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第二章 ファイブ・フィスト・ファイト 2話目 Dividing Heats

「――要するに互いに相手を知られないよう、サプライズを演出しているってことか」

「あるいは、勝ち方次第で相手の方が途中からでも本気を出せるようにしているのか……とはいえ、二戦目に誰が出るのかは向こうから喋ってしまっているようですけど」


 チームの控室に案内されたジョージ達一行は、備え付けられてあるモニター型の魔道具に映る映像を横目にこの先の戦いについて最後の作戦会議を行っていた。


「どっちにしても、今更こちら側の順番を変えるつもりはありません。恐らくは向こうにとってもそうでしょうし。それに順当に行けば最後に出てくるのが一番強いプレイヤー……可能性としては、蹴王しゅうおうあたりでしょうから、最初に出てきた相手次第である程度の強さの予測は立てられるかと」

「ああ、あいつか。確か以前にシロさんと戦った奴か」


 この世界ゲームにおいて、王という称号は大きく二つに意味に分けられる。一つは導王や拳王といった、文字通り国を治める王としての称号。そしてもう一つは、かつてのジョージが名乗っていた刀王や、そして今回戦いの可能性として挙げられた蹴王といった、その職や技術スキルを極めた者が名乗ることを許される称号である。


「蹴王か……確かラストもその姿は見たことがあるよな?」

「はい。確かに覚えております」


 今作において王を名乗る者となってくれば、前作における最強格のラストですら、レベル的な意味合いで互角の可能性が出てくる。そして互角ともなってくれば、勝敗もどちらに転ぶかは予想がつかない。


「となると、できれば早々に三勝しておきたいところだが……」

「ふっ! ふっ! できる限り動けるよう、準備運動は念入りに!」


 ここでジョージの視線が先鋒を任された男の方へと集められる。視線の先には、準備運動がてら体を動かすユーゴーの姿があった。本人の熱の入り様とは正反対に、ジョージは冷めた様子で現実的な勝敗についてシロに語りかける。


「……なあ、今からでも俺がリザーバーで交代して出ようか?」

「いえ、それには及びません。そもそも彼の勝敗については端からカウントしておりませんので」


 この場において唯一、レベルが三桁に至っていないプレイヤーであるユーゴー。先日シャルトリューが言っていた足を引っ張るレベルとは、まさに彼の事を指していた。


「レベル92……これだったらNPCとはいえキョウでも連れてきた方がマシだったと思うが……そもそもカウントしていないとはどういう意味だ?」

「フフフ……理由を述べるとするなら、貴方が相方に期待している事に似ていますね」

「……自分自身の成長か」


 それはレベルの事を指すのか、それとも本人の意識の問題なのか。どちらにしても、現在の状況において、ユーゴーにはまだ真剣さが欠けているようにシロの目からは映っていた。


「彼はまだ、この世界をあくまでゲームだとしか見ていません。当然ながらそれはそれで正しいのですが、ここはシステマの言葉を借りて言うならもう一つの世界。戦いで気を抜くことは、そのまま死を意味します」

「そんなことをあいつはレベル92になっても理解をしていないと?」

「なまじ元々の身体能力が高い部分がありますからね、彼には。こちらに来てから特殊能力スキル等はを用いず、いわゆる縛りプレイのような状況でここまでやってきているんですよ」

「……つまり普通に剣を振ったりするだけで敵を倒して、回避も全てフィジカルでやってるってことか?」

「はい」


 シロが言うには剣士としての取得した《スキル》を使わず、ひたすらに回避あるいは攻撃を防御して、全てただの“斬撃”で攻撃することでここまで来たのだという。


「マジかよ……どんな化け物だよ……」

「確かにボクもそう思いました。スキルを効率よく使うことも教えたのですが、どうも身についていないらしく、本当ならここまでで110レベル位にまでは仕上げるつもりだったのが――」

「いや一ヶ月でその計画プランも滅茶苦茶だよあんた」


 現実世界では普通の会社員のジョージにとって、それはシロの口から聞かされない限りは嘘だと断定するほどにあり得ないことだった。

 まさかの無意識縛りプレイでここまで来ているという、ある意味での猛者。むしろゲーマーではない不慣れなプレイヤーだからこそ、そういう考えに至るのだろうか。


「ボクとしてはここで同格以上のスキルを使いこなすプレイヤーに負けて欲しいと思っているくらいですから」

「そういえば、負けても今回抹消にならないんだっけか?」

「そうですね。ゲーム内特別ルールによるイベント扱いらしいので」


 曰く、今回の試合は格闘ゲームに近いルール形式でのバトルルールが組まれているとのこと。3ラウンドの一対一による戦闘。相手の体力(LP)をゼロにした方がラウンド奪取することになり、先に2ラウンド先取した方の勝ちとなる。当然ながらラウンド制なだけあって、1ラウンド負けたからといってそのまま抹消デリートされる訳でもなく、体力(LP)も最大値まで回復した状態で次のラウンドに臨むことになる。


