第二章 ファイブ・フィスト・ファイト 1話目
「レディースエーンドジェントルメーンッ!! ついに始まった拳王への挑戦ッ!! 不定期開催のビックイベントッ!! Fッ! Fッ! Fォオオオオッ!! 早速だがこの日最高のショーを魅せてくれるであろうチームの紹介だァッ!!」
昼間の砂漠の熱気よりも更に異質な、過剰なまでに盛り上がった熱気がコロシアムを包み込んでいる。客の入りについては既に満員御礼を通り越しており、立見席ですらすずなりに人が密集している。
そしてその大半が期待しているのは予定調和の展開――つまり我らが国の誇りである拳王チームの勝利を願う、ナックベアの国民であった。
そんな中で半そでの作業着を着た男が、薄着を着た年の離れた少女を席へと誘導している。
「よっこいしょっと。こっちだこっち! 早く座るんだ01号!」
「よいしょっと! 楽しみだね兄貴!」
男の名前はクロウ。ジョージ達が所属するギルド“殲滅し引き裂く剱”の中でも数少ない技術者職を担うプレイヤーであり、ジョージが現在愛用しているグランドウォーカーと呼ばれるサイドカー付きバイクを一から設計して作り出した張本人でもあった。
そしてクロウの隣にちょこんと座っている少女は、彼が生み出した人造人間と呼ばれる存在。名前はそのまま、01号と名付けられている。
「兄貴はどっちが勝つと思う?」
「どっちが勝つって、俺達としてはうちのギルドに勝ってもらわないと困るんだが」
周囲の声は拳王側一色といった中で大きな声では言えないものの、クロウにとっては当然自身が所属するギルド側が勝って欲しいと願っているのは言うまでもなかった。
そしてこの場にもう一人、拳王側に立つわけでもなくかといってギルドの側に立つ訳でもないが、今回ギルド側の人間として招待されて座っている一人の配信者の姿がクロウの隣にあった。
「いやーこれは凄いッスねー! 動画のネタとして最高ッス!」
「頼むから俺達を写すのは止めてくれよ。それにあんたは一応名目上、俺の護衛として雇われている体なんだから、いざという時は動画撮影よりも――」
「分かっているッスよぉ! 安全は何よりも最優先! じゃないと動画が炎上しちゃうッスからねー!」
01号の隣に座っているのは、かつてギルドの独占取材という形で動画の共同制作をしたこともある有名(?)な動画配信者、イマミマイだった。既にこの会場の熱狂ぶりに毒されているのか、興奮気味でカメラをまわして早速撮影を行っている。
「しっかしこれは一応ゲーム内イベントという形だけあって、動画撮影フリーになっていて助かるッスよー。折角とっても音声オンリーの全面モザイクとか何も面白くないッスからねー」
オッドアイのカラコンに、魔導士を誇示するようなローブ姿。傍目に見れば怪しい挙動をする女性にしか見えないが、こう見えて戦場においても自衛できるだけの力をそれなりに持っているらしく、今回は取材の為の席の確保と引き換えにクロウの護衛を頼まれていた。
そしてもう一人――
「別に護衛を頼まなくとも、貴方がたは拳王の客人。私がいる限り、不意を打たれることはありません」
「そうは言っても一応はお互いに敵同士、自前で護衛を雇うことくらい許してくれよ」
クロウの隣に座っていたのは、坊主頭の修行僧。一目見て拳王側の人間と分かる彼の目的は、今回の対戦相手側の客人であるクロウの護衛だった。
「拳王様曰くこの戦いは至高の戦いとなり得るものだと期待を高ぶらせており、そして半端な者にこの戦いの水を差されたくはないとして、我々を使わしております」
「そんなの、外の見張りの配置を一目見ればわかるさ」
この場に座っていられるのは、見張りによる厳重な検査をクリアした者だけ。武器類の持ち込みは一切禁じられており、魔導具も同様、そしてクロウが相棒としている人造人間ですら、本来であれば立ち入り禁止となり得るものである。
「01号が当初は入れないとなった時にはどうしようかと思ったくらいだ」
「言っておきますが、私が護衛対象としているのはクロウさん、貴方だけです。もしもの際には貴方が持ち込んだ人造人間に関して、その一切考慮いたしませんのでご容赦を」
「はいはい、分かってるって」
修行僧の男の忠告をあしらうように返事を返しつつ、MCによって更なる熱狂の声が沸き上がっていくコロシアム中央へと目を向ける。
「さてぇ! 今回戦う五人を紹介――といきたいところだがぁ!? なんと今回は我らが拳王様の命によってぇ、戦うその瞬間まで互いに一切の紹介ナシ!! サプライズありありのスペシャルマッチだぁああああ!!」
「おおっ!? マジか!?」
「ってことは、まさかの!?」
「ああ! あるかもしれねぇ!」
いつもであれば、この段階で全ての対戦カードが明かされる。だが今回コロシアムの中央上空に投影魔法によって映し出された映像には、全ての対戦相手が“???”で表示されている。
「まさか、それほどまでにこの戦いを楽しみにされているというのですか、拳王様!」
「……まさかとは思うが、拳王直々にサプライズ登場とか、そういうんじゃねぇだろうな……?」