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迷宮探索2

 迷宮最奥の枯れた泉。

 ゲーム準備中に魔法のティアラを沈めた場所は干上がって縦穴になっていた。

 事前に用意したロープを垂らして慎重に下まで降りていく。


「案の定っつーかこれ、人工的に掘った穴じゃねぇか?」


 地下水路は幅も高さも一定で余裕のある広さ。坑内は少しずつ湾曲して遠くまで見渡せないが、自然が作り出したにしてはいろいろと揃い過ぎている。


「あ、あーあー、聞こえますか。そこはエスカレアの魔脈、意図的に誰かが作ったと思われます」


「労力とか大変そうだよ。でも水はどこに行っちゃったんだろうねアリィちゃん」


「今は小難しいことを考えるのはナシだ。見ろよ、さっそくお出ましだ」


 通路の先に見える影。四本足でオオカミのような獣が、ボクたちを見つけると即座に襲いかかってきた。


「グルルル……ギャオオオオオっ!!」


 オオカミのようでオオカミではないと察したのは、頭に角が生えていたから。不自然なくらいに筋骨隆々としていて、瞳は赤く光っている。


「俺様に楯突こうなんぞ百億光年早ぇんだよボケが!!」


 手にした盾で殴るようにして押し倒し、怯んだところで脇腹をひと突き。息絶えた獣は黒々とした煙のようなものを霧散させていく。角が消えてやせ細り、本来の姿に戻った。


「どこの森でも普通に棲息しているオオカミだわ。もちろんエスカレアにもね。警戒心が強いから人を襲うなんてことは聞かないんだけれど」


「言うがジュディア、実際襲って来てんじゃねぇか」


「魔獣になったのよ」


「それはねーさま、水が涸れて『魔力の余り』を消費できなくなったからだと思うの。だって本来、この迷宮は魔力の余りを……」


「おうおうレナの言う通りだ。撃退しながら進もうぜ」


「希少な野生動物なんだけれど、仕方ないわね」


 魔法の話になると止まらなくなるレナの扱いには、みんなも慣れてきたようだ。

 その後もキツネにタヌキ、アナグマにモグラと魔獣のオンパレード。魔力で強化されているとはいえ、イノシシですらボクたちの相手には及ばない。


「一匹ずつはザコでも、数が厄介だぜ。みんなケガはないか?」


 前衛のカイザーとミーシャが肉弾戦。

 中衛のボクは後衛を守りつつ、状況を見て前衛に躍り出る。

 後衛にレナ、ジュディス、ジュディアと続く。


「本当にバランスの取れた理想的なパーティですわね。貴方たちが最初からゲームに参加していれば、一番になれたのではなくて?」


 アリィが軽口を叩くほどの余裕があると思われた矢先、少し前方で巨大な影がうごめいた。一瞬で緊張が走る。


「熊だろう、コイツはヤベぇな。ジュディス、魔法で援護を頼む」


 盾を構えて突進したカイザーが腹部に剣を突き刺すと、背中まで貫通していく。普通であれば致命傷であっても、強靭な魔獣は倒れない。


「…………大地の力……木々の…………」


「よくわかんねぇけど、早くトドメを刺してくれ!」


 剣を取られて盾だけで耐えるカイザー。ボクとミーシャが足止めしていると、騒ぎに気付いて奥から別の魔獣が迫ってきた。


「一旦引いて、立て直そ……」



「あぁ、あはん、あんあん、あぁああああああんっ!!」



 突風のようなカマイタチが真横をかすめて通り抜ける。熊は真っ二つに切り裂かれ、後方にいた魔獣すら砕け散るようにバラバラになった。


「お、おま……こ、こえぇな、合図しろよ!」


「一歩間違えば僕も八つ裂きになってたよ、あははは」


「魔法を跳ね返せるボクだって、直撃したら痛いんだよ」


 渾身の魔法を放ったジュディスは力尽きて倒れてしまった。魔法を使うのは、心身への負担も大きいんだ。


「ちょっ、ちょっと貴方たち、何事ですか!? なんて破廉恥な!」


 デザイア改Ⅱから悲痛な叫びが聞こえる。

 幸いボクたちにはケガもなく、安心させるためにパーティの様子を映してあげた。


「お兄様!? お兄様が、その……泥棒猫のジュディア…………、いや。その方はジュディス……その、そういうことでしたら許容範囲、えぇ、許します…………けれど」


「よかったなジュディス。ようやく女だと勘違いされなかったぞ」


「どうしてジュディスはよくて、わたしじゃダメなのよ!!」


「ジュディスは出して果ててしまったんだから。現状じゃ僕が担ぐしかないんだよ。だから心配しないでアリィ。ラドはしばらく前で攻めて」


「お兄様、お兄様は何を口走っておられるのですかっ!!」


 ジュディアは頬を赤らめて笑いをこらえている。レナはなぜか納得した様子。隊列を変更して奥へと進むけど、笑いどころはドコ?

