第一章 トッププレイヤーの集まり 3話目
「ヴェイルさんに白銀の陰さん、こちらですよ」
「あれは……確かグスタフさんが元いたギルドのところの副団長に――」
「久しぶりでござるな、ジョージ。十年ぶりか?」
「……そのござる口調、もしかしてシロガネか?」
「というよりさっきもろにフルネームが呼ばれたでござろう!? ……ゴホン! そうだ。あのシロガネだ」
この場に似合わぬ忍者服に、背中に背負っているのは巨大な手裏剣。そして太ももにはクナイなどの武装を仕込んだその姿、まさにくノ一といえる。あとはよくありがちな色気が足りていないなどはあるものの、彼女の職業は忍者だと一目でわかるものだった。
「あれから十年経ってもその痛い口調は治っていないんだな」
「そっちこそ、相変わらず陰気臭いフードを被っているでござるな」
「シロ先輩……」
「はい? 何でしょう?」
「あの二人、もしかして知り合いですか?」
「さあ? 何せ十年前にもあったゲームの続編ですからね。何かと繋がりがあったりするんでしょう」
シロがそうしてユーゴーの疑問を適当にあしらっていると、長身で眼鏡をかけた男の方が礼儀正しい雰囲気を醸し出しつつ、シロに向かって声をかけてくる。
「失礼。確認ですが、貴方がシロさんでよろしかったでしょうか?」
「ああ、すいません。そうです、ボクがシロです」
「やはりそうでしたか。改めまして、私の名前はヴェイル。話は“元”団長からお聞きしているかと思いますが――」
「もちろんです。グスタフさんからの推薦となればその実力は折り紙付きだと思い、今回の戦いの依頼をさせていただきました……もっとも、その背中に背負う剣を見れば、誰もがその実力を認めるでしょうが」
ヴェイルが背中に背負っていたのは、身の丈より少し小さい程度ながらも、他とは一線を画す大きさを誇る、クレイモアと呼ばれる大剣だった。筋力と器用さの両方を高い水準でステータス割り振りをしておかなければならないところから、分かっている人間からすればこの剣を持っているだけでそれなりの実力者だと推測することができるだろう。
「それで? このメンツで戦うってことか?」
「そうなります。ベスさんやグスタフさんにはガレリア領を任せていますので」
「何故だ? 今回の目的は拳王の――」
「それぞれ他のギルドから人員をお借りした理由については、追々お話します。ひとまずはこの場を離れましょうか」
そうして一行は酒場を離れようとしたが、その前に有名人が来たことによる騒ぎをどう抑えようかとおろおろする受付嬢に対して、ヴェイルは近づいてこう言った。
「この度は騒がせてしまい失礼しました。これで皆に何か奢ってあげてください」
「えっ? あっ、いいんですか!?」
「ええ。道すがらワームを数体ほど狩った際に手にしたあぶく銭ですから」
そうしてヴェイルはテーブルの上に金貨の入った麻袋を置くと、先に酒場を出ようとしているシロガネやジョージの後を追うべく、ゆっくりと歩き始める。
「ワームって、もしかして砂漠のあいつらを!?」
「あの方にとってなら、朝飯前でしょうね」
「凄い……俺なんて戦う気すら起きなくて、道中もジョージさんに倒して貰ってしまっているし……そもそも何で俺がこんな場に呼ばれているのか、まだ納得もできていないんですけどね」
ひたすら自信を無くすユーゴーを見たシロだったが、それでも彼をこの先の戦いに出す意思を変えようとはせずに、先を行く三人の方へと顔を向けつつ、言葉だけでユーゴーを叱責する。
「言っておきますが、ここから先は貴方一人で戦えるようにしておいてください。ボクだっていつまでも、“足枷”をつけたままでいるつもりはありませんから」
「っ! き、気をつけます!」
シロがこうして突き放すような言葉を並べた時は危険信号。現実で刑事職につく彼としても、廃人ゲーマーとしても、足を引っ張る輩をいつまでも置いておくつもりはないと、シロは暗に宣言しているのであった。