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第二章 ファイブ・フィスト・ファイト 4話目

「両者ともに相対したところで、その様子はまるで正反対! かたや余裕の表情のまま、かたやこの世の終わりのような絶望を浮かべて、第一試合が今、始まろうとしています!!」


 周囲への被害を防ぐためか、闘技場を覆うように堅固な防護魔法が張られだす。そしてそれとほぼ同時に投影魔法に大きく表示される、「ROUND 1」の文字。画面に映し出される互いの顔の下には体力(LP)とTPが可視化された二本のゲージまでもが表示され、まさに格闘ゲームと同じような様相をなしていく。


「やるしかない……!」

「ンフフフフ……」


 剣を構えて戦闘態勢を取るユーゴーと、未だに一切の構えを見せない拳王。それぞれの視線がぶつかる中、MCの掛け声によって、遂に第一ラウンドの火蓋が切って落とされる――


「ラウンドワン! ――ファイトッ!!」

「いくぞッ! ハァアアアアアア――――」


 意を決して剣を振りかぶり、ユーゴーは真っ直ぐに向かって行く。しかし拳王はまだまだ構える姿勢を見せず、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべてユーゴーが向かってくるのをじっと待っている。


「フフフフ……」


 素早く飛び上がり、剣を振り下ろす。ユーゴーはそうして拳王を一刀両断することで、決着を決めようとしていた。


 ――しかし次の瞬間、その決意ははるか遠くへと消えていくことになる。


「――ッ、グハァッ!?」

「っ!? 何が起きた!?」


 いつ何が起きたのか。コロシアムで観戦していた者のほとんどは、理解は追いついていなかった。

 拳王は拳を前に突き出したという結果だけを見せており、そしてユーゴーもまた身体を遥か後方――なんとコロシアムの壁にまで吹き飛ばされ、叩きつけられたという結果だけを残している。


「おい! 今のカメラで撮れてるのか!?」

「ととと、撮れてるっていうか、次の瞬間には映像差し変わってるレベルなんですけど!?」

「……流石です。拳王様」


 コロシアムでの観客の反応は、大きく二つに分かれていた。一つは何が起きたのか分からない、理解が追い付いていないという混乱の声。そしてもう一方は、拳王の実力をただただ讃えるような、歓声と感嘆の声。

 このように二分するような反応は、試合を見ていた控室内でも同じように起きていた。


「K.O.!! 第一ラウンドを制したのは我らが拳王!! 相変わらず初見殺しともいえる一撃だーッ!!」

「……ななな、何でござるか今のは!? 見えなかったでござる!」

「……人が、あれほど吹き飛ぶなんて……」

「確かに今のを見切るのはちょっと難しいように思えますが……恐らく、貴方は見えていたんじゃないですか?」


 シロガネにヴェイル、そしてシロまでもが攻撃の断定に難色を示す中、一人だけ拳王の動きを見切っていた男がいる。


「あの野郎……中々舐めた真似をしてくれたようだ」

「一体どのような攻撃を仕掛けていたのですか?」


 ラストですら完全に見切ることが出来なかった拳王の攻撃、一体どのようなものだったのか。


「デコピン一発で、あそこまで吹き飛ばしやがった」

「でっ、デコピンって、あのデコピンでござるか!?」


 シロガネは確認するかのように、親指で中指を押さえて弾くような動作を繰り返し、拳王がやったことの再現を確認している。


「ああ、そのデコピンだ」

「ということは、彼は指一本であそこまで弾き飛ばされた、と」

「そうなるな……ったく、ステータス割り振りはどうなっているんだよ……」

「最低でも、というより最高評価のSSSを遥かに超えるような筋力(STR)という認識で合っていますかね」


 このゲームにおける各ステータスの評価は次の通り。一番下からD、C、B、A、S、SS、SSSと七段階の評価。

 おおよそ100レベル前後でステータスの振り方次第で一通りSが揃うが、そこから先のSS、SSSととがった能力値にするためには相応に割り振らなければ評価として届かないようになっている。


「……恐らく、測定不可のEX枠だろうな」

「EX……? はて、聞いたことがありませんね。ジョージさんは何か知っているのです?」

「ああ。俺の今の状態……“阿頼耶識アラヤシキ”発動中においては、俺のステータスのうちの一つが、そのEX評価――つまり測定不可になる」


 そうして説明するジョージの目には、いつの間にか翡翠色の残光が宿っていた。そして味方同士のステータスの確認をするためにステータスボードを開いたシロは、そこに表示されているジョージの(LUC)の評価値を見て、初めて驚愕の表情を浮かべる。


「……これがこの一ヶ月の特訓の成果ですか」

阿頼耶識コレも大きいが、まだ色々と武器も防具も揃えている」

「とはいえステータス評価の極致としてEX評価があることと、そこに貴方がたどり着いたことに対しては驚嘆せざるを得ません」


 確かにこれほどまでに至っていたとなれば、一ヶ月程度待つ甲斐もあったものだと、シロは味方ジョージに対して敬意を表すれど、妬むことは一切なかった。


「ボクもうかうかしていられません。レベルは同等になっているとはいえ、までまだまだ強くならないと……あ、あとEX評価の条件とか後ほどいろいろ情報提供して頂きますからね」

「少しはへこむかと思ったが、向上心であんたに勝てる奴はいないな」

「ステータス一つでいちいちでへこんでいる暇など、今の我々にはありませんから。それに――」


 シロが見やる先――モニターに映し出されているのは、ボロボロになりながらも観客席から元の位置に戻り、再び剣を構えようとするユーゴーの姿だった。


「――あんな絶望的な状況であろうとも、心が折れていない者もいますからね」

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