 本来は地下水路の場所なので、天井から壁、足元まで全体的に湿っている。基本的には一本道でも、所々で分岐して枝分かれした道もある。


「左は水没して進行不可、直線は左曲がり、さらに……」


 ジュディアが小声で呟きながらマッピングをしている。覗き見ると暗号のようなメモになっていて解読できない。


「だからまぁ、訓練っていうか慣れね。ハンターギルドの基礎だもの。壁にも印をつけておくわ」


 どの方角から来て、どの道に進むかわかるように傷をつけていく。こうすればボクにだって理解できるけど、場合によっては危険らしい。


「今に限ればいいんだけれど、敵や追手、ライバルになる冒険者にも存在をバラしてるものだから。壁の傷にいたずらされたら終わりだし」


「ねーさま、しっかり者でステキだなぁ」


「何それ。褒めても何も出ないわよ」


 ゲーム中にハンター同士で争っていたことに比べると、いかにジュディアが優秀なのかわかる。普段でもボクたちと一緒に遊んで、授業ではいつもいろいろ教えてくれるし。

 やっぱりどうして、カイザーと仲がいいんだろう。


「視線がわざとらしいんだボケ。腐れ縁だ腐れ縁…………って止まれ、何だよあれ、ヤバそうなやっこさんだ」


 緩やかに曲がった道の先、今まで出会った魔獣とは明らかに違うシルエットを確認した。背中には翼を生やしており、遠目でも悪魔だとわかる。


「おうおう、迷宮らしくなってきやがったじゃねぇか」


「先に進むしかないし、任せたよカイザー」


「ラドも前衛だろうがっ!!」


 今までの魔獣と違って向こうからは攻めてこない。近づいて初めて戦闘態勢になった。翼をはためかせながら、ゆっくり近づいてくる。


「ぐっ、硬ぇ……ぐはっ!」


 剣での一撃は乾いた音を立てただけで弾かれ、重い打撃をくらってしまった。体勢を立て直すため距離を取ると相手は引き返していく。

 まるで縄張りを守るかのような動きだ。


「皆さん、カイからの情報ですわ。相手はおそらくゴーレムです」


「ゴーレムってことは、あのロリババァがやりやがったってことか!?」


「その可能性は低いでしょう。石像に魔力が宿ってしまったのではないでしょうか。俗にいうガーゴイルと呼ばれる魔物ですわね」


 心の片隅で、ほんの少しだけ、これはフェイリアとアリィによる余興なんじゃないかと疑っていた。

 マジェクタルを持たずゲームに参加できなかったボクを気遣ってくれたとか、趣味研による新しいゲームの試遊とか。

 現実じゃカイザーは痛みに悶え苦しんでいるし、デザイア改Ⅱ越しのアリィは時折、感情を抑えきれずに悲鳴をあげる。

 このままじゃダメだ、危ない。


「ボクが行く。任せて」


 本当にゴーレムだったらボクのひと太刀、いやひと触れで無効化できるはず。魔法が効かないボクは、魔法がかけられた物に触れるだけで破壊できるんだ。


「せーの、おりゃっ!!」


 動きが遅く、翼があるのに重くて飛べないガーゴイルに触れるのは難しくなかった。そして砂になって崩れ落ちていく。カイの読みは当たっていたんだ。


「相変わらずメチャクチャな能力だよな。助かったぜ」


「一般人が倒そうとしたら、ウィザードを何人も連れてこなきゃいけないんでしょ?」


「普通の一般人はゴーレムを倒そうとしないわよ」


「閃いた、美少女フィギュアに」


「ラドくん大丈夫!? 怪我はない?」


 倒した時に少しだけ砂がかかったくらい。ヒットアンドアウェイで様子を見ようとしていたから攻撃は喰らわなかった。


「この先はボクに戦わせて。被害を最小限にできると思うんだ」


 魔獣の数が圧倒的に増えてきた。それでもかすり傷を負わせただけ、触れただけで魔獣は苦しみ、正気に戻っていく。


「俺様とミーシャで気絶させるから、その間に開放してやれよ」


「真っ先に歯向かうものは皆殺しとか言いそうなのに、やるじゃない」


「うるせぇジュディア。無駄な殺生は目覚めが悪いだけだボケ」


 不良なのか優等生なのか、人は見た目によらないということを再確認して先に進む。時折現れるガーゴイルですら難なく倒していった。


「ん、十字路か。このパターンは初めてじゃねぇか?」


「ここまでかなり時間がかかったよねぇ。アリィ、今は何時だい?」


「三時ですわお兄様。一度、位置を確認させてください。ジュディアはわたくしとマップの照合を、他の皆さんは休憩をいれてくださいまし」

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