夕ヶ丘高校雑談室
「おい、西島、おにぎりの具材何が好き?」
放課後の空き教室。去年と比べて1クラス少なくなった元三年E組であり現実習室Aの片隅で一人で勉強していたはずの俺の目の前には、上履きのかかとを履きつぶし、椅子の背に対して正面に座る高木がこちらを見て聞いてきた。高木がこの教室に来ていると言うことは僕にとってこの会話が放課後のラストターンである。
「え、何。急におにぎりの具材?『しゃけ』かな。『ツナマヨ』も悩ましいけど。」
僕はノートに乗る消しカスを手で払いつつオーソドックスな回答をしておいた。大概こう言う時はメジャーなどこのコンビニでも見るおにぎりの具材を言うべきである。
「おお、西島がこう言う時『唐揚げ』とか『いくら』とか言い出すせこい奴じゃ無くて本当によかったわぁ。」
どうやら高木のお眼鏡にかなったらしい。
「あー、なんか好きなおにぎりの具材聞いてるのにそもそもおにぎり無くても成り立つ具材を言うのはちょっとせこい感じあるもんな。おにぎり専用三流食品群から選ばないと。」
そして少し真剣モードになった高木がこう続けた。
「で、西島。こっから本題なんだけど、おにぎり専用三流食品群エースである『おかか』おにぎりをさっき購買で買って思った事なんだけど、『おかか』っておにぎりの具以外で聞かないよな?でも俺は『おかか』食った事があるし味も理解できる。でもこいつはおにぎりの具材でしか俺らの前に現れないんだよ。『おかか』って何もんだ?」
どこで真剣モードになってんだと言うツッコミを飲み込み、ノートや参考書を片付けの手を止めて真剣に向き合うこととする。
「確かに僕も『おかか』はおにぎりでしか聞いたことないな。でも『おかか』を認知している。」
「だろ!なんかちょっと怖くなってこないか?」
いや、怖くはねーよ。と言うツッコミもやはり野暮である。放課後に男子二人が『おかか』について語る一見無駄そうで、しっかり考えても無駄な時間を過ごすこと僕たち高校生の特権である。
おかかについて考えてみた。あれ、『おかか』についてあまり知らないのでは???少し不安になりつつ『おかか』情報を投じてみる。
「カツオ節、、、だよな?」
「それは分かるだろ。」
「え、急に冷たくするじゃん。今『おかか』とは?と言う話題に乗ってあげてるんだからちょっとくらいカツオ節であるかどうか不安になっても良くない?」
「流石にそこは分かってたうえであえて『おかか』を怖がるってのがいいんだろうがよ。カツオ節である事は分かってないとこの先の戦いについていけないぞ?」
この先僕たちに待ち受けている受験戦争には少なくとも必要はないと思うが。
そして、僕は高木がしたタブーについて流石に文句を言いたくなった。
「いや、「あえて」は言っちゃだめだろ。それに話題が弱いって。『おかか』についての話題で怖がる男子高校生の構図どちらかと言うとサムいし、まず先におにぎりの具材から話題を切り出す小狡い感じも鼻につくわ。しょーもないワンクッション挟むなよ!」
「なんだと!お前もちょっと乗ってたじゃねーか。小狡いワンクッションこそが良き会話へのワンステップだと思ってやってんだよ!そもそおにぎり専用三流食品群ってなんだよ。そんでもって『しゃけ』はおにぎり専用三流食品群じゃねーだろ!『しゃけ』は普通にメインはれる一流食品群だわ」
「いや、僕は『しゃけ』はおにぎり専用三流食品群だと思うね。おにぎり時の『しゃけ』とメインはる『しゃけ』は全然違うし。三流食品群ですぅ」
「おにぎり専用三流食品群ってなぁに?」
!?
実習室の入り口でおそらく本日の鍵当番であろう中野さんが尋ねてきた。
ここで僕と高木は急に恥ずかしくなりお互い目を見合わせてアイコンタクトでこの件は引き分けで終了することにした。男子高校生の面白い風雑談なんて女子に聞かれたくないトークナンバーワンである。
「あ、いや、その、、、僕らでおにぎり何が好きー?みたいな話をしててね、、中野さんは何が好き?」
話を逸らそうとして死にたくなるような下手な返しをしてしまった。
「えーw、なにそれ、私は『いくら』が好きかも」
「俺も俺も!『いくら』美味いよね。てか、中野さん今日鍵当番なの?俺らもう実習室出るわ!んじゃ明日ねー」高木が唐突に手のひら返しを決めて本日の雑談は終わりを迎えた。中野さんは決してせこくない。
くだらない僕たちが悪いのだ。男二人のくだらない会話を最後に実習室は鍵を閉められた。




