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第二章 娯楽都市アルカディア 3話目

 流砂の落ちる先には、底の見えない大穴が口を開けている。その都市に足を踏み入れるには、僅かに繋げられた細い道を通っていくか、あるいは空を飛んで行くか。砂漠に唯一ある娯楽都市、アルカディアが一行の目の前に姿を現す。


「あれが目的の街か!? グランデカジノを思い出させるような雰囲気だが!」

「間違いありません! あそこに併設されているコロシアムが、今回の目的の地でもあるので!」

「チッ、歓楽街にあまりいい思い出がないんだが……」


 そうして車両を走らせていると、街の方角からジョージ達一行の方へと土煙を上げて何かが向かってくるのが見える。


「もしかして、ワームですか!?」


 もしそうであるならば車でこのまま向かうのはまずいと思ったユーゴーは、ブレーキをかけようと右足を移動させた。


「……いえ、ワームではないですね。あれは――」

「なんだあれは、ホバーボードか!?」


 地面に一切つくことなく、スレスレのところを滑るように飛ぶ一人用の乗り物。一見するとキックボードに似た形状をしているが、車輪がついておらず、代わりに後ろには推進器が取り付けられている。そうしてやってきた一人の女性は、こちらの顔を確認するようにして一旦隣をすり抜けるように通り過ぎていく。

 その際のすり抜けざまになびく長い髪に、ジョージは妙に目がひかれた。しかし次の瞬間にはラストからジトっとした目線を向けられていることに気が付くと、そういうつもりで見たわけではないとラストに向かって顔の前で手を横に振る。


「いや、そういうつもりで見たんじゃない。一応どんな奴か確認しただけだ」

「もう……主様には私がいるのというのに。それに私だって、髪の手入れを欠かしたことはないんですから……」

「お二人とも惚気のろけている暇はありませんよ。折り返しこちらに向かってきています」


 そうしてホバーボードを車両へと横付けするようにして並走すると、女性は助手席の窓をコンコンと叩いて開けるように促す。

 指示通りに窓を開けてシロが顔を出すと、女性は改めて身元の確認をするように、シロに向かって用件を尋ねる。


「こんにちはーっ! 一応確認しますが、“殲滅し引き裂く剱ブレード・オブ・アニヒレーション”のシロさん御一行で間違いないですかね!?」


 そうしてシロと顔を合わせた女性を見て、シロはどこかで見たことあるような……と思いつつ、素直に答えを返す。


「そうです! ボクが代表のシロと申します!」

「そうですか! 私は拳王から案内役を任されていて、シャルトリューっていいます!」

「シャルトリューさんですか! ではこの先の案内をお願いしてもよろしいでしょうか!?」

「では私についてきてください! そちらのバイクの人も同行の方でしたら、同じくついてきてください!」

「分かった。ついていこう」


 シャルトリューと名乗る女性はそう言ってホバーボードを走らせて砂漠を先行し、その後を追うようにして、SUVとバイクは道なき道に砂煙を巻き上げながら車輪の後を残していった。



          ◆ ◆ ◆



「――皆さん長旅お疲れさまでした! ひとまずはこの先に皆さまが休憩できるように冒険者組合が指定している酒場を予約して取ってありますので、そこで休憩していってください!」

「……とのことらしいが、どうする? SUVはしまい込めないだろ?」

「どうするも何も、ここに置いていくしかないでしょう……しかしながらこの街はテクニカと提携でもしているんでしょうかね。車がこうも平然と並んでいると、ベヨシュタット側の人間としては、複雑な気分になります」


 地理的には科学技術に精通した国であるテクニカとも近いせいなのか、こうして拳で戦うことを正義とする国であるナックベアにこのような駐車場があることなど、不釣り合いにしか見えない。


「元々はテクニカの領地だったりするのかもな」

「だとしても、あまりいい気分はしません。これだけの技術を国がせしめている可能性だって考えられるんですから」


 ゲームスタート当初であれば、六つの国にそれぞれとがった特徴が存在していることになっている。しかし領地を取ったり取られたり、あるいはギルドで同盟を組んだりなどで文化交流が進んでいけば、このように本来元の国にはない技術も存在できるようになってくる。


「それにベヨシュタットだって随分と異文化が混じってきているだろ?」

「ええ。その結果、混じって欲しくないものまで混じっていますけどね」

「確かにそれもそうだが」


 そして彼らのギルドもまた例にもれず、剣技を主体とする国(ベヨシュタット)に所属しているギルドではあるものの、他所のギルドから技術者エンジニアの引っこ抜きをしたりとして、内部においては総合的な強化が続いている。