「しかしボクがこのルールで唯一気がかりなのが――」

「ああ分かった。TPがほとんど無しの状態からスタートっていうところだろ?」

「その通りです。このルールだけは彼に味方していると言っても過言ではありません」


 あらゆる手段により習得される固有のスキルの数々。それらを使うためには、基本的にはテンションポイント(TP)と呼ばれるポイントを消費することが必要となる。


「防御されたかどうかは関係なく、攻撃を相手に当てるかあるいは時間経過で溜まっていくという今回の特殊ルール……ユーゴーが先手を取れれば、万が一そのまま押し切って勝ってしまう可能性が出てきます」

「そうなると、縛りプレイは間違っていなかったという変な確信を持たれてしまうってことか」

「そうなりますね……というのも、これまでも何度か紛争地帯に放り込みましたが、スキルを使わずに生き残っているあたり、ある意味では彼にとって正解なのかもしれませんが」


 そうしてシロはどうすれば修正できるのか、と言わんばかりに大きなため息をつく。


「百歩譲ってレベル100にいかないまでは、知恵と自力で何とかできるかもしれません。しかしレベル100を超える面々は、いずれもこの世界ゲーム内では別格の存在となり得ます」


 PVPを基軸とするこのゲームだが、ありとあらゆる手段で経験値を得ることができる。しかしやはり一番経験値を稼げるのは戦闘である。

 そうして途中で戦争の中で倒れていくプレイヤーが多くいることを想定してか、あるいは前作から引き継いだプレイヤーのことも考慮してか、シロが言うにはその気になればレベル99までは一ヶ月で簡単に到達できるのだという。

 しかしそこから先――レベル100を超えてくると、途端に話が変わってくる。まず最初に次のレベルまでの経験値が、基本的に同じレベル100以上を相手としない限り、レベルアップまでの総量から考えれば雀の涙程度の経験値しかならなくなってしまう。

 そしてその相手がプレイヤーは当然ながら、NPCまでもが段違いの強さを見せつけてくるようになってくる。


「できればこのレベル100の直前で、技の重要性などこのゲームのコツを掴んでいただきたいものですが――」

「シロ先輩!」


 そうこうしている内に最初の一戦が始まる時間となってしまったのか、話に割って入るようにしてユーゴーが声をかけてくる。


「はい、どうかしましたか?」

「いえ、まだまだ未熟な俺を、こんな戦いの場に出してくださるなんて、改めてお礼をと思いまして!」

(お礼よりも教えたスキルの使い方をいい加減覚えてもらった方が、よっぽど嬉しいんですけどね)


 相手の気持ちなど知る由もないユーゴーは、この戦いに勝つことだけを考えて話を続けている。


「ここで勝てば、ようやく先輩のギルドに正式に加入できるんですよね!」

「ええ。確かにその通りです」

「というか、入れてなかったのかよ」

「お伝えし忘れていました。彼はあくまで、仮加入です。まだ課題を一つ終わらせていないので」


 シロから残された最後の課題。それは一切のアドバイスをもらうことなく、相手に勝ってみせること。


「正真正銘、ボクから今回言うことは何もありません」

「はい! 頑張ってきます!」


 そうしてユーゴーは闘技場までの案内人の後を追うようにして、控室を去っていく。


「……ハァ、いっそ拳王とでもぶつかって、完膚なきまでに叩きのめされれば身に染みて分かるのでしょうが――」

「一戦目から拳王が来るわけないだろ……流石に冗談きついぞ」


 そうした前振りとでもいうような、他愛のない会話を交わした結果――

 ――ユーゴーはこの後、とんでもない相手を目にすることになる。



          ◆ ◆ ◆



「――嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だッ!! こんなのあり得ない!」


 ユーゴー自身も通ってきた入場口。その反対側に立っていたのは、ユーゴーですら注意事項として聞かされていた存在。


「いっ!? マジかよ!?」

「うっひょぉー! 初っ端から取れ高マックスじゃーん!!」


 観客席にいたクロウは目の前の光景が信じられないあまり思わず立ち上がり、そしてイマミマイもまた、カメラ越しに興奮の声を挙げている。


「サプラァーイズッ!! 皆さん驚きでしょう!! 挑戦者、ユーゴー選手の反対側! 青龍の方角から姿を現したのは――」


 ――我らが最強の王、拳王その人だァアアアアッ!!

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