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迷宮探索ゲーム6

 探索し続けた上、やるかやられるかの緊張感で精彩を欠いてしまうプレイヤーがいる中でひと際、機敏なパーティがいる。


「ロストした連中でも迷宮内の様子を楽しめるよう、地上にもモニターを用意しておいたんじゃ。そしてこのゲーム、入場するタイミングを定めておらなんだ。つまりこのガキンチョ共が一番ルールを理解しておったというわけじゃ」


「フルプレートの騎士に、ヘルムで顔を隠した女子…………って、え、うわぁ」


 Xクラスのみんなは、魔法のティアラが見つかったのを確認してから迷宮に入ったんだ。それまで体力を温存しつつ、内部の様子を伺っていたんだろう。


「さすがワシが目をつけたメンバーたち、子供たちじゃ。そうじゃ、身内ではワシを盟主と呼べと言っておったじゃろう」


 すっかり忘れていたよそんなこと。でも身内って言ってくれるのはやっぱり、可愛がられている証拠かな。


「身軽なミーシャが先頭、ハンターのジュディアが地図を見ながら誘導して、カイザーとエレノアがプレイヤーを倒し、レナとジュディスが宝を回収、と。役割分担もしっかりしておる」


「さすがですわお兄様、リーダーに相応しいふるまい、お姿、そのお顔…………ああ、お兄様、お、お、お兄様ぁあああっ!!」


 大声を上げた口を思わず他人が塞ぐっていうシーンはよくある話だけど、魔法で沈黙させるのは初めて見た。


「ん…………ふぅ…………ふぅー…………!!」


「何を立ち止まってんのミーシャ。この先は行き止まり、戻って右よ」


「気のせいかな、妹の声が聞こえた気がしてね」


 ミーシャが他のプレイヤーを見つけたら立ち止まってハンドサインを出す。右、ナイト、三、カイザー、行け。

 兵隊が使う正式なものではなく身振り手振りで伝えているだけなので、見るだけでなんとなく理解できる。物陰からフルプレートの大男とヘルムで顔を隠した暗殺者に奇襲されたら、誰にやられたかわからないままロストだろう。



 騎士道精神、どこいった?



 刻一刻と時間は過ぎて、ゲーム終了まで残り十分を切った頃。

 迷宮内は驚くほど静かで落ち着いていた。

 管理室でモニターを確認してもカイザーたち以外に動きはないのに、一向に脱出する様子がない。


「他に残ってるヤツ、誰もいねぇよな」


「しかし変ね、プレイヤーはともかくゴーレムすらいなくなったわ」


「それってつまり、誰かがティアラを持って出て行ったってこと?」


「それはありえないんじゃないかな。外に繋がる一本道の出入口には、しっかりと……」


「うん、あたし……」


「うわああああああああっ!!」


 絹を切り裂くような悲鳴が静寂を破り、モニター越しのボクたちすら驚かされた。入口近くに身を潜めていたナイトがジュディスを羽交い締めにしている。


「はいご苦労さーん。この迷宮にはもう、他のパーティはいないようだな?」


「姉さん…………カイザー……助け……て……」


 カイザーたち六人に対して、相手はナイトのみ。戦力差だけで判断すれば負ける相手ではないけど、ジュディスの喉元には剣が突きつけられている。


「女がティアラを持って走り去ったって情報はとっくに仕入れてんだよ。ティアラと一緒に、持ってるお宝を全部渡してもらおうか」


 このナイトは同盟パーティでハンター女子と一緒にいたナンパ男。仲間が全員ロストしたのでなりふり構わない行動に出たんだろう。

 ナイトギルドの騎士道精神、本当に大丈夫?


「てめぇには騎士道精神ってものはねぇのかよ、あぁ!?」


 だからそれをカイザーが言うなって。


「うるせぇ! この女がどうなってもいいってのか!?」


「え…………あの、ぼくは男……」


「そっ、そうよね、でも、ぷ、ぷくくっ…………ジュディス、ロストするだけだから安心して逝きなさい!」


「酷いよ姉さん!!」


「おっと、この女は殺さねぇぜ? でも服を切り裂くってことなら、なぁ?」


「なんて卑劣で破廉恥な! いや……でも確かに、ロストさせずに服だけ脱がせばご褒美という…………むむ、敵も考えている!」


「ミーシャはどっちの味方なんだよ、助けてよ!」


「今はできるだけ時間を稼ぐとして…………どうしよう、女子なのに捕まらなかったジュ」


「あら、この程度ではロストしないのね」


 ジュディアのボディブローじゃミーシャは死なないという証明なんて今は意味がない。でもきっと今後に生きてくるはず、がんばれミーシャ。


「…………お前はティアラを手に入れて、何を願うつもりなんだ」


「その声とタッパ、カイザーか。ここは先輩である俺に手柄を譲るってのが道義だと思うんだが。プレイヤーの掃討ご苦労さん。俺にはな、愛を誓った女に報いるために、どうしてもティアラが必要なんだよ!」


「愛!?」


 興奮気味に前方へ躍り出ようとしたレナをジュディアが止めた。


「愛を誓ったって、報いるって、過去形かよ死んだのかよ」


「勝手に殺すんじゃねぇ! 俺は生きて帰って、ティアラと願い事を手土産に告白をするんだよ」


「告白!? 素敵、ティアラを渡してプロポーズするの? 相手はどんな人? どこで知り合ったの? すごい、すごーい!」


 ジュディアだけでは抑えきれず、エレノア会長の力を借りてようやく止められた。うちのレナがなんていうか、ごめん。


「運命。そう、俺とアイツが出会ったのは運命だったんだ」


 あ、そこは律儀に語ってくれるんだ。


「今回の迷宮探索で手にした一番の宝は…………あの、ハン子との出会いだったのかもしれねぇ」


 ナイトとハン子の邂逅、約束、そして誓い。

 聞かれもしないのに出会いからこれからの未来について赤裸々に語り始めた。というかあのハンターの女子ってハン子って言うの?


「…………というわけでアイツが寮を出てひとり暮らし、いやふたり暮らしかな、へへ。そのための資金が必要なんだ。親睦を深めて愛の巣として……ぐふふ」


「なんだコイツ気持ち悪ぃな」


「それは言っちゃダメだよカイザー。それより早く助けてよ」


「絶対偽名っしょそれウケる」


「うるせぇ! わかったらさっさとお宝を寄越せ、全部だ」


 カイザーが代表して引換券が入った革袋を手渡した。魔法のティアラは含まれていないと思われていたけど、布に包まれた見慣れないものがある。


「やっぱり持っていやがったか! 魔法のティアラだろう、これで俺の勝ちだ!!」


 タイムアップまで残り僅か。

 引ったくるように奪い取ると、中身の確認もせず一目散に走り去った。解放されたジュディスも残されたカイザーたちも立ちすくむしかない。

 生命、もとい貞操の危機は免れたものの、お宝はすべて奪われてしまった。


「まぁゲームとはいえ、ダチを見捨てるワケにはいかねぇからな」


「カイザー……恩に着るよ。でも」


「時間稼ぎには申し分なかったわ。今から急いだところでもう…………ね、レナ?」


「あたしのメテオでこの先は塞いだから、出られないよ」


 ゲーム終了、タイムアップ、強制ロスト。

 ボクはアリィに急かされて地上へ急いだ。背後のスピーカーから漏れ聞こえた悲痛な叫びを耳にしながら。



「どうしてここ、岩で塞がってんだよ!!!」

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