インターミッション4
カカッ、カカカッ、カカッ…………。
「馬? この音、さっき聞いたのと同じ…………そういえばお姉ちゃんって、どうして馬術サークルに入ってたの?」
「ちょっとした縁があってね。それにほら、乗馬スキルなんて快適な移動手段になるんだから身につけて損はないわ。あんたたちも習ってみたら?」
パッカパッカと乗馬する仕草をする度に胸も大きく揺れるのが面白い。重さに耐えきれず根本からちぎれて吹っ飛んでいったりして。
「ウィザードギルドだけじゃ退屈だったし、実用的なサークルだったから掛け持ちも悪くなかったわ。それに……」
「…………それに?」
「乗馬を嗜む生徒って高貴な出自が多くてね。コネも作れちゃったりして、アッハッハ」
やっぱり計算高い下心があったのかと納得。でも技術を身につけつつ、人との繋がりを育めるのがギルドやサークル活動の良さでもある。
実際、今回の荷物運びでは助けてもらえた。
「懐かしい話をしてますね、クリス先輩」
「でしょう。アオイも引っ張り込んだのよ。すごくセンスがあってねー、ああもう、バーテンダーにしておくのが惜しいくらいよ」
「いえいえ。私には馬術で食べていけるような後ろ盾もありませんし」
ふたりともウィザードギルド所属で付き合いが長いとは聞いていたけど、馬術サークルにまで付き合わされていたのは初耳。引き回されて気の毒だ。
「そうは言ってもアオイなんて、声をかけなきゃ研究に没頭するタイプなの。籠りきりで不健康なんだから、外に連れ出して感謝して欲しいくらい」
その行く末が問題行動、退学になったんだから笑えない。
アオイさんにはアクアパッツァで客としてお金を落とす以上の責任を取らなきゃいけないレベルだと思う。
「だからあたし、ふたりはそういう関係だと思ってるんだけどなぁ」
「傍若無人で傲慢な先輩と、人当たりがよくていつも尻拭いをさせられる後輩。加害者と被害者って関係の間違いじゃないかな」
「学生時代からの実績と口実があるんだよ。いいなぁ、憧れるぅ」
それは前科で因果の間違いだろう。さらに、ズボラでガサツなクリス先生の世話を上乗せされる人生なんて生き地獄。鬼畜すぎる。
「何をコソコソしゃべってんの。何か失礼なことを考えてるわね。顔に出てるわよ」
そう思われる自覚があるなら、もっと違うカタチで責任を取ってあげようよ。
「ま、そんわけで馬が合って今があるってこと。馬術サークルだけに、アッハッハ」
「そう仰っていただければ光栄ですね。メイ先輩も含めて」
「げ…………。メイは頭数要因だっただけよ。廃部危機だったんだし」
ここでも絡む犬猿の仲。常日頃からいがみ合っているくせに、ここまでくると実は仲良しの大親友だったとしか思えない。
「メイのバカは放っといて、また馬を借りて小旅行なんてしてみたいわね。草原を走ると気持ちいいのよ」
ドドッ、ドドドッ、ドドッ……。
「目を閉じるとほら、今でも蹄鉄の響きが聞こえるわ。蹄鉄っていうのは馬蹄ね、つまり蹄のことで……」
「…………いえ、早馬が店の前まで来たようです。お客様でしょうか」
日曜日の夜に馬を駆ってまで飲もうとする酒好きでもいるんだろうか。乱雑に店のドアを開けると、つり下げられたベルがけたたましく鳴り響く。
「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
「すみません、人を捜していて…………って、見つけましたっ!!」
階段を駆け上っただけでは済まないほどに息を切らして近づいてきた人影。雰囲気のある暗い照明の店内では、それが誰なのか特定するまで時間を要した。
「え、アリィ?」
汗だくになりながら肩で息をしていたのに、目の前にやってくると血の気が引いて顔色が一気に青ざめていく。何かを伝えようとしても焦りと緊張で言葉が出てこない。
「落ち着いてアルネージュ。何かあったのね…………迷宮で」
クリス先生が優しく話しかけると、唇を振るわせて泣き始めてしまった。
「ラドとレナは今すぐ学園へ。アルネージュは私が連れていく」