第二章 暴風 4話目
「まさかの展開になってまいりましたぁー! 我らが期待のルーキーが早々に土をつけられている光景など、まさに久しぶりの出来事ッ!!」
「ちっ、あのMCどっちの味方だっての」
「中立に実況するのがMCではないのですか?」
「うっさいわね……本当なら、貴方の方が土をつけられるはずだったのに」
自身の体力が満タンまで回復したことを確認するかのように、大斧をぶんぶんと振って方へと担ぐシャルトリューだったが、その顔にもはや一切の油断は存在しない。
「オッケー、こっから先は本気でやらせてもらうわ」
その目つき、まさに猛獣が獲物を狙うがごとく。少なくとも先程までの軽薄な雰囲気からは想像できない程の、明確な攻撃性が見えている。
「……これは先程のようにはいきそうにありませんね」
斧を持つ手も片手から両手へ。単純に計算すれば二倍の筋力、つまり二倍のスピードで振りまわすことができる。
しかしそれでもヴェイルの構えはあくまで細剣での刺突を想定するような、弓を引くかの如く腕をぐっと引いた構えを再び取っている。
「互いに構えが変わったところで、ラウンドツー!! ――ファイッ!!」
「ピアッシング・アイン!!」
狙いは先程と同じ、喉笛一点狙い。加速して勢いをつけ、ヴェイルは真っ直ぐな軌道で大剣を突き出す。
「同じ手は通じないっつぅの!!」
高レベル同士、同じ手は通用しない。刺突の軌道は既に見切っている。
シャルトリューは斬り上げるように大剣での一撃を振り払うと、そのままヴェイルの頭上に向かって斧を振り下ろす。
「――死ね」
攻撃性から転じて生まれる、明確な殺意。シャルトリューの一撃は、今度こそヴェイルの頭蓋を捉えたかのように思われた。
「ッ、バックステップ!!」
剣を弾かれ体勢を崩されたヴェイルの次の選択は、後ろへの素早いバックステップ。咄嗟に下がることで空振りを狙い、再度攻撃を試みようとした。
しかし――
「――大牙回転斬ッ!!」
「なっ!? ぐはぁっ!!」
前転を繰り返して前進する、縦方向の回転斬り。攻撃を回避する方向の選択を間違えたヴェイルは、その真っ直ぐに突き進む回転斬りの道筋の上に立っていた。
車輪に跳ね飛ばされるがごとく、上半身に袈裟斬りのような深い切り傷を負いながらヴェイルの肉体は弾き飛ばされていく。
「残念だったわね! 横に抜けていれば、まだ回避の余地はあったのに!!」
シャルトリューは回転の勢いをそのままにして闘技場の壁を利用して方向を変え、折り返しヴェイルに一撃を加えようとした。
「くっ……!」
今度は相手の助言の通り、横に回避して様子を見ようと試みる。しかしシャルトリューはにやりと笑って回転を途中でやめ、勢いそのままに体をひねり、大斧をそのまま投げ飛ばす。
「――大牙、旋風刃ッ!!」
「何だとッ!? ぐあァッ!」
二度目の斬撃傷は、横一文字。そしてヴェイルはそのまま、第二ラウンドをシャルトリューへと明け渡すこととなった。
◆ ◆ ◆
「ダウーンッ! これでラウンド奪取数は一対一ィ! 勝負は最終ラウンドにまでもつれ込んだァーッ!!」
「意外とやるようですね、彼女」
「そのようだな」
既に一敗を喫している側でありながら、シロもジョージも冷静に現状分析を行い、相手に対して適切な評価を下していた。
「まさか斧を投げるようなアグレッシブな戦いまでするとは、少し予想が外れていました」
「次にダウンすれば負けが確定する状況で、有利を取っているとはいえあんなリスキーな行動をとるとはな。万が一にも避けられてしまえばダウンは免れないというのに」
「ジ、ジョージさんもシロ先輩も、ヴェイルさんを応援しないんですか!?」
味方のピンチに、応援の一言も発することなく、ただひたすらに観戦に徹する二人を見て、ユーゴーはついに我慢できずに声をあげる。
「それに、白金の……陰、さん? も、応援とかしてあげた方が――」
「ここからどうやったらその応援の声が聞こえるでござるか? それよりも、冷静に敵の動きを分析して、次に活かすよう考えた方が身になるでござる」
事実シロガネも少し離れた位置からではあるものの、映像をじっと見て相手の実力を計測していた。
「でもまあ、あのようなリスクある行動を取った時点で、我が相手なら通用しないでござる。変わり身の術でLPを削りながらも、即座に暗殺術でワンキル。随分とお粗末な相手でござるよ」
「確かに、忍者相手に一瞬でも丸腰になるのはリスキーとしか言えないな」
シロガネの実力を認めるかのようにジョージが同調するが、今戦っているのは大剣使いのヴェイルである。
「ヴェイルさんの職業は、聞いたところによればシャルトリューと同じ戦士。変わり身の術は使えません。しかしだからといって、ボクは彼が負けるとは思っていませんよ」
「……といいますと?」
ユーゴーは疑問を呈するが、シロは特に具体的な答えを返すこともなく、ただ単に一言こう言った。
「ボクは彼なら負けることは無いと思っているからこそ、雇ったのですから」