「ひとまず、紹介された店で一息つくとするか」


 何はともあれまずは長時間の運転で集中していた疲れを取ろうと、ジョージはシャルトリューの案内に従って、この地区を担当する冒険者組合が運営する酒場へと向かおうとした。

 しかし運転をしていなかったシロはまだ余力のある頭脳で現状を把握した上で、別の優先事項について話を切り出す。


「一息つきたいところですが時刻も既に四時を回っていますし、明日に向けて宿も探しておかないと」

「やど……宿っ!? まずっ!? あたし宿の予約忘れてた!?」


 自身のステータスボードを見て宿の予約をしていなかったことに焦りを示すシャルトリューをよそにして、同じくステータスボードに表示される時刻を確認しつつ、シロは今後の予定を立てる。この時のシロの頭で一番の優先事項は、明日の団体戦に備えての寝床の確保だった。


「あーどうしよどうしよ!? 今から組合に部屋が空いてるか聞かないと――って、明日の試合を大々的に告知しちゃったから他の冒険者で埋まってるかー!!」

「おい、さりげなくとんでもないことを聞かされたんだが」


 どうやら拳王との謁見をかけた試合のはずが、いつの間にか興行的な意味合いも含むものとなっていたようで、シャルトリューが口を滑らせたことで初めてジョージの耳にそれが入ってしまう。


「シロさんこのこと知ってたのか?」

「まあ……わざわざ娯楽都市を指定してコロシアムで戦う時点である程度は予想していましたが……特段問題ありませんし、これを逆手に取ることもできるでしょう」


(ここで自分達の強さを誇示できれば、ギルドとして復活の狼煙をあげることができるでしょうし――)

(――なんてことを考えているんだろうな、この人は)


 そうしたシロの密かな思惑は、ジョージにとっても手に取るように理解できるものだった。

 元々が一か月前にギルドとして、個人としてこの世界ゲームの最前線に立てる実力が無いと感じたのをきっかけとして、ジョージは修行(レベル上げ)を提案した。そして皆がこの考えに理解を示し、それぞれで修練を重ねてきた。

 もしここでその成果を見せつけることができれば、再度周りからも脅威として注目されることになる。改めて強敵として認識してもらえる。同じ土俵に立つことができる。


 ――そこに交渉の余地を作ることもできる。


「しかし宿が全滅となると困ったものですね……こちらとしても、万全な状態で臨みたいのですが」

「そうですよねそうですよね!? あっちゃー、本当にどうしよ……こうなったらうちのギルドの部屋を貸す……? でも一応貴方達って他所の国の所属だし、外部の人に【転送(トランジ)】の起点として利用される可能性も考えたらそれもなー……」


 食事は娯楽都市でとるにあたって困ることは無いが、宿となれば話は別。初めて来た街で当日予約はできるのかどうか、そもそも興行的な意味も含めて拳王側は歓迎する雰囲気のようであるが、それに乗っかるべきなのかどうかも踏まえて、様々な思案を巡らせていた。


「宿でしたら、俺が探して――」

「いえ、ここは私が」


 ここまで車の運転をしてきたユーゴーは、再び役に立とうと草の根を分けて探す意思を持っていたが、ヴェイルがそれに横から口を出すような形である提案を投げかける。


「この場所になら、確か知人が一人います。そいつに頼るとしましょう」

「お知り合いですか? 所属はどこに?」

「ナックベアですが、卑怯な取引をするような奴ではありません。そこは安心してもよいかと」

「でしたら宿の件についてはヴェイルさんにお任せいたします。支払いはうちのギルドにつけておいてください」

「分かりました。唐突な提案を受け入れていただき、ありがとうございます。では私は先に話をつける為に、早速その宿の方へ向かおうと思います。組合の酒場については知っていますので、後ほどまたお会いしましょう」


 そうしてヴェイルは頭を下げ、そしてその場から背を向けると、様々にある娯楽で賑わう人混みの中へと姿を消していく。


「……さて、ヴェイルさんのご厚意に甘えて宿の件はお任せするとして、我々の方は組合の酒場の方へと向かいましょうか。その方が落ち着いて話もできるでしょうし」


 シロの言葉に促されるがまま、一行はシャルトリューの案内に従って酒場へ向かう方へと足を進めていくのであった。

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