と、カイのようなクールさが感じられる。頭にはあの魔法のティアラを乗せていて、なぜだろう、どこか既視感があった。


「思い出したぜ。てめぇ俺様を担いで拉致りやがったヤツじゃねぇか!!」


「あぁ、あの時の! 抵抗虚しく力負けしたカイザーマジ哀れ」


「ジュディアだって恨みがあんだろうが。緑のモロパン祭がよ!」


「あの時のパンツの色まで覚えてるとか変態にも程があるキモ」


「醜い仲間割れはやめなよ、ふたりとも」


「何それ僕は知らないんだけれど」


 これはフェイリアと初めて会った時のこと。

 イーノが力づくでカイザーを連れ去り、抵抗したジュディアを持ち上げてパンツが丸見えになった。ミーシャが途中入学する前だったから知る由もない。

 その場にいたボクは反対側にいて見えなかったんだけどね。


「…………申し訳ございません。ジュディア様を持ち上げたのはわたしです」


 デザイア改Ⅱ越しにわざわざ謝罪をしてくるカイ。今さらというか、今はどうでもいいんじゃないかな?


「ほほう。予想通りというか、面白いものを持っておるようじゃの。ところでワシは腹ペコで力が出ぬ。聞こえるか、ワシはこの場から動けぬ。だからここまで来て運んでくれてもいいだろう、カイよ」


「…………私はイーノ」


「ああそうじゃった、いつもの癖での。カッカッカ」


 祭壇で横になっていたフェイリアを軽々と持ち上げてボクたちの前に座らせた。用意がいいというか、ジュディアが水とチョコレートを与える。


「すまぬ、助かったぞ。頭パッパラパーのお転婆娘のようで配慮が行き届く、気が利くおなごじゃのう」


「褒めてもそれ以上出ないっての。救助の基本ってだけよ」

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