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第二章 暴風 3話目

「ハァッ! エァッ!!」

「ふっ! はぁっ!!」


 お互いの位置を入れ替えながら、あるいはすれ違いながら――存在する空間を斬る、あるいは叩き潰す為に武器が振るわれ、そしてそれをさせまいと刃がぶつかり合う。

 互いに一歩も譲らぬ剣戟の応酬に観客はおろか、MCですら一瞬ではあったが実況を忘れるほどに、その戦いから目を離せなかった。


「……凄い、あれもスキルを使って――」

「いえ、これはまだスキルを使っていません。その証拠に投影魔法で映し出されているあいつらのLPを見て貰えばわかりますよ」


 上空に表示される体力(LP)とTP、その増減は対照的なものだった。剣による斬撃の防御、あるいは余波によって互いに少しずつLPが削れていっているのに対して、互いに攻撃をぶつけあっているが為にTPのゲージがどんどん上昇していく。


「貴方がスキルに興味を持ったついでに、ステータスの方にも説明を加えておきましょうか」

このゲームはレベルアップに伴って各種成長パラメータに数値を割り振ることができる。


 レベルアップごとに割り当てることができる成長パラメータは、次の六種類。


 STR(筋力)strength 物を持てる最大積載量。武器の取り扱い。物理的攻撃力にも適用。

 DUR(耐久力)durability 物理耐性。身体的バッドステータス耐性。

 INT(知力) intelligence 魔導書解析の速さやTP最大量アップ。発想力。

 MIN(精神力) mind 魔法耐性。精神的バッドステータス耐性。

 PRO(器用さ) proficiently 手先の器用さ。武器の取り回し。俊敏さ。

 LUC(運) luck レア泥率アップ。クリティカル率アップ。


 基本的に近接職は武器を振るう為の筋力(STR)と基本的に最前線に立つため、相手の攻撃に耐える為の耐久力(DUR)に振られることが多い。

 遠距離職の場合は大型の武器を使用する場合には筋力(STR)を、もしくはクリティカルヒット狙いで(LUC)、そして必ず必要な武器の取り回しに関連する器用さ(PRO)を重点に振る。

 魔法職は魔法の威力、そして魔法発動の為のTP確保の為に知力《INT》が必要となり、更には同じ魔法への対抗あるいは魔導書の解読の際に必要な精神力(MIN)に振ることが多い。

 機械系は機器の操作に必要な知力(INT)と、手先の器用さを求めて器用さ(PRO)を上げていくというのがメジャーな型となるだろう。


「――とまあ、彼らの場合我々と同じ筋力(STR)に割り振っているため、武器を振り回しているだけでもそれなりの攻撃となりうるのですよ」

「……つまり、シロ先輩が俺にレベルアップの際には筋力(STR)耐久力(DUR)を重点的に上げておけって言っていたのは――」

「はい、そういうことです」


 一を聞いて十を知るというほどではないものの、ユーゴーはここで改めて説明を受けたことで、それまで気が付かなかったことに合点がいくようになっていた。


「……そろそろどちらかが仕掛けますよ」


 ――それまでの均衡が、次の一瞬で打ち崩される。


「――剛殻割ごうかくわりッ!!」

「ッ!?」


 それまで大剣で攻撃を受けてきたヴェイルが、ここで初めて回避の選択肢を選ぶ。そしてそれは正解であったことを、一撃で初撃以上のクレーターができてしまったことで証明となっている。


「ちぇっ、これで武器ごと頭蓋を叩き割ってやろうと思ったのになー」

「流石は大斧、破壊力はどの近接武器にもまさると言っても過言ではありませんね」

「武器じゃなくて、あたしの実力を認めて欲しいかなー」

「残念ながらあの方であれば、ここまで私が逃げたところで攻撃の余波である程度のダメージを稼いでいましたよ」

「なんだよ、それ。ずるじゃんかー」


 しかし事実として、ヴェイルが大斧を持った戦士を相手取った経験は並大抵のものではないことだけは揺るがない。それもこの世界における最強格の戦士の一撃を、その身で何度も体験してきたから言えること。


「……はっきり言って、この程度でうちの元団長に勝とうなどと、片腹痛いと言わせてもらいます」


 言葉ではそう言っているが、ヴェイルの目に一切の笑みは宿っていなかった。

 この程度の力で元団長を引き合いに出す横暴、あまつさえこの程度の破壊力で同じ暴風を名乗ることなど、おこがましいにもほどがある。


「私も一時期“暴風”と名のついた異名で内外から呼ばれたことがありましたが、自分にとってはおこがましいとして、都度(つど)訂正を重ね、こう名乗らせて貰うことにしたのです」


 ――“穿うが烈風れっぷう”、と。


「……ふーん、ちょっと弱そうな名前だね」

「ですがこれで私にとっては充分です。名は体を表せていますから」


 いつしかこの世界で呼ばれるようになった、破壊力自慢の近接職のプレイヤーにつけられる異名、“暴風”。しかし彼にとって“暴風”たり得る存在は、たった一人しか認めていない。


「それでは、僭越ながら“烈風”の名において、貴方を蹂躙させていただきます――」


 そうしてヴェイルは距離を取って静かに剣先でシャルトリューの喉元に狙いをつけ、片手で突きの構えを取る。


「あれは、まさか!」

「流石は元レイピア使い。噂に聞いていた通り、恐ろしい組み合わせを考えつくものです」


 世界最速の剣技はどこにある? と聞かれたら、真っ先に出てくるのがフェンシングであろう。その突きのスピードは常人には見切ることなど不可能。

 しかしそれはあくまで細長いレイピアだからこそ成り立つもので、現実にはそれ以外の武器では決して成し得ない。


 ――そう、現実世界においては。


「――ピアッシング・アインッ!!」

「っ――」


 ――ここに現実世界を超越した、身の丈ほどある大剣を使った最速の突きが放たれる。


「がっ!?」


 正確に喉元を貫く一撃。その威力はただ貫くだけでなく、有り余る力でもってシャルトリューの体を遥か後方まで突き飛ばしていく。


「……まずは、第一ラウンド」


 観客も皆唖然とする中、上空に映し出されたシャルトリューのLPが無情にも消え去っていることに未だ誰も気が付いていない。


「……なっ、なんとぉー!? さっきの拳王の意趣返しかぁー!? ヴェイル選手がなんと、たった一撃の下シャルトリュー選手を遥か彼方へと吹き飛ばしての決着だァアアッ!?」


 MCの実況によって皆の理解がようやく追いついたのか、歓声の声が遅れて聞こえてくる。


「や、やっべーなあいつ! 流石はグスタフの旦那んとこの元一番弟子!」


 アウェイであるヴェイルに対して、クロウが叫んでいるような様々な称賛の声が飛び交う――が、しかし、それを是としない者もまた、再び立ち上がろうとしている。


「……っ」

「……どうしましたか? お得意の軽口もここまでですか?」

「――っ……っあ……っはぁー、やっと潰された喉が治ってきたわー」


 自動回復リジェネによって肉体を復活させながら、口に溜まった血をその場にペッと吐き捨てながら、シャルトリューはそれまであった余裕を全てかなぐり捨て、真面目な表情で初めて相手と真剣に向き合う。


「確かに暴風を名乗るのはおこがましいかもね……でも、少なくとも貴方の持つ称号である烈風には届きそう」

「この期に及んでまだ面白いことを言いますね。いいでしょう」


 ――烈風にすら遥か遠く届かないことを、次のラウンドで決定づけて差し上げます。

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