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第二章 ファイブ・フィスト・ファイト 3話目

「ンフフフフハハハハッ……まあ、流石に初っ端から噂の元刀王ヤツが出てくることもねぇかぁ」


 それは王の持つ威圧感か。それとも本当に身体的差によるものなのか。

 明らかに二倍以上の体格を持つ大男が、ユーゴーの目の前に確かに立っていた。


「くっ……!」


 畏怖するあまり開始の合図を待つことなく剣を抜いて構えを取っているユーゴーであったが、拳王は一切それを意に介すことなく余裕を持った表情で見下ろしている。


「それにしても失敗したぜぇ。最近は俺のサプライズ出場を警戒してか、大将戦にクソみてぇな雑魚ばっかりおいてくる輩が多かったからよぉ。それならばと思って初っ端から出てきてみたが……どーも俺は運が悪いらしい。またしてもこんな雑魚の相手をさせられるとはな」

「運が悪いのはどう考えてもユーゴーの方だろ……畜生ッ! 拳王の奴、最初からこっちの話を聞く気がねえってことか!」


 遠くで吠えるクロウの言葉など当然耳に届くはずもなく、あまりの出来事を前にしたユーゴーは、ただただ剣を構えるその腕を震わせる他なかった。

 ――拳ひとつ振るわれるだけで絶命は免れないと思えてしまうほどの、圧倒的な身体能力の差。体格、筋肉、そしてオーラ。その端々の全てから、この戦いが負け戦なのだとユーゴーは理解した。


 ――正確に言うなら、“理解してしまった”。


「……ある意味、シロさんの望み通りになったな」


 そしてその光景は、当然ながら控室でも見ることができていた。冗談半分のつもりが現実となってしまったことを前にして、ジョージもシロもある考えに至ってしまう。


「え、ええ……ですがこのままだと……」

「ああ。まずいな……このままだとユーゴーの心は――」


 ――確実にへし折られる。


「くっ、こうなったら今からでもメンバー変更を――」

「それは無理でしょう。もはや互いに顔を合わせたこの状況で、待ったなんて聞くはずもありません」


 ヴェイルは即座に変更が効かないかと案内人に打診するが、案内人が答えを返すまでもなく、同じメンバーからそれを否定されてしまう。

 強者との戦いを望む拳王にとって、存外にもメンバーチェンジの提案は通用するかもしれない。しかしそれをやったことにより周囲から向けられる視線はどうなるのか、簡単に想像ができるだろう。何よりもメンバーを交代した上での敗北など、それこそギルドに対する評価は地に落ちかねない。


「恐らくこれから2ラウンドかけて我々に見せつけられるのは、単なる殺戮ショーとなるかもしれませんね」

「それも圧倒的な力の差の上で行われるものになるな」


 一回戦は単なる蹂躙――それは誰にも動かすことができない事実。そして更に追加される情報は、今度は控室にいるメンバー全員を驚かせることになる。


「……っ!? なっ!? ありえん!? あの拳王、どういうことだ!?」

「どういうことって、何か分かったのか?」


 情報収集、裏工作、そして暗殺を生業とする忍者にとって、相手を解析してレベルを知ることは初歩中の初歩の考え。そしてシロガネはそのセオリーに則って、画面越しとはいえ映っている拳王の姿を見て、その実力レベルを推し量ろうとしていた。

 そうして返ってきた解析結果が想像の外側にあったのか、シロガネはまず否定の言葉を並べざるを得なかった。


「教えてくれ。何が分かったんだ」

「……拳王のレベルは、我々の中の誰よりも高いレベルだ」

「確かに、前作でも国を治める王ともなれば、七つの大罪(セブンス・シン)と同じ150レベルではありましたが……その様子ですと、それを超えていると言いたげですね」


 既に何かを察したのか、シロはこれから口に出されるであろう衝撃的な言葉が予測していた。

 そしてシロが予想していた通りの言葉が、シロガネによって現実と化していく。


「……拳王はレベル200の、正真正銘の化け物だ」

「レベル200!?」

「っ!? 確か、主様が私の強さを数字で教えてくださった時は――」

「レベル150だ、ラスト。そしてあいつは……恐らくお前より強い。そして下手すれば、この俺よりも」

「……恐らく、レベル200が今作におけるNPCの最大レベルでしょうね」


 意外な形で発覚することになった、NPCのレベルの上限値。それはこれまで内外ともに認めていた最強格であるラストのレベルを大きく上回るもの。


「NPCの成長性……確かその為に、今回彼女を最終戦に採用しましたよね?」

「……ああ」


 そして現時点でシロがすぐに考え始めたのは、今後の戦術魔物としての、ラストの運用方法についてだった。


「この戦いの結果次第では、難しくなるかもしれません」

「……そうかもしれないな」

「――ッ!」


 シロ、そしてジョージの両名による、諦めの入ったような会話。それを耳にして一番ショックを受けたのは、他の誰でもない、NPCであるラストだった。


「お……お待ちください、主様。私は、まだ――」

「ん……? あ、いや、違う! そうじゃない! 落ち着けラスト。シロさんの考えはともかく、俺は別にお前を見捨てるつもりはない。どちらかといえば、これからはお前の安全を考慮しての丁寧な立ち回りが必要になってくると考えていただけだ」

「さりげなくボクを悪役に仕立て上げましたねジョージさん……それはともかく、現状は貴方よりも強い戦術魔物はうちにはいませんし、かといって戦場で見かけたこともありません。もしかしたら王だけの特例かもしれませんから、まだ結論付けるのは早いかと」


 そうは言っても先ほどの様子からして、今後ユーゴー以上に足を引っ張る存在となり得るのは、全く成長性のない自分(NPC)になりかねない。


「……絶対に、勝たなければ……」


 誰にも聞こえないよう、下を向いてポツリとつぶやく。

 ラストの焦る気持ちは、この瞬間から少しずつ、大きくなっていった――

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